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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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84/108

84.最初のチョコ。




やっとの思いで生チョコタルトを完成させ、いよいよラッピングの工程へと入った。

最初の生チョコタルトこそ、元気いっぱい欲張りタルトになったが、残り二つは千夏ちゃんのアドバイスのおかげで、少しはマシになった。


千夏ちゃん曰く、二つ目のタルトは、〝恐れすぎ、貧相タルト〟で、三つ目が、〝バランス最悪、アンバランスタルト〟なのだが。

そんな辛辣な千夏ちゃんだが、最後には「でも頑張りは認めるわ。さすがお義姉様、苦手なことにも、逃げず立ち向かう姿は圧巻だったわ」と、どこか上から目線な笑顔で拍手を送ってくれた。


大きなテーブルの上には、もう生チョコ作りに使われた調理器具たちはない。

それらは先ほど片付け、今は小さな箱やリボン、紙など、ラッピングに必要なものが並べられていた。


そこから私は小さな箱を手に取り、生チョコタルトを入れながらも、ふと思ったことを口にした。




「そういえば、千夏ちゃんは今日作ったやつ誰にあげるの?」


「あら、そういえば言ってなかったわね。お父様とお兄様とそれから婚約者によ」


「へぇ…。お父様とお兄様と婚約者にね…。ん?」




千夏ちゃんの淡々とした答えに、一瞬、私は固まる。


お父様にあげる、わかる。

お兄様にあげる、わかる。

婚約者にあげる…?

婚約者?




「え、え!?千夏ちゃん中学生だよね!?こ、婚約者がい、いるの!?え!?」


「ええ。もちろん。華守の娘だもの」




何でもないことのように答えた千夏ちゃんに、私は大きく目を見開き、思わず千夏ちゃんを凝視した。

だが、そんな私とは違い、千夏ちゃんは平然としており、手際よく、箱にリボンを巻き付けていく。


その姿に私は思った。

婚約者がいるということは、千夏ちゃんにとっては、当たり前で、普通なのだ、と。


お金持ちの世界、すごすぎる。

庶民には全く理解できない世界だ。


未知の世界に衝撃で固まっていると、そんな私に気がついた千夏ちゃんは、作業を続けながら言った。




「華守と繋がりたいのよ、みんなね。つい最近まで婚約者がいなかったお兄様の方が異例なのよ?」


「…は、はぁ」




千夏ちゃんの説明に、つい間の抜けた返事をしてしまう。

千夏ちゃんのお兄様、つまり千晴の婚約者は千夏ちゃんにとっては私なのだが、もうそこにいちいちツッコミを入れるのはやめた。




「それで?アナタは一体誰にあげるのかしら?沢村悠里と、残りのものは誰に?」




全ての箱のラッピングを終えた千夏ちゃんが、興味深そうに私を見る。

そんな千夏ちゃんに私は作業を続けながら、淡々と口を開いた。




「悠里くんと、お父さんと…」




そこで一旦、言葉を止めて、箱に巻き付けたリボンをギュッと結ぶ。

それから視線を上げて、ある場所へと視線を向けた。




「そこにいる私の後輩に」


「え」




私の言葉に千晴が珍しく、目を白黒させる。

まさかここで自分の名前が出るとは、夢にも思っていなかったようだ。


優雅に椅子に腰掛けていた千晴は前のめりになり、「本当?」と信じられない様子で私を見た。




「本当」




それだけ言って、今まさにラッピングし終えた箱を持ち、千晴の元へと向かう。

私の手の中にある、金色のリボンが巻かれた白い箱。

ちゃんと千晴のことを考えて選んだものだ。




「ずっと見てたからわかってると思うけど、これはほぼ千夏ちゃん作だから…。それでもよかったら…」




何だか照れ臭くて、千晴から視線を逸らしてしまう。

頬に熱まで感じて、何故こんな感覚になっているのか自分でもわからない。


これは今日のお礼のチョコだ。

ただの後輩へ渡すものだ。

こんな感情になるものではないはずなのに。


ズイッと千晴に箱を差し出すと、千晴はそれを受け取った。




「ふふ、ありがとう」




私の耳に千晴の柔らかい声が届く。

その声があまりにも嬉しそうで、ゆっくりと視線を千晴へと戻すと、千晴は本当に幸せそうに瞳を細め、笑っていた。




「…こういうの初めて?誰かに手作りのバレンタインチョコあげるの」


「ん?んー。まぁ、お父さんをカウントしなかったら初めてだね」


「そっか…」




私の答えに、千晴がますます嬉しそうにその瞳を細め、どこか愛おしげに私が渡した箱を見る。

それからゆっくりと、優しく箱を撫で、口元を緩めた。




「また先輩の初めてもらえた」




ふわりと笑う千晴に、ドクン、と小さく心臓が跳ねる。

整った美しい顔が何故かいつもよりもキラキラと輝いて見え、眩しくて、体の芯が熱くてふわふわした感覚が徐々に私の中で広がっていく。


な、何だろう、これ。


今は別に千晴との距離が近いわけでもない。

当然、今日の鬼門であった料理ももう終わっている。

それなのに心臓がどんどん加速していく。


千晴が笑っただけなのに、どうしてこんなにも嬉しい、と思えてしまうのか。

今日一日、ずっとこんな動悸に襲われていたが、これは何かへの不安でも緊張でもないのだろうか。


…まさか、病気?


わけのわからない感覚に頭を悩ませていると、突然、千晴が椅子から立ち、私との距離を詰めた。


千晴の顔に長いまつ毛が影を落としている。

そう思った、次の瞬間。


千晴は私の唇のすぐ横に、自身の唇を落としていた。

チュッと音を立てて、千晴の顔がゆっくりと私から離れる。

またあの文化祭の時と同じ、柔らかい感触だ。


急な出来事に私は何もできず、ただただ固まっていた。




「な、へ、え」




何度も何度もぱちぱちとまばたきをし、状況を何とか飲み込もうとする。


え、今、私は、な、何された?

唇が触れた?私の唇の横に?

え、唇が触れた?


…キス?接吻?kiss?




「な、な、な、なんで!?」




やっと状況を理解した私は、顔を真っ赤にして、千晴に叫んだ。

そんな私に千晴は「かわいい、先輩」と、とても楽しそうだ。




「先輩のそこにチョコがついてたから取ったんだよ。美味しいね、このチョコ」




私の唇辺りを指差し、悪びれる様子もなく、千晴は笑う。

その様子に私の中の何かが、ブチン!と切れた。




「だったら口で取るな!手で取れ!」


「えぇ。だってチョコだし、食べたいじゃん?」


「手で取った後に食べればいいでしょう!?」


「先輩から食べたかったんだもん」




鬼の形相で怒鳴る私に、千晴は何故かとても楽しそうだ。

ふざけた態度を取り続ける千晴に、「この野郎!」と怒りの感情が湧くが、それでも嫌いにはやっぱりなれなかった。

この生意気で、マイペースな後輩を、私は何故か好意的に思えた。


顔を真っ赤にして怒鳴る私に、楽しそうに笑う千晴。

私たち2人のやり取りに、千夏ちゃんは満足げに微笑んだ。




「やっぱり、2人は未来のラブラブおしどり夫婦。完璧な2人だわ。…ただ、沢村悠里、彼だけが唯一の欠点ね。あのお義姉様の浮気癖、どうにか治さないと…。いくら言ってもダメな時は、沢村悠里を愛人枠として許すしかないのかしら…」




ぶつぶつと千夏ちゃんが何か呟いていたが、それは私の怒号によって、かき消され、私の元までは届かなかった。




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