第12話 冒険者の男
少年は迷った結果、丁度店に入ってきた男に聞いてみることにした。
「なあ、昼飯奢るからさ、幾つか聞きたい事があるんだけど……良いかな?」
ウェイトレスは丁度、狩人達の皿を片付けていたところで、男の注文を取りに来ていなかった。
「本当かい!? 最近、怪我をして金欠だったからね。何でも聞いてくれよっ!」
歓喜した男の声に、少年は少々萎縮する。それでも、まずは聞こうと口を開くも、視界に入った人により内容が変わる。
「まあ、まずは注文してからだな」
男の声はウェイトレスまで届いたようだ。
「旅をしながら、稼ぐ方法……だって?」
男は魚を口元に運びながら、少年の質問を反復する。
「田舎から出てきたばかりでな。動物の狩り方は分かるから、それを食ったり売ったりしようとは思ってるんだが……普通に金を持っている方が便利だろうしな」
これを聞いた男は、目を瞑り頭を振るようにして、何か無いかと必死に思案する。
その様子に少年は、昼飯を奢っただけなのになと、暖かい気持ちになった。
「んー、やっぱり君の言う通り、森の資源を集めて売るってのが一番かな、狩人ギルドとかぼうけ……相互補助組合とかって知ってる?」
名前から色々と予想はつくが、初耳だった。
「なんなんだ? それ。後半、言い換えたみたいだし」
「あー、名前については少し置いといて、まず狩人ギルドから。このギルドは森の野生動物の数を管理していてね、ここを通さないと動物を狩ったり売ったりしちゃいけないんだ。ちゃんと法律で決まってる」
今まで自分がやっていたことは違法だったのか。少年はそれに気付き冷や汗をかく。
それに勘づいたのか、男は安心させるように手をこちらに振りながら言う。
「もちろん、ここみたいな街だけだからね? 商売目的で一気に狩られると、冬とか影響出ちゃうから」
少年は、安心して一息ついた。
「それに、ちゃんと通せば楽に売れるからオススメだよ」
「さすが、国が後ろについてるだけあるな」
少年は、法律に絶対の力を感じていた。
「それで相互補助組合は、まあ、何でも屋さんかな。誰かがして欲しいことをする代わりにお金を貰えるんだ。荷物運びとか、何々が欲しいとかね。その繋がりで、森の植物とかも買い取ってくれるよ」
「詳しいんだな、お前」
自分が知らないことをスラスラと話す男に素直に感心する少年。
「そんな、街で生きてたら勝手に覚えてるもんさ。まあ、でも、それ以前に僕がそうなんだよね。狩人で冒険者。あ、組合会員」
さすがに少年も毎度訂正されると気になってきた。
「お、やっぱり意外かな。僕が」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、相互補助組合? を冒険者とか言ってるのは何だ? 気になるんだ。冒険しそうな要素も無いし」
「それはね……今は殆ど無いんだけど、昔は、森の奥の秘宝が欲しいーとか、迷宮の奥にある不思議な道具が欲しいーみたいな無茶苦茶な依頼が多くてね、それを誰かが揶揄して冒険者さ」
男はちょっとだけ寂しそうな顔をしながらも、口調は変わらず教えてくれた。
「へぇ、夢があったんだな」
「まあねー。あ、さっき言い忘れたけど、この2つのギルドは国中、世界中にあるらしいから、旅する君には、合うと思うよ」
それがどれだけ凄いのかは、社会について学が浅い少年も、よく分かった。
「稼ぐ方法については了解。次に……」
その後、少年はここに街に住むものなら常識的な、領都の行き方やオススメの宿の位置など細かいことをパッパッと聞いていった。
そして金の稼ぎ方についても決めた。
「俺に合ってそうだし、狩人と冒険者になるよ。色々助かった。飯も食い終わったし、その、ギルドに行ってくるよ。あ、場所は何処だ?」
立ち上がる少年に追従するように、男も動き出しながら言う。
「奢って貰ったのに、大したこと話せてないしね、それに暇だから案内するよ。紹介無しの一見さんには厳しいところあるし」
「良いのか? 助かる」
いざ行くと思うと緊張していた少年は、積極的な男の行動に頭が下がる思いだった。




