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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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44.スリーポイントシュート。side悠里





柚子から放たれたボールは、俺の予想に反して、確実に入る軌道でゴールへと向かった。

そしてそのボールは吸い込まれるように、リングへと落ちていった。

柚子が放った綺麗なシュートは、この場を一気に支配し、全員の視線が柚子へと注がれた。




「…え、鉄子、バスケ経験者?」


「すっげぇ、いいシュートだったな」




柚子のシュートに、バスケ部員たちがざわつき出す。

部員たちの視線を一身に受けながらも、柚子は気にする素振りさえ見せず、2本目を放った。

そのシュートも綺麗な軌道で、リングに当たることなく、ネットを揺らす。

その次に放たれたシュートもまた同じだった。


気がつけば、体育館中の人たちが柚子のシュートを固唾を飲んで見守っていた。


この時点でスリーポイント連続得点を決めた参加者は、柚子が初めてだった。

部員でさえも、連続得点はプレッシャーなどから難しい。

それを柚子は涼しい顔でやってのけた。




「…す、すげぇ」




静まり返っていた体育館に誰かの呟きが響く。

そしてそれを皮切りに、部員たちは口々にいろいろなことを言い始めた。




「うちに女子バスケ部があれば…」


「クラブに所属すればいんじゃね?」


「鉄子に隙なし、だな」


「サイボーグじゃん」




誰もが驚き、信じられないといった表情を浮かべ、柚子を讃えている。




「柚子、すごいね!今のはなかなかできることじゃないよ?」




全てのシュートを見事に決め、涼しげな表情で立つ柚子に、俺は興奮気味で駆け寄った。

するとそんな俺に柚子は照れくさそうに、はにかんだ。




「えへへ。実はちょっとスリーポイントシュートだけは得意で…」


「スリーポイントだけ?」


「うん、スリーポイントだけ」




おかしなことを言う柚子に首を捻る。

スリーポイントだけ得意とかあるのだろうか。

スリーポイントが入るなら、普通のシュートも、フリースローもなんでも入るはずだ。

なので、〝スリーポイント〟だけが得意なのではなく、〝シュート〟自体が得意、が正解なのでは?


柚子の言動を不思議に思っていると、浪川さんがニヤニヤと笑いながらこちらに近づいてきた。

それから全ての謎の答えを柚子をからかうように口にした。




「柚子、この日の為に夜な夜な近所のバスケットコートで、スリーポイントシュートの練習だけしたんだよねぇ」


「…っ。ちょ、雪乃!それは言わないでよ!」


「いいじゃん別にぃ。柚子の努力、すごいじゃん?」


「か、かっこよく決めたかったのに…」




浪川さんの言葉に柚子はどんどん小さくなっていく。


普段はなかなか見せない弱々しい姿。

気を許している浪川さんの前だからこそ、こんな姿を見せるのだろう。

珍しく、そしてあまりにも愛らしい姿に、俺の心臓は、またぎゅうと締め付けられた。


先ほど見せてくれた完璧な姿は、この日の為に柚子が頑張った成果だったらしい。


俺の為に頑張ってくれたのかな。

そうだとしたらすごく可愛いな。


柚子の努力に頬が自然と緩くなる。

…が、それと同時に浪川さんのある言葉が引っかかった。




「柚子、夜な夜な練習してたって本当?それも1人で?」


「…えー。あ、うん。そうです」




俺の問いかけに柚子が気まずそうに視線を逸らす。

ほんのりと赤い頬を見て、柚子が今、恥ずかしがっているのだとわかった。




「恥ずかしがらないで、柚子。柚子の努力はすごいよ。誰にでもできることじゃない」




未だにこちらを見ない柚子に、俺は柔らかく微笑んで、一度、言葉を止める。

それからまっすぐと柚子を見据えて、ゆっくりと話を続けた。




「でも、夜に1人では危ないよ?今度から練習する時は俺に言ってよ。付き合うし、いい場所とかも教えるから。ね?」




俺の言葉に柚子は大きく目を見開く。

俺からの予想外の言葉に驚いているようだ。

驚く要素などないというのに。

心配して当然だ。




「いや、本当に近所のコートでだからね?治安もいいし、1人だったけど、何人か人もいたし。危なくはないんだよ?」


「柚子はそう思っているのかもしれないけど、俺が心配なんだ。だから遠慮しないで、頼ってほしい」


「…あ、ありがとう。でもね、あの、その…」


「俺じゃ、不満?」


「ち、違います!」




なかなか俺を頼ろうとしない柚子に、どうしたらいいのかわからず、その瞳をまっすぐと覗く。

すると、柚子は頬を真っ赤にして、勢いよく、俺の言葉を否定した。




「あ、あの、私なんかの自己満足努力に忙しい悠里くんを巻き込みたくないの。1人でも十分で、悠里くんに不満があるとかではなく…」




うっすらと冷や汗を流しながらも、一生懸命に喋り出した柚子は小さくて、愛らしい。

俺が傷ついたのではないかと、焦っている様子に、柚子の優しさを感じて、胸が暖かくなった。




「じゃあ、やっぱり頼ってほしいな。彼氏の俺を」


「…っ、う、うん」




柚子がやっと俺の言葉にぎこちなく頷く。

うるうると大きな瞳を潤ませ、輝いている瞳には、はっきりと、〝嬉しい〟と書かれていた。

やはり、柚子はとても可愛い。

ダメだ。好きだと自覚してから、柚子が可愛らしくて仕方がない。


どこか甘酸っぱい空気が流れる中、その空気を壊すように明るく、隆太が声を張った。




「で、チェキのご指名は?もちろん?」




キラキラと目を輝かせ、隆太を始め、後ろにいるバスケ部員たちが柚子のことをじっと期待に満ちた目で見る。




「もちろん、悠里くんで」




そんな部員たちに柚子はいつもの真剣な表情を作り、ゆっくりと頷いた。

当然、そうだろうと、主張するように。




「ご指名いただきましたー!」


「悠里でーす!」


「チェキ撮影はこちらでーす!」




柚子の答えに、ワッと体育館内が明るくなる。

俺のことを応援してくれている部員たちは皆、嬉しそうだ。

もちろん、部員たちと同じように俺も嬉しかった。


…やっぱり、俺の為に頑張ってくれたんだな。


嬉しさを噛み締めながら、柚子と一緒にチェキ撮影場所である、壁際へと移動する。

すると、その道中に顔色の悪いバスケ部の後輩、(しん)を見つけた。


慎は一年の進学科だ。

あの顔色はおそらく、明日に控えた、舞台〝白雪王子〟からくるものなのだろう。

慎は全校生徒の注目が今もなお集まっている、白雪王子の姫役で、姫役に決まってからというものずっと緊張で胃が痛いと泣いていた。


白雪王子の相手役、姫役は未だに公表はされていない。

それが一年進学科の戦略らしい。


だが、俺たちバスケ部員は、全員、慎が姫役だということを知っていた。

あまりにもある日を境に、辛そうにしていた慎に問い詰めた結果そうなった。


いつもの光景だが、あまりにも可哀想で、何か声をかけようとした、その時。




「君、大丈夫?」




俺よりも先に、柚子が慎に心配そうに声をかけていた。

柚子に顔を覗かれて、慎は瞳を潤ませる。

今にも泣き出してしまいそうだ。




「うぅ、はい、だ、大丈夫です…」


「そう…。熱とかは?」


「な、ないと思います…」




弱々しく受け答えをする慎の額に、柚子は手を伸ばし、そっと置く。




「うん。熱はなさそうかな。無理はしないように」


「…はい」




それだけ淡々と言って、柚子は制服のポケットから飴を出し、慎に渡した。

それを受け取った慎は泣きそうな顔で弱々しく頷いた。


2人のやり取りを見て、やっぱり好きだな、て思う。

柚子の周りをよく見て、簡単に手を差し伸べられる優しさが好きだ。




「さぁ、2人ともこっちこっち!」




やっと壁際にたどり着いた俺たちに、バスケ部の1人が明るく声をかける。

いよいよチェキの撮影…と思った矢先。




「て、鉄崎せんぱーい!」




やっと見つけた!と言わんばかりに柚子を必死で呼ぶ女子生徒が、ただならぬ雰囲気でこちらに駆け寄ってきた。




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