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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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88/108

88.不名誉な疑惑。





バレンタインからあっという間に時は流れ、三学期の終わりが見えてきた今日この頃。

放課後の風紀委員室で他の風紀委員たちと仕事をしていると、ガチャリと扉が開かれた。




「邪魔するぞ」




そう言って風紀委員室に現れたのは、生徒会長だ。

2年の進学科でクラスメイトでもある生徒会長、田中は、ファイルを抱えて、まっすぐとこちらまでやって来た。


綺麗にセットされた黒髪に、ふちのない眼鏡。

きちんと着こなされた制服は、まさに生徒に見せたい見本そのものだ。

真面目が服を着ているような彼と私は馬が合い、生徒会長と風紀委員長という立場上、よく話をする仲でもあった。




「どうしたの、田中。何か不備でもあった?」




いつもの調子で書類から視線を上げ、田中を見る。

すると田中はそんな私に何故かとても難しい顔をした。


一体、何が田中にあんな顔をさせているのか。


不思議に思いながらも田中の言葉を待っていると、田中は私の目の前で、ファイルの中にあった紙をバサァッと、何十枚も広げた。




「これを見ろ。目安箱に入れられていたものだ」




田中が眼鏡の奥で、私に鋭い視線を向ける。

その視線の意味が全くわからず、私は首を傾げたが、とりあえず目の前に広げられた紙を手に取ってみた。


目安箱とは、名の通りのもので、生徒たちの要望や悩みなどを匿名で聞くものだ。

ちょっとした不憫なこと、あればありがたいこと、校則の改善案など、入れられる意見はさまざまなのだが、私が手に取った紙にはそんなことは書かれていなかった。




『鉄子は誰と付き合っているの?千晴くん?悠里くん?』


「…ん?」




紙に書かれていたまさかの内容に見間違いか、と自分の目を一瞬疑う。


…なんだ、これ?


ふざけているようにしか見えない内容の紙を一度机に置き、他のものにも目を向けてみる。




『鉄子先輩の彼氏は悠里先輩ですよね?』


『千晴くんと鉄子はこっそり付き合っている』


『鉄子は悠里くんと千晴くん、2人と付き合っているで合ってますか?』




だが、どの紙を見ても、ふざけた内容のものしかなかった。


目安箱にこれが入っていたというのか。

全くうちの生徒たちは目安箱をなんだと思っているんだ。


広げられた紙たちの内容に呆れながらも「何、これ」と苦笑する。

すると田中はそんな私に淡々と告げた。




「ここ1ヶ月の間に目安箱に入れられたものだ。お前の振る舞いが招いた結果だぞ」


「…はぁ」




まるで私を責めるような田中の言葉に、わけがわからず気の抜けた相槌を打ってしまう。

だが、それも仕方ないだろう。

私に責められる要素など一切ないのだから。




「私は悠里くんと真面目に交際しているし、こんな誤解を招くようなことは誓って一切してないから。変な噂に惑わされないでよ」


「惑わされてなどいない。事実をお前に伝えているだけだ」


「事実って…」




こちらに厳しい視線を向ける田中に、私は呆れたような表情を浮かべる。

どこをどう見たら目安箱の言い分を聞こうと思えてしまうのか。




「あのさ、たな…」




改めて説明するか、と一度視線を伏せ、言葉を紡ごうとする。

だが、それは田中の強い一言によって遮られた。




「結局お前はどっちと付き合っているんだ?」




だから、何故、そうなるんだ。

田中の問いかけに、頭が痛くなる。




「いや、だから、私の彼氏は…」


「正直、お前の振る舞いは目に余るものがあるぞ。生徒たちの意見にも頷ける。この前のバレンタインの時も見たが、公衆の面前で2人をはべらせていたじゃないか」


「は、はべらせっ…!?」




悠里くんこそが私の正式な彼氏である、と田中に伝えたかったのだが、田中の怒涛の責めに、私は言葉を詰まらせる。


田中には私が一体どう見えているんだ!




「…はべらせてなんかないよ。私の本命は悠里くんだし、彼氏だってもちろん悠里くんだよ」




冷静を装い、眉間に寄ったシワを意識して緩めながらも、田中の言葉を否定する。

しかし、田中は人差し指で眼鏡をクイッと上げ、その奥でギロリと私を睨んだ。




「なら、そのような振る舞いをしろ。だいたい風紀を守る風紀委員のトップであるお前が一番に風紀を乱してどうする?それでも鬼の風紀委員長なのか?」


「いや、私はそんなつもりはなくて、周りが勝手に…」


「周りが勝手に?それはお前の振る舞いが招いた結果だろう?甘えたことを言うな」


「いやいや、私はちゃんと悠里くん一筋で…」


「そうは見えないがな。華守に対して距離が近すぎるのでは?パーソナルスペースは大事だろう?頬を赤らめているところも前に見かけたな。それも華守相手に」


「…」




田中の言葉を否定しようとすればするほど、田中から正論を叩きつけられ、ついには何も言えなくなってしまう。

そんな私に田中は「そもそもお前は…」と、説教を続けた。




「て、鉄崎さんが説教されてる…」




あまり見ない異様な光景に、1人の風紀委員が物珍しげに呟く。




「鉄崎先輩が誰かに説教してるところはよく見ますけど、されているところは初めて見ました…」


「さ、さすが、会長だわ…」




それから他の風紀委員たちも遠巻きにこちらを見て、小さな声でざわざわと騒ぎ始めた。

私はその中でため息を漏らした。




「ため息を吐きたいのはこちらだが?」




そんな私を田中が見逃すはずもなく。

新たに燃料を注がれた田中は、ますます強い口調で私を責め立て始めたのであった。





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