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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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89.雨と体操服。




朝、私は駅で1人絶望していた。

先ほどまで晴れていた空が、どんよりとした雲に覆われていたからだ。

しかもその雲からザァザァと勢いよく雨まで降っていた。


最悪だ。傘持って来てない。


天気予報も見ず、のうのうとここまで来た先ほどまでの自分を恨む。




「…」




空を睨んでみたはいいものの、もちろんそれだけで天気が変わるわけもなく。

仕方なくスマホを見れば、今日は一日中雨予報で、この雨が止むことはないようだった。


…仕方ない。


心の中でそう呟き、私は駅から学校へと駆け出した。





*****





「はぁ、はぁ」




やっとの思いで学校までたどり着いた私は、下駄箱前で両膝を押さえていた。

雨の中ここまで駆け抜けてきた為、全身びしょ濡れだ。


さ、寒い…。


三月とはいえ、まだまだ気温は低いので、普通に寒い。

私は寒さに震えながらも、とりあえずスカートの端を掴み、水を絞った。

続けてブレザーを脱ぎ、同じように絞る。

あとはある程度絞り終えた制服をハンカチで拭きながらも、私は考えた。


とりあえず、この後保健室へ行って、体操服を借りなければ。

このままでは風邪を引く。




「…柚子?」




そんな私に後ろからとんでもなく素敵なイケボが声をかけてきた。

このイケボは間違いなく、私の推し、悠里くんの声だ。


 

 

「あ、悠里くん。おはよう」




声の方へと振り向けば、そこにはやはり練習着姿の悠里くんがいた。

どうやら朝練前のようだ。

私と目の合った悠里くんはぎょっと目を見開いた。


ん?何故?




「ゆ、柚子…っ!?どうしたの、それ!?」




首を傾げる私に、慌てて悠里くんが駆け寄ってくる。

そしてそのまま手に持っていたタオルを私の頭にかけ、わしゃわしゃと髪を拭き始めた。


あー。私がびしょ濡れだったから悠里くんはあんな顔をしたのか。

…じゃなくて!




「や、やめて!悠里くん!悠里くんの貴重なタオルが私のせいで使い物にならなくなっちゃう!」




柔らかくいい匂いに包まれながらも、私は必死で抵抗する。


悠里くんのタオルは悠里くんの尊い汗を拭くものであって、決して私を拭くものではない!

断じて違う!


首を一生懸命横に振り、悠里くんの腕に手を伸ばすが、それでも悠里くんはその手を止めなかった。




「やめないよ。このままだと柚子風邪引いちゃうじゃん」




タオルで両頬を包まれて、悠里くんが真剣な表情で私の瞳を覗く。

そのあまりにもまっすぐな視線に、私の心臓はトクンッと小さく跳ねた。


何と反則な視線なのだろうか。

こんな視線、抵抗できるわけがない。




「着替えはある?」


「…いや、ないから保健室に借りに行く」




真剣に、だが、優しく悠里くんに問いかけられて、私は視線を伏せながらも何とか答える。

すると、そこで悠里くんは黙った。


突然訪れた沈黙に、どうしたのだろう?、と私は首を捻る。それからおそるおそる視線を上げると、そこには何かを思案する悠里くんがいた。

伏せられたまつ毛によって、かっこいい悠里くんの顔に影が落とされている。


悠里くんのかっこいい顔をじっと見つめながらも、次の言葉を待っていると、悠里くんは徐に口を開いた。




「…じゃあ、俺の体操服使って?」


「へ?」




こちらをまっすぐと見つめる優しい悠里くんの声音に、思わず変な声が出る。


今、悠里くんは何て言った?

俺の体操服を使って?

え?




「ぜひ!あ、いや、違う!」




つい欲望に身を任せて、勢いよく返事をしてしまったが、私は慌てて首を横に振った。


悠里くんの体操服、着たすぎるけど、普通にダメでしょ!?




「か、借りれないよ!悠里くんの尊い体操服なんて!悪いし!何より悠里くんが体育の時に着る服がなくなるじゃん!」




私から必死に紡がれた言葉に、悠里くんは「尊い体操服?」と不思議そうに首を傾げる。

その姿があまりにもかわいらしくて、心臓がうるさいが、メロついている場合ではない。

推しから推しの体操服を奪うという行為を、決して許してはならないのだ。




「大丈夫だよ?今日、体育ないし」




それなのに悠里くんは私の気持ちなど知る由もなく、朗らかに笑った。


oh!エンジェルスマイル!




「い、いや、でもいいよ!保健室に行けば借りれる体操服あるし!」




なんとか天へと昇りかけた意識をこちらに戻して、必死で悠里くんに訴える。

そんな私を見て、悠里くんは申し訳なさそうな、どこか恥ずかしそうな顔をした。


…え、なんで?




「…あの、これ、俺のわがままなんだ。俺の服着ている柚子をあわよくば見たいな、ていう…」




言いづらそうに一度こちらから視線を逸らして、再び悠里くんが私を見る。

おそらく意識していないその上目遣いに、私の心臓はズギューンッと撃ち抜かれた。

ま、まさか、ここでラブテロリスト発動とは…。




「わ、わかった…!か、借ります…!」




気がつけば私は必死で首を縦に振っていた。

推しのお願いには弱いのだ、私は。




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