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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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8/11

8.推しとデート。





side柚子




PM:12:00。

私、鉄崎柚子は推しとのデートの集合場所である駅前に、集合時間の約1時間前から推しこと、沢村くんのことを待っていた。


何故1時間も前から集合場所へ来ているのか。

理由は簡単だ。推しである沢村くんの大切な時間を一分一秒でも無駄にしたくないからだ。


きっと真面目で優しい沢村くんなら、約束の15分前にはここへ来るだろう。

ならば、私も15分前に…と思うところだが、それだとタイミングによっては、沢村くんが私を数分待つ状況になりかねない。

そうならない為にも、沢村くんが来るであろう15分前のさらに15分前にここへ来るべきだ。つまり約束の30分前だ。それならば沢村くんを絶対に待たせるという失態は犯さないだろう。


だが、しかしそれでもまだダメだ。

ここへ来る前に何かハプニングに遭遇する可能性だって大いにあるのだ。

電車が遅延するかもしれない。困っている人を助けるかもしれない。全部信号が赤かもしれない。

街には遅れる要因がたくさんある。


それらのことを全て配慮した結果、私は約束の1時間前には駅前につくようにした。

これでもう完璧だ。


沢村くんと付き合い始めて最初の日曜日。

まさかもう沢村くんとデートができるとは思わず、私は浮かれに浮かれまくっていた。


沢村くんの隣にいても恥ずかしくないように、また、あわよくば可愛いと思ってもらえるように、今日の私には、気合いしか入っていない。

いつもは後ろで一つに結んでいる胸の上まである黒髪も、今日はおろして緩く巻いており、服装も白に小さな黒いハートが散りばめられたマーメイドワンピースと可愛らしく仕上げてきた。

メイクも軽くしており、私の装備は完璧である。


もちろんこういうことには疎いので、全て雪乃にやってもらった。

清楚系小悪魔モテ美少女に感謝だ。


今日は今ハマりにハマっている運命diaryの実写映画を沢村くんと観に行く。

映画を観ることも楽しみだし、休日の推しを見られることも楽しみだし、もう楽しみしかない。

ここで推しを想いながら1時間待つことも全く苦ではない。


そんなことを思いながらも沢村くんを待つことまだたったの30分。

約束の時間までまだ30分もあるというのに、沢村くんはもう集合場所までやって来た。


ダボっとした大きめのデニムパンツに白のTシャツ。

シンプルながらも爽やかで沢村くんの良さを120%引き出しまくっているコーデに、心臓が飛び出そうになる。


な、な、何てかっこいいの!


そんなかっこよすぎる沢村くんは、まだ私の存在には全く気づいていない様子で、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

もうかっこよすぎて、街中が沢村くんの為のランウェイにしか見えない。




「沢村くん」


「え!鉄崎さん!?」




全く私に気づく気配のない沢村くんに、こちらから声をかける。すると沢村くんは心底驚いた表情を浮かべて、私を見た。それから「え、あれ?」と言いながら、スマホの画面をしきりに確認していた。




「…ごめん、鉄崎さん。待たせちゃったみたいだね」




青ざめた表情で申し訳なさそうに私を見る沢村くんに、私の中の好感度がぐんぐん上昇していく。


沢村くんは何も悪くない。

相手のことを思い、約束の30分前に集合場所に来る沢村くんは、優しく思いやりのある人だ。

しかもどう考えても私が早すぎるだけなのに、待たせたと思い、謝ってくるなんて。

どこまでも優しい人なのだろうか。


さすが私の推し!好き!


沢村くんの素晴らしさに、ついメロついてしまう。




「大丈夫。私も今来たところだから」


「本当?」


「本当」


「そっか。ならよかったのかな?」


「よかったんだよ!」




未だに申し訳なさそうにしている沢村くんに、私は食い気味にそう言い、笑った。




*****




早速、沢村くんとのデートが始まった。

だが、デートが始まって早々、私はある疑問を抱いていた。

映画が始まるまでまだ3時間もあるのだが、一体何故こんなにも早く集合したのだろうか、と。

今回のデートの集合場所も集合時間も全て沢村くんが指定していた。

なので、3時間前集合の意図が私にはさっぱりわからない。


よくわからないまま、沢村くんに連れられて電車に乗り、やって来たのは映画館ではなく、街中にある神社だった。


神社?


何故、映画の前に神社?と一瞬だけ思ったが、見覚えのある風景に私はすぐにピンときた。


ここ、運命diaryに出てきた神社だ。




「え、え、ここ、え?」


「気づいた?」




あまりにも予想外の展開に目を白黒させていると、そんな私に沢村くんがニヤリといたずらっぽく笑った。




「ここ、運命diaryに出てきた神社だよ。結構近場にあったからどうせならと思って来ちゃった」


「や、やっぱりぃ!?」




沢村くんに改めてここがどこなのか教えられた私は、思わず興奮し、大きな声を出してしまう。


ま、まさか運命diaryの舞台になった場所を直接見ることができるなんて!




「す、すごい!すごいよ!ありがとう!沢村くん!」




私は今、自分が漫画の世界にいるような喜びを感じながらも、沢村くんにお礼を言うと、早速スマホ片手に境内を歩き始めた。


あの立派な御神木も、古めかしいがどこ神聖な雰囲気のある拝殿も見覚えしかない。

あの拝殿にある賽銭箱の前で、運命diaryの主人公たちが今後の話をしているところに、敵が現れ、そこからこの神社を舞台に戦闘が巻き起こるのだ。


漫画で見たことのある景色を見つけては、そのシーンに思いを馳せ、パシャパシャと何枚も何枚も写真を撮る。

もちろんそこにいる私の推しこと、沢村くんの写真を撮ることも忘れない。


景色を撮って、沢村くんを撮る。

景色をまた撮って、また沢村くん。

それを何度も何度も繰り返し、私は最高の気分になっていた。

私のスマホの中が推しと好きな漫画の舞台の風景でいっぱいだ。素晴らしい!


そうやって夢中になっていると、どこからかこちらをじっと見つめる気配を感じたので、私はその気配を見逃さず、気配を感じる方へと、バッと勢いよく首を動かした。

するとそこにはスマホ越しに私を微笑ましそうに見る沢村くんの姿があった。




「ええ!?や、やめて!」




まさか沢村くんに撮られているとは思わず、慌てて沢村くんの方へと駆け寄り、沢村くんのスマホのレンズを手で塞ぐ。




「え?何で?」


「な、何でって私の写真なんて撮っても面白くないし、必要ないじゃん!」




私と沢村くんでは作りが全く違う。

沢村くんほどのイケメンならどこから撮ってもかっこいいが、私のような凡人など、どこから撮っても普通であり、面白くも何ともないはずだ。

そんな不必要なものが推しのスマホに存在するなど耐えられないし、何より恥ずかしい。




「必要だよ?俺だって鉄崎さんと同じように恋人の写真撮りたいし、欲しいよ?」




必死で不必要な理由を述べる私を見て、不思議そうに首を傾げた沢村くんに、私の顔はどんどん真っ赤になっていった。

し、心臓に悪すぎないか?私の推し。




「へ、変顔しているからダメ!」




顔を真っ赤にしたままそう叫ぶと、私はその場から急いで離れた。


我ながら全く可愛げがない。

だが、あのままでは沢村くんで頭がいっぱいになり、他の何にも手をつけられなくなるところだった。

危険すぎるぞ、推し。


少し遠くにいる沢村くんに背を向け、真っ赤になった頬を落ち着かせる為に、私は両手で両頬を包み込み、ぎゅっと瞳を閉じた。




「ふふ」




そんな私を沢村くんがおかしそうに見つめ、写真に収めていたことなんて、もちろん私は知らない。



 


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