74.クリスマスの思い出。
「悠里くん、おはよう」
悠里くんの姿に、嬉しくて嬉しくて、つい緩くなってしまった口元に力を込め、私はいつも通り悠里くんに挨拶を返した。
しかし悠里くんは突然、どこか暗い表情を浮かべた。
一体、この一瞬で何が悠里くんの表情を曇らせてしまったのだろう。
このままではいけない、と何が原因なのか突き止めようとした、その時。
私は悠里くんの暗い視線の先に気がついた。
悠里くんの視線の先には、我が物顔で私のマフラー(過去)を巻いている千晴の姿があったのだ。
まさかあれが原因なのか?
私が千晴にマフラーを貸していると思って、嫌な気持ちになってる?
せっかく築き上げてきた、私と悠里くんの関係が疑われる要素になるから、とか?
「ゆ、悠里くん。千晴のあれはね、もう私のマフラーじゃないんだよ?貸してるわけじゃないの」
「…え?」
おずおずと千晴のマフラーについて切り出した私に、悠里くんが不思議そうに首を傾げる。
よく状況を飲み込めていない表情だ。
「これいいでしょ?先輩が使ってたやつ、クリスマスプレゼントでもらったんだよね」
そんな悠里くんに私が詳しく説明するよりも早く、千晴は何故か勝ち誇ったように笑った。
千晴の笑みの理由はよくわからないが、千晴の説明に便乗して、私は「そう!」と明るく頷く。
「ふーん。そっか…」
すると、悠里くんはどこか面白くなさそうに、小さくそう呟いた。
あ、あれ?何で?
「先輩、クリスマスは楽しかったねぇ。これ、貰えて、めっちゃ嬉しかったし。俺があげたクリスマスプレゼント、先輩、ちゃんと付けてる?」
様子のおかしい悠里くんなど気にも留めず、千晴が楽しそうに笑う。
そんな千晴を無視するわけにもいかないので、私は一旦、悠里くんのことは置いといて、千晴に応えることにした。
「付けてません。校則違反になるからね」
「そっかぁ。じゃあ、一回くらいは付けてくれた?」
「まぁ、うん。あれ可愛いし、付けれる時には付けてるよ。ありがとね、千晴」
「ふふ、どういたしまして」
淡々と答える私に、千晴は柔らかくその綺麗な瞳を細める。
その微笑みがどこか眩しく感じて、私は首を傾げた。
ーーーその時。
「柚子」
悠里くんに優しく名前を呼ばれて、私の思考は一瞬で、千晴から悠里くんへと引き寄せられた。
「俺たちも年末、少し遅れたけどクリスマスしたよね。これ、めっちゃ着心地いいよ。俺のこと考えて選んでくれたんだよね?ありがとう、気に入ってるよ」
爽やかにはにかみ、練習着を少し引っ張る悠里くんは、本当に嬉しそうで、私まで嬉しくなる。
「そう、そうなの…!悠里くんのことすっごく考えて選んだんだよね、それ!まずは悠里くんに似合うと思って、選んだし、機能性も重視して…。やっぱり、私の目に狂いはなかった…!めっちゃ似合うし、かっこいい!」
ついつい推しからのお褒めの言葉にテンションが上がり、たくさん喋ってしまう。
そんな私を見て、悠里くんは優しく口元を緩め、「ふふ」と、天使の笑みをこぼした。
か、かっこよくて、かわいいとか、本当に反則だ。
存在が罪すぎる。
「来年もウィンターカップがあるから当日一緒に過ごす約束はできないけど、再来年は絶対、クリスマス一緒に過ごそうね」
「…っ!」
悠里くんの素晴らしさにやられていると、悠里くんからのまさかの打診がきて、思わず目を見開く。
来年どころか再来年の約束ぅ!?
そ、そんな!高校卒業しても、この関係は続くのですか!?
「お、お願いします!」
興奮する気持ちを抑えながらも、私は元気よく頷いた。
私の未来は明るいぞ!
「じゃあ、来年のクリスマスも俺と過ごそう?ね、柚子先輩」
脳内が悠里くんでいっぱいになったところで、突然、隣にいた千晴が、ガバッと私の肩に手を回し、抱き寄せる。それからねだるような視線を私に向けてきた。
「…いや」
回された腕に手を伸ばし、反射的にその手を払おうとする。
しかし、それを私は寸前のところでやめた。
今の千晴には、私という頼れて甘えられる存在が必要なのだろう。
あの冷たい家庭環境に、婚約者問題。
千晴が心置きなく頼れるのは今は私だけで、その上で私は千晴に私を頼って欲しいとも思っている。
ここで千晴を拒否するのは違う。
「空いてたらね」
肩に回されていた千晴の腕を外しつつ、私は困ったように笑いながらそう言った。
「え」
そんな私の答えに、悠里くんが一瞬だけ、驚きの表情を浮かべる。
どうしたのだろうか、と心配にもなったが、すぐにその表情は元の優しい笑顔に戻った。
「悠里くん?」
それでもいつもとは違う気がする悠里くんが気になって、悠里くんの瞳を覗く。
すると、悠里くんは変わらぬ笑顔を私に向けた。
「…何でもないよ」
いつもと同じはずなのに、どこか違う悠里くん。
仄暗く少し元気がないように見えるのは、私の気のせいなのだろうか。
今の悠里くんにどうしても違和感を覚えたが、だからといって、どうすることもできず、私はそれ以上何も聞けなかった。




