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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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63.贈り物。




side柚子




12月26日。

千晴の家での住み込みバイトを終えた、次の日のこと。

私は今、ウィンターカップ会場の前にいた。


昨日は朝から千晴のお父さんの最低な場面に遭遇し、最悪な気分で一日が始まったが、その後はとても穏やかで、千晴と楽しい一日を過ごした。

そして、その穏やかな時間の中で、私たちは12月25日ということもあり、クリスマスパーティーもした。




*****




私と千晴、たった2人だけのクリスマスパーティーの会場は、広すぎる千晴の部屋だった。

私たちは大きなソファに腰掛け、テーブルいっぱいに並べられた豪華な食事を楽しみながら、クリスマスのコメディ映画を一緒に観た。


そして、食事も終盤、デザートを待っている時のことだった。




「先輩、はい。クリスマスプレゼント」




突然、どこからか千晴が小さな白い紙袋を私に差し出す。

紙袋には黒で何やらブランド名のようなものが小さく書かれており、見るからに高価そうだった。

普段、ブランド物に触れていない、興味のない私でも、何か高級なブランド物なのだろうと察せた。




「…え、くれるの?」


「うん」




千晴から平然と差し出された紙袋に、戸惑ってしまう。


クリスマスプレゼントとはいえ、正直、こんなにも高級そうなものを頂くわけにはいかない。

それに私は千晴のようにクリスマスプレゼントを用意していない。


そのことを千晴に伝えると、千晴はその綺麗な顔を優しく緩ませた。




「俺の気持ちだから受け取って、先輩。それに先輩からのクリスマスプレゼントは、ちゃんとあとからもらうから大丈夫だよ」


「…へ」




千晴の言葉に思わず変な声を出してしまう。

前半の「受け取って」の、意味はわかった。

だが、後半の「ちゃんとあとからもらうから」の意味がいまいちよくわからない。


私はクリスマスプレゼントをこの場に用意していないんだが?

数日後に徴収しますよー、て意味?


不思議に思ったが、とりあえずそこは一旦スルーして、私は千晴からおそるおそる紙袋を受け取った。




「…ありがとう」




まずは申し訳ない気持ちを抑えながらも、何とか笑顔で千晴にお礼を言う。

そんな私に千晴は「ねぇ、中、見て」と急かしてきたので、私は早速袋の中を覗いてみた。

するとそこには、綺麗な黒いリボンが巻かれた小さな白い箱があった。


…アクセサリーだろうか?


見るからに高級そうなそれに、思わず身構えてしまう。


こんな凄そうなもの、もちろん人生で一度も贈られたことなどないし、ましてや触れたことさえもない。


緊張しながらも慎重に手を伸ばし、箱を紙袋から取り出すと、私はゆっくりとリボンを解いて、箱を開けた。




「…わぁ」




箱の真ん中に綺麗にしまわれていた、シンプルで小さなゴールドの花のネックレスを見て、私から思わず感嘆の声が漏れる。

さらによく見ると、そのネックレスの真ん中には、上品な輝きを放つ、ダイヤモンドのような石まであり、私は目をぱちくりさせた。




「このキラキラって…」


「ダイヤだよ。先輩に似合うと思って」


「…なるほど」




さらりと出た千晴の衝撃発言に、口がぽかーんと開いてしまう。


こ、これが本物のダ、ダイヤモンド…。

高校生のクリスマスプレゼントにしてはスケールが大きすぎる。

私は一体、千晴に何をあげればいいんだ…?


嬉しさよりも、プレッシャーの方が勝ち、変な汗が額から流れる。

申し訳なさが胸を一気に支配する。


すると、そんな私に気がついたのか、千晴は珍しく少しだけ、眉を下げた。




「…あんまりだった?」


「…っ」




あまり見ない千晴の姿に罪悪感が募る。


ダメだ、ダメだ。

とんでもないものとはいえ、千晴なりに一生懸命考えて選んでくれたものだ。

今の私のリアクションは、きっと千晴を傷つけている。




「ち、違う。あんまりとかじゃなくて、予想外すぎて、驚いただけで…。私はこんないいもの千晴にあげられないし…」




慌てて弁明すると、千晴はその美しい瞳を柔らかく細めた。




「そっか…。そんなことか。…心配しないで、先輩。これよりももっと価値のあるものを先輩からもらうから」


「いや、無理だよ。私の財布には、数千円しか入ってないから…」




千晴の言動に思わず、苦笑いを浮かべてしまう。


今の私の手持ちでは、せいぜい小物とかくらいしか買えない。そんなものが千晴がくれたものよりも価値があるとは思えない。




「お金なんて使わなくていいよ。俺、先輩がいつも着けてるマフラーが欲しいから。クリスマスプレゼントに」


「は?」




千晴の要求に思わず目を見開く。

私のマフラーが欲しい?私が使っていたものだから、中古品だぞ?




「そんなものでいいの?」


「そんなものじゃない。先輩のものじゃん」




おかしなものでも見るような目で千晴を見ると、千晴も同じような目で私を見てきた。

よくわからないやつだ。




「本当に私のマフラーでいいの?」


「うん。先輩のマフラーがいい」


「…わかった」




理解に苦しむが、まっすぐ私を見つめる千晴に、私はやっと頷く。

それから自分の荷物を置いている場所に移動し、そこからマフラーを取ると、千晴の元へと戻った。


あとはマフラーを渡すだけ。

だが、そのまま渡すのも味気ない。




「…リボンとかない?」


「あると思うよ」




私の質問に簡潔に答え、千晴がスマホを触りだす。


 


「今、メイドにリボンを持ってくるように言ったから。ちょっと待ってて」




スマホから視線を上げ、なんでもないことのように千晴がそう言った、数分後。

本当にこの部屋にたくさんのリボンが届けられた。


金持ちお坊ちゃま、すごい。

スマホ一つで、大量のリボンが現れるなんて。


千晴とリボンを持ってきてくれたメイドさんにお礼を言い、私は早速その中からリボンを選ぶ。


目についたのは、白と金のリボンだ。

金は千晴を思い浮かばせる色で、いつの間にか手に取っていた。


そのリボンを丁寧に畳まれている、私のベージュのマフラーに綺麗に巻き付けて、プレゼント風にしてみる。

私の意図とは違い、少し歪になってしまったが、そこには目をつむった。


私の行動をずっと黙って見ていた千晴に、私はそれを渡した。




「はい。えっと…私からのクリスマスプレゼント」




顔を上げて、千晴を見れば、千晴は愛おしげに、そして優しく私を見ていた。

あまりにも甘い瞳に、ドギマギしてしまう。


…なんて目で先輩を見ているんだ。




「やっぱり、先輩はいいなぁ」




私からマフラーを受け取ると、千晴は嬉しそうにそう言った。




*****




つい昨日の出来事を思い出し、胸に変な感覚が走る。

静かに鼓動を上げた心臓が、まるで鐘を打つように体中に鳴り響く。


不整脈かな?

それに伴う、体調不良?


昨日までバイトで、今日はウィンターカップ会場まで1人で遠出しているのだ。

このタイミングで疲れが出ているのかもしれない。


体調を崩さないためにも、無理はしないようにしよう。


そう思いながらも、私は会場へと足を進めた。


バイトの翌日。

何故休まず、無理をしてまで、立て続けにここに来ているのか。

それはもちろん、推しである悠里くんの勇姿をこの目に焼き付けるためだった。


冬休みに入っても、変わらず悠里くんとは連絡を取り合っている。

その為、23日から始まっているウィンターカップの結果ももちろん知っていた。

まぁ、悠里くんに教えてもらう前に、常にウィンターカップ公式SNSを追って、結果は確認していたが。


我が鷹野高校バスケ部は26日現在も勝ち進み、今日も試合だった。

今日の試合に勝てたら、準々決勝進出を決められ、悠里くんたちの目標であった〝ウィンターカップベスト8〟が達成されるのだ。


それをこの目で見ないわけにはいない。


…と、いうことで、私は今、その現場にいた。

1人よりも、2人の方がいい、と雪乃も誘ったのだが、普通に予定があると断られた。


今日は何度も言うが、ベスト8を決める大事な試合だ。

推しの晴れ舞台だ。

もし、私という存在が現場にいると悠里くんが知れば、あの誠実で優しい王子様な悠里くんのことだ。

間違いなく、いろいろな気を私に遣ってくれるだろう。


そんなことを大事な試合前に私はさせたくない。

試合だけに集中して欲しい。


なので、私は悠里くんの勇姿をこの目に焼き付けた後、悠里くんにバレないように、そっと帰るつもりだった。




「…よし」




私が睨みつける先には、悠里くんの晴れ舞台、またの名を、戦場がある。

地元では見ない、おそらくライブなども開催されているであろう、立派な体育館の迫力を感じながらも、私は力強くまた一歩を踏み出した。


ーーーーその時。




「あーーー!!!!!お姫様だぁー!!!」




幼い女の子の可愛らしい声が、この場に響いた。





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