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剣神と黙示録 ~農村の少年が一柱の神になるまで~  作者: わたあめとは哲学である
約束をした日

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第17話 上位種

「んっ」


 少年は事前の取り決めに沿って、左手をグーの形で上げる。それは、完全に止まれの合図だった。


「見つけたけど……あれは何だ……?」


 数十メートル先、日の当たる小山にいるのは魔狼。しかし、決定的に違うのは、その大きさと額に見える角の数。少なくとも同じ種であるようには思えなかった。


「あれは……上位種だな。危険だ、何にせよ下がるぞ少年」


 命令絶対遵守のハンドサインを見せながらこれを伝えるジャガン。

 完全な状態のパーティーなら狩ることも考えたが、今は少年や復帰したばかりのリークがいる。その事は全員が理解していたため、命令に疑問を持つことなく下がり始めた。


 (上位種……上位種……進化?)


 下がりながら少年は、どこか聞き覚えある単語について思い出していた。


 (あ、あの時の)


 その記憶は、ある日の訓練が終わった時の事だった。


「進化と言えば、魔物というのは、文字通り進化する事がある。姿や性質が大きく変わるこれは、人間や動物も何万年単位で行っている。前にそう言ったと思うけど、魔物の場合は突拍子も無く、数分で行う。めったに……」


 少女の教えは、その対策まで続いた気もするが、思い出せない。少年は、対策と言っても出会うまでの注意点だったと思うし、こうして見えている今は関係無いかと、その記憶を振り払った。


「…………」


 背後からの突風。それに乗せられた葉はなびき、視界は広がる。どんなに体勢を低くしても、身を隠す葉が無ければ、なだらかな丘の上にいるアイツからすれば同じ。見えてしまった。見られてしまった。その時の、息を飲むような沈黙は誰のものだろうか。


 そして、それを切り裂く遠吠えは響き渡る。 


「グゥルウァッッー!」


「やるしか、無いようだね……」


 仕事にしては、予想外。それでも今までの経験からすれば、倒す事は不可能では無い。冒険者として慣れている四人は、1対多、多対多での戦闘の形へと、速やかに移動していた。


「ねぇ! もっと下がっても良いの……って、どこ行くの?」


 カリルは、自分達の前にいる後輩に向かって、安全な場所にいることを提案する。しかし少年は、四人のしっかりとした位置取りを一瞥すると、四人から直角に位置する草むらへと、移動していく。


「作戦を思い付いた。成功失敗どちらにしても、そっちは戦う気でいてくれれば良い」


 リークの、魔法を使うタイミングだけは気掛かりだが、これならば独断行動しても彼らへの影響は最小限だろう。そう思える時点で少年は、作戦が成功することについては、微塵も疑っていないという事だった。




 獲物を見つけた狼は、ロケットのように林の中を突き抜けていた。そうして十数秒、ある違和感に気づく。一人いなくなった。それを認識した時には、獲物へたどり着くための最後の一歩として、既に前へと跳び跳ねていた。


 


 少年の目の前に、突然現れたかのように狼が着地する。それだけの速さの物が一瞬で静止したためか、空気が押し出されるようにして揺れ動く。


 (ふっ、迫力があるな)


 少年から見えるのは狼の横っ腹、これだけの大きさだ、毎日食べたとしても一年は持つだろうか。

 そんな悠長な事をゆっくり考えている暇は無い、即座に切り替えて、作戦を成し遂げるために剣を抜いて草むらから飛び出す。



 

 狼は着地の瞬間には全てを理解していた。相手の数や位置、大きさ。左に獲物がいることも分かっている。

 ここからが狩りの仕上げ。獲物は逃げなかった。逃げれなかった。後は喰らうだけだ。

 そう思っていたからこそ、左から飛び出してきた、その足で逃げればいいと思うほどの速さには反応することしか出来なかった。


 

 この時、少年もまた、接近しながら狼の一挙一動には驚いていた。嗅覚や視覚で自身に気付き、反応し、こちらを向くのも想定内。なんなら、作戦の成功がより容易になる。

 

 だが、向きを変えると同時に距離も取られてしまった。ほんの数十センチの、誤差とも言える距離。だけれど、この、呼吸すらも惜しい時間の中であれば、遥かに長い物だった。


(そうか、お前も逃げるのかっ!!)


 さらに距離を離そうとする狼。しかし、この距離ならば、全身を押し込んだバネのようにしていた少年の方が、圧倒的に速い。


「ルゥッ!!」

 

 少年が手に持つ剣は、体に見合った大きな瞳へと突き刺さる。

 

 (まだだ!!)


 これで終われば良い。少年は、まだ足りない距離を、地を蹴り、前に飛び込むようにして稼ぐ。そうして剣先は、目的地である脳へと到達した。


「グ……」


 その直前まで苦痛の声を出していた狼も、命令が無くなってしまえばしょうがない、一瞬にして沈黙を始める。


「ぶっあ……成功、だな」


 意外にも良い毛並みの狼を背に、少年は呟く。その声は、誰が聞いても満足そうな物だった。 

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