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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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4/11

4.付き合うとは?




朝、いつものように委員会活動という名の服装チェックを校門前でしていると、とある噂話が聞こえてきた。

「あの鉄子が王子と付き合っているらしい」、と。


鉄子とはもちろん私、鉄崎柚子のことであり、王子とはそう間違いなく、疑う余地もなく、あの私の推し、沢村悠里くんただ1人である。


沢村くんに告白され、数日。

まだまだ私たちの関係について半信半疑である声もよく耳にするが、私たちは間違いなく、数日前から付き合っていた。

何と幸せな事実なのだろうか。


嬉しさと幸せのあまり緩んでしまいそうになっていた顔に、ぐっと力を込める。

すると、人混みの中からとんでもないイケボが私に向けられた。

 



「おはよう、鉄崎さん」




この声は間違いなく沢村くんだ。

せっかく力を入れた表情筋が、思いがけず、緩みそうになる。




「おはよう、沢村くん」




しかし私はそれでも、頬に力を入れ、いつもの〝風紀委員長〟の顔を作った。

そして、そんな私の視界に、とんでもなくかっこいい、王子と呼ばれていることにも頷ける、眩しい存在が飛び込んできた。

もちろん、沢村くんだ。

悠里くんは、どこかぎこちなく私に微笑んでいた。

朝日を浴びて微笑む推し、素晴らしすぎて涙が出そうだ。




「…そ、それじゃあまた」


「うん、またね」




挨拶もそこそこにその場から離れる沢村くんに、私はにやけそうな顔に、さらに力を入れて、何事もないように対応する。


彼女だからこうやって挨拶してもらえるんだよね!


以前の私は、数ある生徒の1人として、沢村くんに挨拶していたし、沢村くんも私1人に対して挨拶なんてもちろんしてくれていなかった。

そういう関係だった。


それが今では目と目を合わせて挨拶する仲だ。

付き合うって本当に素晴らしい。


 


「…あれ、本当に付き合っているのか?」


「誤情報じゃね?」


「えー。でも確かに付き合っているって聞いたけど」




私たちの会話に、何やら周りの生徒たちがざわざわし始めたが、私は特に気にしなかった。

私についての噂なんてよくあることだし、いちいち聞き耳を立てていては仕事にならない。


噂話ではなく、集中しなければならないのは、生徒一人一人の服装の確認だ。

ぼーっとただ見ているだけでは、見逃す可能性だってある。


隠すように付けているピアス、腕輪、ネックレス。

こっそりしている化粧。入れ忘れたシャツに、付け忘れたネクタイにリボン。


間違い探しのようにしっかり見なくては、生徒たちも対策をしてくるのだ。

そう、だからしっかりと…。


人混みを睨みつけている私の視界に、集中しなくても、目に入ってしまう存在が現れる。

その存在は、今日も遠くの方から、キラキラと金髪を輝かせていた。

周りと比べて身長も高いので、遠くにいても、よく目立つ。




「こらこらこらこら!」




ずんずんと一歩一歩力を込めながら、今日もダイナミック校則違反者の元へと向かう。

そんな私を見てダイナミック校則違反者こと、千晴は「あ、先輩、おはよぉ」と機嫌よく笑ってきた。




「おはよぉ、じゃない!今日もなんて格好で登校してんの!」




千晴の元までやってきた私は、まず目に付いたネクタイをギュッと締める。

それから何故か開いているシャツの下のボタンをせっせと留め始めた。




「何でこんなところまで開いているかな?あとピアス、それも外して。髪も黒にしなさい」




ボタンを止め終わった後、バンッと千晴の胸を叩いたのだが、千晴は何故か嬉しそうで頭が痛くなる。


コイツには本当に何を言っても響かない。




「もう!このままだと放課後にたんまり反省文書かせるよ!?それでもいいわけ!?」




あまりにも何も響かないので、私はついに千晴を睨みつけて、そう脅した。

もちろん風紀委員長だからといって、一生徒の私が、誰かに反省文を書かせる権限などない。

だが、少しでも脅しになればと思いそう言った。


誰だって貴重な放課後に反省文なんて書きたくないだろう。




「すみません、それだけはやめてください。明日からちゃんとします」




そう申し訳なそうに言う千晴を期待し、千晴を見つめれば、千晴はどこか楽しそうに笑っていた。




「じゃあ先輩、放課後ちゃんと付き合ってね」


「はぁ?」




何故なんだ。

目の前にいる千晴の考えがさっぱりわからず、眉間にシワを寄せる。


何故、楽しそうにしているんだ、この男。

わくわくしていないか?




「と、とにかく!次、またこんな格好で私の前に現れたら反省文だから!あとで後悔しても遅いからね!?1日では終わらない量を書かせるから!」




ビシッと人差し指で千晴を指差す。

すると、千晴は嬉しそうにその人差し指に自身の小指を絡めて、「約束だからね」と何故かどこか嬉しそうに笑ってきた。


本当に意味のわからない男だ。





*****





次の授業を受けるべく校舎内を移動していると、それは突然始まった。




「で、アンタたちって結局付き合ってるの?」


「え、もろちん」




私の隣を歩く雪乃の質問に、私は首を傾げながらも答える。

無表情な雪乃の当たり前すぎる質問の意味が全くわからない。




「じゃあ聞くけど付き合ってから何したの、アンタたち」


「え、あ、挨拶、とか」


「とか?」


「め、目を見て挨拶とか…」

 



雪乃の質問に、同じような答えしか言えず、ついには、言葉を詰まらせる。

私たちは雪乃の指摘通り、何もしていない、と今やっと気がついた。


確かに付き合うようになってから、目を合わせて互いに挨拶をするようになったが、それだけで。

よく話に聞く、一緒に登下校だとか、昼食を食べるだとか、そういうことは一切していなかった。


それどころかよく考えると連絡先さえも知らない。SNSだってもちろん繋がっていないし、知らない。

何も知らない。

挨拶をきちんとするようになっただけだ。

付き合う前とほぼ状況は変わらない。




「…やっぱり何もしていないわよね。アンタ朝は気がつけば校門にいるし、昼は基本教室で私と食べているし、放課後は委員会活動でしょ?隣にいる私でさえもアンタと王子の関係が全くわかんないし」


「あー。うん」


「それでアンタたち本当に付き合ってるの?」


「…うん」




先ほどは、何を当然のことを、と思っていた質問も、今では意味が違って聞こえてくる。

雪乃は改めて私たちの関係を確認しているのだ。

あまりにも変わらない私たちの関係を。




「いい?バスケ部の王子こと、悠里くんの恋愛ごとは、誰もが注目するセンシティブな話題なのよ?常にいろいろなところに目があると思った方がいいわ。それでここ数日、アンタたちの関係がどう見られているか知ってる?」


「え?んー。まさか付き合うとは思わなかった意外な組み合わせ、とか?」


「違う。本当に付き合っているのか、よ」


「ええ!?」




雪乃のどこか神妙な言葉に、思わず大きな声を出してしまう。


付き合う以前とそんなに変わらないとはいえ、会えば必ず見つめ合って挨拶をする仲なのに!

そんな姿を見て何故!?


それを雪乃に伝えると「友達でも知り合いでも見つめ合って挨拶くらいするでしょうが」と呆れながらツッコまれた。

…確かにそうだ。




「でもじゃあ何でまだ付き合っていない、じゃなくて、付き合っているのか、と疑われているのかわかる?それは王子が告白されそうになった時に、アンタと付き合っているからって断っているからよ。それと、バスケ部連中もその事実をとにかく言い回っているみたい」


「…っ!」




雪乃に教えられた事実に私は目を大きく見開く。

それから自分のことを責めたい気持ちでいっぱいになった。


私は何の為に推しと付き合うという名誉を授かったのか。

推しを告白の嵐から守る為に、そのついでに幸せなおこぼれを頂く為に、推しと付き合い始めたのだ。

それを付き合っているという事実だけに満足して、普通の生活を送り、本来の仕事もせずに推しを窮地に立たせるなんて。


何ておこがましい!

沢村くんを推す者として恥ずかしいの極み!




「ちょっとケジメつけてくる!」




自分の失態に気がついた私は、雪乃にそう言うと慌てて、沢村くんの教室へと向かった。

そして沢村くんの教室を見つけると勢いよく、ドアを開けた。




「沢村くん!」




いるかいないかわからないが、とりあえず沢村くんの名を呼んでみる。

すると「え、鉄崎さん?」と驚きながらも、不思議そうにこちらを見る沢村くんと目が合った。

不意を突かれてきょとんとしている沢村くんもかっこいいし、可愛い。




「ちょっと今いい?」


「え、うん、大丈夫だけど」




沢村くんの元へと向かおうとしたが、それよりも早く沢村くんが、私の元までやって来てくれる。

私たちは沢村くんの教室の出入り口で向き合った。




「どうしたの?急ぎの用事?」




突然現れた私に、ただならぬ何かを感じたのか、少しだけ心配そうに、私を沢村くんが見る。

沢村くんにとっては意味のわからない状況だろうに何と優しいのだろうか。

私の推し、やはり人間として素晴らしい。




「今日の放課後、一緒に帰らない?」


「え」




私の突然の誘いに、沢村くんは、驚いたように、瞬きを繰り返す。それと同時に、またあの可愛いきょとんとした表情を浮かべた。

そして私たちの様子を見ていた生徒たちはというと、




「…わざわざここに来るなんてやっぱり付き合っていたのか」


「一緒に帰ろって言ってない?」


「うぅ、私、本気で悠里くんが好きだったのに…」




と、様々なことを口にしていたが、そこに私たちの関係を疑うものはなかった。


よし、とりあえず、私たちの関係を見せつけられた!…かな?




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