表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/108

81.破壊神、柚子。




マイペースな兄妹に頭を悩まされながらも、バレンタインチョコ作りは始まった。

今日は生チョコタルトを作るらしい。




「これなら難しくないし、お義姉様も作れるはずよ。まずは材料を計りましょう」




千夏ちゃんは笑顔でそれだけ言うと、手際よく真ん中にあるテーブルに必要な材料を置き始めた。


バターに、砂糖に、多分小麦粉に、謎の粉に、小瓶に入った正体不明の液体。

電子はかりに、ボウル、ゴムベラ、泡立て器。


千夏ちゃんがどんどん出す必要なものを私は慌てて、受け取り、一緒に準備を進めていく。

いろいろなものが並べられたところで、千夏ちゃんはやっとその動きを止めた。




「必要なものはざっとこんなものかしら。次は計量ね。お義姉様、計量をお願いできるかしら?」


「う、うん」




千夏ちゃんに頼まれて、私は神妙な顔で頷く。

そんな私に千夏ちゃんは「ではこれを」と、タブレットを渡してきた。




「それにはレシピを入れているわ。材料を見て、計量をお願い」


「わ、わかった」




ここでメモ用紙ではなく、タブレットごと私に渡すとは、金持ちはスケールが違うな…と、感心しながらも、早速タブレットを開く。

すると液晶画面いっぱいに、生チョコタルトの写真と、レシピが映し出された。


私に与えられた仕事は材料を計量すること。

その為に液晶に触れ、軽くスライドさせて、材料欄を見る。


まずはバターを60g…。


電子はかりにボウルを置き、きちんと数字をゼロにしたところで、私は慎重にバターを乗せた。


計量は料理の中でも特に大事な作業だ。

ここを間違えてしまえば、全てが台無しになってしまう。


寸分の狂いもないように、作業を続け、できたものを千夏ちゃんが混ぜる。

それを繰り返すこと、数分。

千夏ちゃんからついに私では絶対にできない指示がきた。




「お義姉様、次は卵を割って、卵黄と卵白に分けてください」


「え」




淡々と出された千夏ちゃんからの指示に、一瞬固まってしまう。

だが、固まっていては何も始まらないので、私は非常に申し訳なさそうに口を開いた。




「ご、ごめん、千夏ちゃん。私、それはできない…というか、めちゃくちゃになる未来しか見えないというか…」


「え?いくら料理が苦手なお姉様でもそのくらいはできるでしょう?大丈夫よ、少しの失敗ならわたくし気にしませんことよ?」


「す、少しかなぁ…」


「失敗は成功の元!よ!」


「う、うん…」




千夏ちゃんの勢いに押されて、千夏ちゃんからつい卵を受け取ってしまう。

仕方ないので私はその卵を割ってみることにした。


千夏ちゃんの言う通りかもしれない。

失敗は成功の元。やらなければ始まらない。

案外卵くらいなら綺麗に割れるかもしれない。


緊張で震える手で卵を優しく掴み、私はボウルの端に早速、卵をコツンと当ててみた。

しかし、卵には何の変化もない。




「…」




それでも私は黙ったまま、こんこん、こんこん、と卵を当て続けた。

いつも料理で失敗するのは、力加減がうまくできていないからだ。

とにかくまずは弱めでいき、様子を見て強くしていけば、卵を破壊することもないだろう。


そう思い、慎重にこんこんし続けていると、いつの間にか、自分の作業を終えたらしい千夏ちゃんが、怪訝そうにこちらを見た。




「お義姉様、そのようなやり方ではいつまで経っても卵は割れなくてよ?もっと強くいたしませんと」


「…わかった。もっと強く、ね」




千夏ちゃんの言葉に頷き、卵を持つ手に力を込める。

それから一思いに、卵をボウルの端に叩きつけた。


ーーーその時だった。


ガァァンッ!と派手な音と共に、卵が砕け散ったのだ。


卵の殻は粉々になり、宙へと舞い、卵の中身は飛び出し、テーブル上へと投げ出された。




「…」




ぐちゃぐちゃになった卵だったものに、私は表情を失った。


や、やってしまった…。




「は?」




この惨状に千夏ちゃんが、目を大きく見開いて固まっている。

まさかこうなるとは思いもしなかったのだろう。

そして千夏ちゃんの兄、千晴はというと、優雅に座っていたはずの椅子で自分の腹を押さえ、「あはははっ、先輩、最高…っ」と爆笑していた。


無念すぎる。




「…ご、ごめんなさい」




深く謝罪し、千夏ちゃんに無言で卵を渡す。

すると、千夏ちゃんは何も言わずにそれを受け取った。




「…混ぜる作業はできる?」


「いや、それも力加減がわからず、いつも派手にぶちまけております…」


「そう…。わかったわ」




千夏ちゃんに力なく答えた私に、千夏ちゃんは軽く頷き、何かを考え始める。

千夏ちゃんの次の言葉を待つこと、数十秒。

千夏ちゃんは神妙な顔で私に言った。




「お義姉様はわたくしの作業を見てて。もうすぐ終わりますから」


「…は、はい」




こうして材料を混ぜる工程は、全て千夏ちゃんがすることになったのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ