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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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51/108

51.溺れる甘さで。





「…どうしたの?」




あまり見ない悠里くんの表情に心配になり、悠里くんの瞳を覗く。

すると、悠里くんは暗い表情のまま、力なく笑った。




「…自信がないんだ。俺が柚子の彼氏なのに、周りにはそう思われていなかったりするし、華守との方が仲良く見えるし…」




伏せられた瞳は不安と寂しさで揺れている。

そんなふうに思わなくてもいい、と今すぐ推しを安心させてあげたい。




「私の彼氏は悠里くんだよ。確かに千晴と仲はいいけど、悠里くんのとは違うでしょ?千晴はただの後輩だから」




そう言って、真剣に悠里くんを見つめる。

だが、悠里くんの表情は未だに暗かった。


推しが私のせいで悲しんでいることが辛い。




「…違う、か。本当にそうかな。キスした仲なのに」


「…っ」




暗い声音が静かに訴えた内容に、肩を震わせる。

あの時、触れた千晴の柔らかい唇を思い出してしまい、私の頬は熱を持った。

千晴はただの後輩だ、と言ったそばから、こんなふうになるのは違う、と何とか千晴を自分の意識から追い出したいのだが、上手くいかない。

あの焦がれるような甘い瞳を忘れられない。


千晴のことを考え始め、おろおろし出した私を、悠里くんは苦しそうに見つめた。




「…わかってる。あれは演技だって。嫉妬するものじゃないって。わかってるけど…」




眉にシワを寄せ、悠里くんが辛そうに思いを吐く。

それから一旦言葉を止め、ゆっくりと続けた。




「俺ともまだなのに…」




推しが辛そうに私を見ている。

綺麗な瞳はどこか仄暗く、とてもじゃないが、大丈夫そうには見えない。

その葛藤に私の胸はぎゅーんと締め付けられた。


推しが苦しんでいる。

それなのにキュンキュンしてしまう自分が、どれほど不謹慎であるかは、十分わかっている。


けれど、あの悠里くんが、こんなにも甘く嫉妬してくれているのだ。

例え演技だとしても、彼氏として真面目に私と向き合ってくれた結果だとしても、嬉しくて嬉しくて仕方ない。


偽りの嫉妬でも私はいい。

その嫉妬でぜひ、私を縛って欲しい。




「…俺も柚子とキスしたい。ダメ?」




上目遣いで、おそるおそるこちらを伺う悠里くんに、ついに私はやられてしまった。

罪深すぎるその表情に、ゴクッと喉が鳴る。


か、かっこよくて、かわいいなんて、反則だ。

私の推し、悠里くんは、世界を救うのではなく、世界を破滅させるのかもしれない。




「…うん」




バクバクとうるさい心臓を抑えて、ゆっくりと、だが、確かに頷く。

私の答えに、悠里くんは頬を赤らめたまま、瞳を伏せた。




「じゃあ…」




それだけ静かに言って、悠里くんがカーテンを閉める。

カーテンを閉めたことによって、この空間は私たちだけのものになった。


バンドの歌声に、生徒たちの楽しそうな声。

外は確かに賑やかなはずなのに、ここには何も聞こえない。


2人だけの世界で、私はゆっくりと瞳を閉じた。




「…」




キ、キスってどこにするのかな。

話の流れ的に、く、唇だよね?


恥ずかしさと嬉しさといろいろな感情がぐちゃぐちゃに混ざって、もう何が何だかわからない。


ドキドキと胸を高鳴らせながらも、ただただ悠里くんからのキスを待ち続けていると、おでこにそっと何かが触れた。

柔らかくて、熱い。


ーーーー唇だ。




「…っ」




お、おでこかぁ。


予想外の場所へのキスに、頬を赤くしたまま、瞳を開ける。

唇ではなかったが、それでも推しからのキスに、嬉しくて嬉しくて、私は表情を緩ませた。


きっとこれが最初で最後、貴重な一瞬だった。


嬉しさでいっぱいになりながら視線を前へと向ける。

すると、至近距離で悠里くんと目が合った。


綺麗な瞳がまだ熱を持ったまま、私を捉えている。




「…あれ、ファーストキスだった?」




色っぽく、けれど、寂しそうな悠里くんの声音。

悠里くんの言っている、〝あれ〟とはおそらく、舞台上での千晴とのキスなのだろう。


ーーーあれは確かに私のファーストキスだった。


おずおずと悠里くんに頷く。

それを見て、悠里くんは一瞬だけ、辛そうな表情を浮かべた。

そして、そのまま私の唇へと自身の唇を寄せた。




「…っ!」




突然の唇へのキスに大きく目を見開く。

まさか今、唇を重ねるとは。


恥ずかしさで、ギュッと目を閉じると、唇を悠里くんに遠慮がちに舐められた。




「な、ゆ、ふんんっ」




驚きのあまり、反射的に悠里くんの名前を呼ぼうとした。

しかし、それは悠里くんによって遮られた。

私の口元が緩んだほんの一瞬の隙をついて、悠里くんは私の中へと舌を這わせたのだ。




「んん、ん」




甘い声がこの場に静かに響く。

その中には、小さな悠里くんの息遣いもあり、この空間をより一層甘くさせた。


クラクラして、倒れそう。


もう耐えられない、と思ったところで、やっと悠里くんは私を解放した。




「…これは?初めて?」




焦がれるように私を見る悠里くんに、私はこくこくと必死に頷く。

そんな私に、悠里くんは「もう一回だけいい?」と、どこか苦しそうに言った。




「…うん」




目に涙を溜め、もう一度頷く。

すると、悠里くんはまた私の唇を優しく優しく塞いだ。



甘くて甘くて苦しい空間。

カーテンの向こう側の喧騒がまるで嘘かのよう。

甘い吐息はどちらのものなのかわからず、私はただただその甘さに溺れた。





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