73.冬休みを終えて。
あっという間に年末年始が過ぎ、冬休みが終わった。
寒空の下、新学期を迎えた校内の下駄箱前で、私は今日も朝から生徒たちの波に厳しい視線を向けていた。
もちろんここに立っている理由は、朝の委員会活動でだ。
生徒たち一人一人をじっくり見つめながら、私は充実していた冬休みに思いを馳せていた。
ウィンターカップでの私の推し、悠里くんのかっこよさが忘れられない。コートを縦横無尽に走り回る勇姿にどれほど感動し、またその姿に少しでも彼女という名の壁として貢献できたことがどれほど誇らしかったことか。
少し遅れた悠里くん一家とのクリスマスは最高に楽しかったし、クリスマスプレゼントまでもらえて、最後にはキ、キスまでしてしまった。
なんと幸せな冬休みだったか。
私は前世でどんな徳を積んでいたのか。
悠里くんのことで頭がいっぱいだったが、ここでふと冬休みといえばと、千晴の顔も思い浮かんだ。
この冬休みで何かと謎の多かった千晴を、私は少しだけでも知れた気がしていた。
家庭環境や今までしてきた苦労、きっと私が知らない千晴の一面はまだまだたくさんあるのだろうが、それでも少しでも知れたことに意味がある。
どこか寂しげで独りぼっちな千晴を、私はもう1人にはしたくない、と思った。
それに千晴とのクリスマスも案外楽しかった。
2人でゆっくりと過ごした時間は暖かく穏やかで、とても優しい時間だった。
千晴のことを考えると、胸がぎゅう、と締め付けられる。
温かくて、でもどこか苦しくて切ない。
原因はわからない。最近よくある正体不明の不調だ。
…いけない、いけない。
今はこんな考えてもわからないことに、時間を割いている場合ではない。
私は軽く首を横に振って、私の思考からさっさと千晴を追い出した。
今は生徒たちの服装チェックの時間だ。
冬休み明けは夏休み明け同様、生徒たちの気が緩む。
少し気を抜くと、すぐに校則違反生徒を見逃してしまう。
気持ちを切り替えて、再び生徒の波に厳しい視線を向けていると、その波の奥から朝日を浴びてキラキラと無駄に輝く金髪が現れた。
あの堂々としたダイナミック校則違反は間違いなく、紛うことなく、100%、千晴だ。
「華守千晴!」
人混みの中から厳しい声で千晴を呼ぶ。
すると、千晴は嬉しそうにこちらに歩み寄ってきた。
「おはよぉ、先輩」
「おはよぉ、じゃない!今日も今日とて違反が多すぎる!」
瞳を細めて笑う千晴の相変わらずさに頭が痛くなる。
ゆるゆるのネクタイに、ブレザーの下には学校指定のものではないグレーのセーター。
さらに耳にピアスまである。
そして首元には私がクリスマスにあげたベージュのマフラーが巻かれていた。
「それ、使ってるの?庶民の中古品なのに?もっといいやつあるでしょ?」
つい目についたマフラーに、思わず疑問の視線を投げる。しかしそんな私の様子など気にせず、千晴は「これが一番いい」とマフラーを大切そうに触った。
…変なやつ。
いつものようにそう思うのだが、それと同時にまた胸がぎゅう、と締め付けられる。
謎の不調だ。
寒さで体調が優れないらしい。
「…はぁ。まぁ、マフラーはいいけど。でもそのピアスはやめなさい。あとセーターも学校指定のものにすること」
呆れながらも慣れた手つきで目の前のネクタイを締める。それからピアスとセーターを順番に指差して、千晴に凄んだ。
「…子猫の威嚇」
「はぁ?何?」
おかしそうに何か呟いた千晴に再び凄む。
すると千晴は「何でもない」と、どこか愛おしげに微笑んだ。
「先輩のお願いだからピアス外すね」
それからそう言って、何故か色っぽく笑い、私の目の前でピアスを外した。
何故、私のお願いになっているんだ。
そんな可愛らしいものでは一切ないぞ。私は風紀委員長として、校則違反者に厳重に注意しているのだ。
「…セーターはどうするの?」
「えぇー。セーター?セーターはこれの方がいいじゃん?だからこのままかも」
千晴を睨みつける私に、飄々と千晴が応える。
そこには、全くもって反省の色はない。
「あのねぇ。また同じことを繰り返すのならこっちにも考えがあるよ?反省文また書かせるよ?」
こうなったら脅してやろうと思い、そう言って厳しい視線を向けると、千晴は何故か嬉しそうに笑った。
「いいよ。また監督してね、せんぱい」
甘く微笑む千晴にドキン、と心臓が跳ねる。
全くそういう場面ではないはずなのに。
朝日と相まって、綺麗さに磨きがかかっているからなのか。
そんなことを思っていると、とんでもないイケボが私に声をかけてきた。
「おはよう、柚子」
黒色のサラサラの髪に、整った爽やかな顔立ち。
そしてバスケをするために生まれてきたと言っても過言ではない、恵まれすぎている高身長。
私に声をかけ、微笑んでいたのは、練習着姿の私の推し、悠里くんだった。
悠里くんの格好に、悠里くんが朝練終わりであることを察する。
しかも悠里くんは、私がクリスマスプレゼントであげたあの淡い水色の練習着を着ていた。
とても似合っており、眩しい。
しかも当然のように着てくれているだなんて…。
嬉しさのあまり、私は口元を緩めた。




