52.関係の変化。
いろいろあった文化祭が終わり、1ヶ月。
いよいよ冬休みが迫ってきた、とある日の昼休みのこと。
窓の外に広がる寒空を横目に、私は暖かい教室で、雪乃と共に昼食を食べていた。いつも一緒に食べている悠里くんは、今日はバスケ部の用事があるらしい。
悠里くんと付き合い始めた頃は、こうして雪乃と食べることの方が多かったが、今では、悠里くんと食べることの方が多かった。
「何か久しぶりだねぇ、一緒に食べられるの」
ふと、雪乃が今、私が思っていたことと同じことを口にする。
「お互い違う相手と食べたり、用事があったりしたもんね。一緒に食べられるのは2週間ぶりくらいかな?」
なので、私は雪乃の言葉にすぐに頷いた。
悠里くんと一緒に食べる夢のような時間も好きだが、気心の知れた友人である雪乃と食べる時間も、安心感があり、楽しくて好きだ。
「悠里くんが柚子とお昼一緒にするようになっちゃったもんねぇ。最初は付き合ってんの?本当に?て、感じだったのに、今ではこの学校の誰もが知る、ベストカップルなんだもん」
「ふふ、まぁね」
おかしそうに笑う雪乃に、私は少しだけ誇らしげに胸を張った。
雪乃の言う通り、もうすっかり私は悠里くんの彼女として、板についており、誰もが私を悠里くんの彼女として認識している。
私は完璧な悠里くんを不必要な好意から守る壁なのだ。
「千晴くんとの噂も未だに健在ではあるけどね。でもやっぱ、公式は王子とだよねぇ。後夜祭の時も熱々すぎて、キス以上のことしてたし」
「だ、だから!そんなことしてないってば!」
ニヤニヤしている雪乃のいつものからかいに、つい大きな声でツッコミを入れる。
文化祭後、事あるごとに雪乃は後夜祭での私と悠里くんのことについて、からかってきた。
どうやらカップル席周辺で、聞き耳を立てていた生徒たちが、私たちがカーテンを閉め、キス以上のことをやり始めた、と勘違いしてしまったらしいのだ。
その噂は瞬く間に広がり、しばらくは非常に恥ずかしい思いをした。
あんなところでそんなことするはずがないのに、まるで真実のように語られ、困ったし、最終的には、生徒会長自らの指導が入った。
「風紀委員長であるお前が何、一番に風紀を乱しているんだ」、と。
とんでもない勘違いだ、濡れ衣だ、と一生懸命釈明したが、深めのキスを何度もしてしまったことは事実だったので、最後には謝罪した。
もう公衆の面前であんなことは誓ってしない、と言って。
「この調子だと、クリスマスも一緒に過ごすんでしょ?楽しみね」
「…あー。いや、それはないんだよねぇ」
はは、と小さく笑った私に、雪乃が不思議そうに首を傾げる。
「何で?」と視線で訴える雪乃に私はゆっくりと口を開いた。
「ウィンターカップがあるからね、23〜29。だから絶対無理なんだよ」
鷹野高校バスケ部は、見事地方大会を優勝し、去年と同様、ウィンターカップへのチケットを手に入れていた。
その喜ばしい結果の為、悠里くんはクリスマスもバスケなのだ。
平然としている私に、雪乃は「ふーん。じゃあ、仕方ないね」と特に気にしていない様子で言った。
おそらく、私が気にしていないので、そうなのだろう。
「けど、悠里くんがずっと頑張ってきた努力が形になって私は嬉しいの。ウィンターカップがゴールじゃないけどさ、でもきちんと一つ一つが達成されている、ていうか、実を結び始めている、ていうか。その結果に少しでも貢献できている私が誇らしくて…」
悠里くんのことになると、話が止まらない。
箸を止め、いつものように笑顔で、雪乃に思いの丈をぶつける。
そんな私に雪乃は「へぇ」や「ふーん」などと適当な相槌を打ちながら、慣れた様子で弁当を食べ進めていたのであった。
*****
空が夕日の赤から、夜空の黒へと移り始めた頃。
風紀委員の仕事を終えた私は、いつもの待ち合わせ場所へと向かった。
下駄箱から少し離れた場所。
そこに佇む人物は、暗くなり始めたこの場で、誰よりも輝きを放っており、よく目立つ。
綺麗なサラサラの黒髪から覗く、かっこいい顔の頬は、寒さでほんのり赤くなっており、どこか色っぽかった。
彼こそが私の待ち合わせ相手、悠里くんだ。
悠里くんは、黒のダウンにグレーのマフラーで、私のことを待っていた。
冬服な悠里くんに胸がキュンとなる。
何を着ても私の推しは本当にかっこいい。
絵になる。最高である。
「悠里くん」
キュンキュンする胸を抑えて、私はいつも通り、悠里くんの名前を呼ぶ。
すると、悠里くんは伏せていた視線を上げて、私を見た。
「柚子、お疲れ様」
私と目の合った悠里くんが柔らかく微笑む。
その姿にまた胸がキューンと締め付けられた。
「悠里くん、今日は部活早く終わったんだね」
「うん。今日は調整程度だったから。明日はまたいつも通りだと思うけど。いろいろやりたいこともあるし」
「そっか。大会近いし、力入ってるね」
「今年こそ、ベスト8行きたいからね」
悠里くんと合流して、他愛のない会話をする。
いつも通りの流れで、校門へと向かっていると、ある人物の姿が目に入った。
綺麗なふわふわの金髪に、目を引くモデル体型。
学校指定ではない、もこもこのグレーのセーターを堂々と着ている背中。
あれは間違いなく、千晴だ。
「ちょっと千晴」
気がつけば、私は後ろから千晴に声をかけていた。




