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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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41.一緒にいたい。





約2時間の仕事を終えた後、私は今度は自分のクラスの出し物の仕事をしていた。


私たち2年の進学科の出し物は、廃校になった過去の鷹野高校から脱出する、という内容の脱出ゲームだ。

会場は第二校舎の3階と4階の教室全てで、各教室には、様々な謎が隠されている。その各教室にある謎を解きながら参加者は脱出を目指すのだ。

脱出ゲームをスムーズに進行する為に、各教室には、2年の進学科の生徒が1人から多ければ4人ほど配置されていた。


ボロボロのカーテンに薄汚れた黒板。

並べられた机や椅子は乱雑で、倒れているものさえもある。

さらには、古びた教科書やノートまでも散らばっており、もうここは何年も教室として機能していない、とわかる場所に私はいた。


私のここでの仕事は、決められた場所で、決められたセリフ、行動をする、というものだ。

私は窓際にある椅子に腰掛け、本を読むフリをしながら、参加者がここに来るのを待っていた。


すると、何人かの生徒たちが、この教室へと入ってきた。

それから私の存在を気にしながらも、探索を続け、私におそるおそる話しかけてきた。




「あ、あの…。何かヒントってあったりします?」




本から視線を上げると、伺うようにこちらを見る女子生徒と目が合う。

私は淡々と決められていたセリフを吐いた。




「あの子には好きな人がいた。これを…」




それだけ言って、机から一枚の紙を出す。

この紙こそが、謎を解く重要な手がかりになるのだ。


私から紙を受け取った女子生徒は「ありがとうございます!」と言い、一緒にいた他の生徒とその場を離れた。

そしてそれを見ていた他の生徒が、先ほどの女子生徒と同じように私に話しかけてきた。

なので、私は全く同じ対応をした。


この教室を担当する進学科の2年の生徒は、私しかいない。

ひっきりなしに現れる参加者たちに、1人で変わらず対応を続けていると、ようやくその人の波が途切れた。

先ほどまで誰かしらいた教室に、今は誰もいない。


やっと訪れた休息に、私は息を吐いた。

少しくらい休憩しないと、疲れる。ずっと1人で対応し続けるのは、かなり大変だ。




「…ふぅ」




窓から空を眺め、もう一度息を吐いた。


綺麗な晴天が窓の向こうにいっぱい広がっている。

さらにその下には、たくさんの文化祭を彩る装飾がされており、生徒たちの頑張りが形になっていた。


晴れてよかったな…。




「ねぇ、お姉さん」




窓の外を見ていると、聞き慣れた声が気だるげに、私に話しかけてきた。

この声は…




「お姉さんはここで何してるの?」




声の方へ視線を向けると、そこには千晴が立っていた。

首を傾げて、興味深そうにこちらを見つめる千晴にも、もちろん私は決められたセリフを吐く。




「あの子には好きな人がいた。これを…」


「ふーん。てか、セーラー可愛いね、先輩」


「…どうも」


「ずっと見てたいなぁ」


「…そう」


「先輩、中学の時、どんな制服だったの?見たい」


「…」




…この野郎。


私から紙を受け取った後もなお、全く関係のない話を続ける千晴に表情がどんどん歪んでいく。


私の邪魔でもしにきたのだろうか。

ここまで関係のない話を続けるやつは千晴が初めてだ。

はっきり言って営業妨害だ。




「先輩なら何でも似合うね。可愛いから」




未だに楽しそうに話し続ける千晴に、ついに堪忍袋の緒が切れた。




「あーもう!うるさい!さっさと行きなさい!あの子には好きな人がいたの!わかった!?」




急に叫んだ私に千晴が一瞬だけ、驚いた表情を浮かべる。

だが、それはほんの一瞬で、すぐにいつもの飄々とした表情へと戻り、そこから、さらに頬を膨らませた。




「俺、謎解きに来たんじゃなくて、先輩に会いに来たんだけど」




むくれる千晴を見て、はぁ、と大きなため息を吐く。




「知らないよ、そんなこと。こっちは真面目に仕事中なの。茶化されているようにしか見えないの、今の状況」


「茶化してない」


「茶化してんのよ、それが」




不満げに膨らませる千晴の頬をつつけば、千晴は不服そうに私から視線を逸らした。

全く、困った後輩だ。まるで言うことを聞かない大きな子犬だ。




「…ねぇ」


「ん?何?」




しばらく黙っていた千晴が伺うように私を見る。




「わかんないから一緒に来て、お姉さん」


「…」




それから甘えるように私を見た。

千晴の綺麗な瞳がどこか熱を持って、私を見据えている。

それだけ切実なのだろうが、私からの答えは決まっていた。




「行きません」




それだけ言って、首をゆるゆると横に振る。

そんな私を見て、千晴はまた黙った。

何かを思案し始めた千晴を無視して、私は再び、本へと視線を落とす。

何を考えているかわからないが、そのうち諦めて先へと進むだろう。

ここにいても何も起こらないのだから。




「お姉さんが俺と一緒に行けれないのは仕事中だから?」




しばらく沈黙が続いた後、千晴は私にそう問いかけた。




「…」




その通りだ。

本へと落としていた視線をもう一度あげ、無言の肯定をする。

私と目の合った千晴はじっと私を見つめて、「ちょっと待ってて」と言い残して、この教室から出ていった。

何故か出口ではなく、入口から。


つまり、千晴は先へと進まずに、引き返してしまったのだ。




「?」




千晴の行動に首を捻る。

意図が全くわからない。

もしかしたら、千晴の「わからない」は本気だったのか。だから引き返して誰かに助けを求める、もしくは脱出を諦め、スタートに戻ったのか。


…いや、でも「待ってて」て言ってたよね?


どんなに考えても千晴の行動の意味がわからず、首を捻り続けていると、その原因である千晴が再び私の前に現れた。





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