83.仕上げ。
優雅で楽しい、そしてほんの少し恥ずかしい、そんなひと時を過ごした後。
時間になったので、私たちは厨房へと戻ってきていた。
いよいよ、生チョコタルト作り再開だ。
次の工程は寝かせていた生地をタルトの形にする、というものだった。
ちなみに千晴はまたあの座り心地の良さそうな椅子に座って、こちらをどこか楽しげに見つめていた。
まるでどこぞの王族のようだ。
「この生地を伸ばすのよ、慎重にね」
「う、うん」
千夏ちゃんに見守れながらも、木の板…いや、千夏ちゃん曰く、ペストリーボードと呼ばれるものの上に置かれた生地を、めん棒でゆっくりと円になるように伸ばしていく。
最初は薄くなりすぎることを恐れて、おそるおそるめん棒を転がしていたが、千夏ちゃんに「少しずつ力を入れて。少しずつよ」と言われたので、指示通りに力をそっと加えていった。
「…っ」
そして少し歪だが、直径15センチほどの円がようやく一つ完成し、私はやっと息を吐いた。
緊張で今この時まで息をすることを忘れていた。
「あとはこの生地を型に入れて、はみ出ている生地をこのパレットで削ぎ落とすの」
いつの間にか千夏ちゃんも作っていたらしい円の生地を使って、千夏ちゃんが手際よく次の作業内容を教えてくれる。
私はそれを一瞬たりとも見逃さないように見て、忘れぬうちに自分の生地を睨んだ。
「お義姉様、ポイントは優しく、よ」
「うん…!」
千夏ちゃんの真剣な声に、私は同じく真剣な声で返す。
それから震える指先に力を込めて、何とか続きの工程に入った。
こうして私たちは、それぞれ三つずつ、タルト生地を作った。
そして形になったタルト生地はまた冷蔵庫で寝かされた。
その後、オーブンで焼き、次にその焼けたタルトに、チョコと生クリームを混ぜたものを流し入れた。
この工程を経て、やっと、生チョコタルトの土台が完成した。
作業の途中、板チョコを刻む段階で、板チョコを木っ端微塵にしてしまうという場面もあったが、まな板の上でのことだったので、一応は大丈夫だった。
千夏ちゃんに絶句され、千晴に大爆笑されたが。
こうして完成した生チョコタルトの土台。
次はいよいよ最後の仕上げであるトッピングだ。
「あとはこちらにある苺やブルーベリーを使って、美しくトッピングするだけよ」
テーブルの上にある苺やベリー系のフルーツを千夏ちゃんが丁寧に両手で指す。
ボウルに入れられているそれらは、生チョコを冷蔵庫で冷やしている間に、千夏ちゃんと私で一緒に準備したものだった。フルーツを洗ったのは私で、切ったのは千夏ちゃんだ。
私の前に並べられたなかなかいい感じの生チョコタルト。私が作ったとは思えないクオリティのそれに、あとは目の前にあるフルーツをいい感じにトッピングするだけ。
さすがにそれだけなら料理が苦手な私でもできるだろう。
私は早速タルトの上に一つ一つフルーツを慎重に並べ始めた。
「…」
そして並べ始めて固まった。
…なんか元気いっぱいすぎないか?
生チョコタルトに所狭しと並べられたフルーツたち。
ギチギチに詰められたそれはとても窮屈そうで、綺麗には見えない。
じっと目の前の生チョコタルトを見つめて、小さなブルーベリーをとりあえずまだ空いているところに置いてみた。
だが、それでも、やはり印象が良くなることはなかった。
何で?
どうしたらよくなるのかわからず、千夏ちゃんの方を盗み見る。
すると、千夏ちゃんの前には、芸術的な生チョコタルトがもう三つも並んでいた。
私はまだ一つもできていないというのに。
「…すごい」
千夏ちゃんの美しく、美味しそうな生チョコタルトに思わず、感嘆の声を漏らす。
生チョコの上に添えられたベリー系のフルーツと苺は、私よりも少量ながらも、バランスよく配置されている。
私と同じものとは思えない出来で、プロが作ったかのような見た目だ。
私の声に気づいた千夏ちゃんは、こちらに視線を向けた。
「…お義姉様」
そして、私の生チョコタルトを見て、言葉を失った。
ああ、言われなくてもわかる。
これはかなり落胆されている。
「お義姉様、いい?トッピングはやればやるほどいいものではないのよ?大事なのはバランスですわ。お義姉様のタルトは欲張りすぎだわ」
呆れたようにそう言い、千夏ちゃんは「これも、これも、これも、不必要ですわ!」と苺やブルーベリーを指差していく。
私はそんな千夏ちゃんに「うん」と真剣に返事をし、次のタルトに活かすことにした。
失敗は成功のもと。やればきっとできるのだ。
欲張り生チョコタルトはお父さんへのチョコにするとして、私は残り二つのタルトのトッピングを始めた。
もちろん、千夏ちゃんのアドバイスを忘れずに。




