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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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9/11

9.スマートで優しい。





運命diaryに登場する神社を満喫し尽くした後、私たちは映画館へと移動した。

そしてそのまま早速チケットを買おうとした私だったが、それを沢村くんに止められた。

何と沢村くんがもうスマホで2人分のチケットを用意してくれていたのだ。

何て計画的で、スマートなのだろうか。




「これ、チケット代」


「え?」




ポップコーンやジュースの注文を終え、カウンターの前で沢村くんと2人で待っている間に、私は映画代+今日はありがとう代として5000円札を沢村くんに差し出した。

そんな私を見て沢村くんが一瞬固まる。

だが、固まったのはほんの一瞬だけで、沢村くんはすぐに困ったように笑いながら両手を小さく左右に振った。




「いやいやいいよ。俺が誘ったんだし。受け取れないから」


「いや、私も見たかったし、受け取って!」


「いやいや、本当にいいから。ね?」




ぐいぐいと5000円札を沢村くんに差し出す私の手を、沢村くんがぐーっと押し返してくる。

それから私の手にある5000円札を見て、「…チケット代にしては多くない?」と困惑していた。


そうこうしているうちに私たちの待ち番号がカウンターにあるスクリーンに表示された。




「行こう、鉄崎さん」


「え、ええ?でもまだお金が…あ、ま、待って!」




さっさと私に背を向けて、カウンターへと歩き出した沢村くんの背中を、私は慌てて追いかける。

私の分のポップコーンたちまで、推しに持たせる訳にはいかない。

とりあえずチケット代はまた後で払おう。


こうしてポップコーンやジュースをカウンターで受け取った私たちは、ついに劇場内へと入った。


劇場入り口で案内されたシアターへ向けて、私たちは廊下内を進む。

するとその廊下内で、座り込んで泣いている5歳くらいの女の子の姿を見つけた。




「うぅ、ゔぅ…ぐすんっ」




泣き続けている女の子の周りには、ポップコーンが散乱しており、保護者らしき人が1人も見当たらない。

私は気がつけばその子の元まで駆け寄っていた。




「どうしたの?」


「うぅ、あ、うぅ…」




女の子と視線を合わせるようにその場にしゃがみ、女の子の顔を覗き込む。

女の子は私と目が合うと、何か言いたげに口を開いたが、泣きすぎてうまく喋れないようだった。




「大丈夫、ゆっくりでいいよ」




そんな女の子の背中を、いつの間にか私と同じようにしゃがんでいた沢村くんが、優しく撫でる。


さすが私の推し。

誰にでも優しく、当然のように手を差し伸べられる素晴らしい人だ。


沢村くんの素晴らしすぎる姿に感心しながらも、私は沢村くんと一緒に女の子が落ち着くのを待った。



 

*****




「大丈夫?お話しできる?」




少し経ち、だんだん落ち着いてきた女の子を見て、沢村くんが優しい声音で女の子の様子を伺う。

女の子はそんな沢村くんに「…う、うん」と泣きながらも頷き、そこから私と沢村くんにゆっくりと状況を教えてくれた。


ここに一緒に来ていた女の子の保護者であるお母さんは、どうやら今、目の前にあるトイレにいるようだ。

女の子が泣いていた理由は、お母さんのことを少し待っている間に転んでしまい、ポップコーンをダメにしたことが辛かったからだった。




「ポ、ポップコーンどうしよう。このままじゃ食べれない…」




喋れるようになったとはいえ、涙が止まったわけではない。

未だに悲しそうに涙を流し泣き続ける女の子の姿が気の毒で胸が痛む。

気がつくと、私の手は自然と動いていた。




「はい、これ」


「え」




私に突然ポップコーンを渡された女の子が、きょとんとした顔で私を見る。




「ポップコーンなら大丈夫だよ。ね?」




そんな女の子に私は努めて優しく笑った。


どうかこれで元気になって欲しい。

そう願いながらも女の子を見ると、女の子はキラキラとした瞳でこちらを見ていた。




「い、いいの?」


「うん。いいよ」


「ほ、本当に?」


「本当に」


「…っ!ありがとう!お姉ちゃん!」




最初は遠慮がちにこちらを見ていた女の子だったが、私の言葉を聞き、満面の笑みになる。

それから私から受け取ったポップコーンを本当に大事そうに抱きしめた。


泣き止み笑顔になった女の子を見て、私はほっとしたのだった。





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