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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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96.地獄の空気。




どこまでも広がる、青い空。

周りを取り囲む、木々。

ここには都会のような喧騒はなく、聞こえてくるのは、小鳥のさえずりや、どこかにある川のせせらぎ、木の葉が揺れる音だ。


自然溢れるここで、私は大きく息を吸って、吐いた。


山は空気まで美味しいらしい。


静かで何もない場所。

だからこそ、勉強にも身が入る。


私の後ろ、自然の中にポツンとある宿泊研修施設は、我が鷹野高校が春休みの勉強合宿をする場所として最適な場所だった。


勉強合宿とは、春休み中に行う一泊二日の合宿のことだ。

進学科の生徒は全員参加が決められており、スポーツ科、普通科の生徒は希望制で参加できるようになっていた。


進学科の生徒である私は、もちろん今年もこの合宿に参加しており、雪乃も去年と引き続き、渋々参加していた。




「…はぁぁぁ」




美味しい空気を吸って、また大きく吐き出す。

先ほどからため息が止まらない。


自然の中で何度もため息を繰り返す私に、雪乃は「そんなにため息ばかり吐いてると幸せが逃げるわよ」と、おかしそうに言ってきた。

その表情はかなりあっさりしており、心配のしの字もない。

雪乃らしくて、逆に安心する。


私からため息が止まらない理由。

それは現在進行形でいろいろなことに悩まされているからだった。


一つ目の悩みは悠里くんだ。

私は悠里くんと同じ想いを抱いていない。

だからこそ、別れを告げたのだが、結局私は悠里くんと別れられなかった。

全てを話し終えた後も、私たちは変わらぬ関係を続けていた。


いつものように一緒に昼食を食べ、放課後は一緒に帰る。

私の隣には当然のように悠里くんがいてくれて、優しく微笑んでくれる。


その笑顔が眩しくて尊くて好きが溢れるのだが、その好きは恋ではなく、憧れだ。


そう理解するたびに、果たして私が今選んでいることは正解なのかと胸が苦しくなった。

同じじゃないとわかっていながら、私と付き合い続けることが、悠里くんの心からの笑顔に繋がるのか、と。


悠里くんはいつも私に笑いかけてくれる。

優しく、穏やかに。時には悪戯っぽく。

そんな様々な笑顔の中に、最近はどこか仄暗い気がするものもあった。


その笑顔に気づくたびに、これで本当にいいのか、と自問自答を繰り返した。

悠里くんが浮かべるあの笑顔は、私が願う悠里くんの心からの笑顔なのだろうか。


やはり別れるべきでは。

そう何度も何度も思った。


だが、傷つきながらも私と付き合うことを望む悠里くんを、私は突き放せなかった。


そして二つ目の悩みは千晴だ。


私は千晴が好きだ。

悠里くんとはまた違う、異性へ向ける好意を私は千晴に抱いている。


何故ただの後輩だった千晴に、こんな感情を抱いてしまっているのか、正直わからない。

だが、千晴に告白されて、キスされて、悠里くんとは違う胸のざわめきに、恋を自覚した。


手のかかるところもあるが、憎めない。

マイペースで自分勝手だが、愛さずにはいられない。

まっすぐで自分に正直で、実はこちらをよく見て行動ができて。

いいところもたくさんある後輩。


千晴のことを想うと胸が焦がれるように熱くなり、会いたい、と思う。

千晴に告白されたあの日、不意に奪われた唇の熱が、ふとした瞬間に蘇る。


それでも私は千晴を振った。


理由は簡単だ。

私が悠里くんの彼女だからだ。


どんなに千晴を想っていても、千晴に私は応えられない。

もちろん、私も千晴が好きだとは伝えていないし、そんな素振りも見せていない。

こんな私なんてさっさと諦めて、次にいけるようにしっかりと千晴からの告白を拒否した。


…が、千晴は特に気にすることなく、その瞳を細め、私に言った。


『俺は先輩しか好きになれない。だから諦めない』と。


悠里くんと千晴。

私は二人を弄ぶ最低な女になってしまった。

生徒会長、田中の懸念は見事に的中してしまったのだ。


千晴を想いながら悠里くんと付き合い、両想いなはずの千晴に応えない。


最低だ、私。


そしてとんでもないことに、この一泊二日の合宿に、何故かスポーツ科で部活が忙しいであろう悠里くんと、絶対に参加しなさそうな千晴が二人揃って参加していた。


二人の姿がどうしても交互に目に入り、罪悪感でもう私のHPはゼロだ。


勉強よりも罪悪感で疲れ切った私を、休憩時間にここへ連れ出してくれたのは、雪乃だった。




「それにしても地獄の空気が嘘みたいにラブラブねぇ、アンタたち」




力なく項垂れる私に、雪乃がとどめを刺すようなことを言う。

側から見ると、私と悠里くんはラブラブに見えるらしい。

合宿中、各自にプリントが渡され、それを解いていくのだが、席は好きな場所を選べた。

その為、悠里くんは当然のように私の隣に座り、私と共にずっといた。しかもとても近い距離で。

さらに悠里くんは、何か質問があれば、周りの迷惑にならないように、私の耳元に唇を寄せ、低い声音で話しかけてきた。


付き合っている二人が、肩のあたりそうな距離でプリントをし、時に囁き合う。


こんな姿、誰がどう見てもラブラブでアツアツな二人にしか見えない。

私は悠里くんをただ推しているに過ぎない、同じ想いを抱いていない、最低なやつなのに。




「クソだよね、私…」




私の心とは違い、憎いほど晴天の空に、私は弱々しく呟いた。

ちなみに雪乃にだけは、今まで起きたこと、私の気持ちなど、全部を話している。

なので、私が何故こんな感じなっているのか、全部わかって、雪乃はああ言っていた。




「いい案があるよ」




ふと、雪乃が私に怪しく笑う。

雪乃のいい案なんて、ろくなものじゃないだろうが、私は一応「何?」と聞いてみた。




「選ばなければいいのよ。二人と付き合うの。好きの種類が違うだけで、二人とも好きなわけだし」




ふふ、と楽しそうに瞳を細める雪乃に、自然と眉間に力が込められる。

全く理解不能な考え方だ。

さすが自由奔放清楚系小悪魔だ。




「…普通の人は一気にたくさんの人と付き合わないんだよ?愛は一つだけだから」




呆れながらも、改めて奔放で普通とはかけ離れすぎている雪乃に、普通とは何かを説く。

だが、私の言葉は雪乃には全く響かなかった。




「普通って何?誰が決めたものなの?愛はたくさんあってもいいのよ?二人と付き合えば、二人とも救われて、みんな幸せじゃん?誰も傷つかないのよ?私ならそうするけどぉ?」


「…」




おかしそうに笑い、私を見つめる可愛らしい瞳に、何も言えなくなる。


正直、今の雪乃を正しく否定する言葉が、私には見つからなかった。

みんなが幸せになる、そう言った雪乃の言葉に少しだけ魅力を感じてしまった。


いけない、いけない。

何と不誠実な考え方なのだ。


頭をよぎってしまった思考に、私は頭をぶんぶんと横に振った。




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