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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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39.文化祭初日。




ついにきた文化祭当日。

私は風紀委員として、タブレットを片手に学校内を隈なく見回っていた。

もちろん、委員会の仕事をする為に、だ。


風紀委員の文化祭での仕事、採点は、文化祭中の2日間にも当然行われる。

良い行いには加点を、悪い行いには減点を、この手元にある学校支給のタブレットで行うのだ。

現時点では、各クラスや部活に大きな得点の開きはなく、どこも並んでいる状況だった。


この風紀委員による得点に加え、明日の午後から行われる人気投票の票数が、最終的な結果へと繋がる。

その為、当然どのクラス、どの部活も、票を得ようと、文化祭当日もはりきっていた。

ちなみに投票は明日の午後からと言ったが、舞台部門だけは、正確には明日の全ての舞台が終わってからだ。


ふと、視界の隅に、泣いている小学校低学年くらいの女の子とそんな女の子に優しく声をかけている男子生徒の姿が入る。

とても素晴らしい行いだ。


少し様子を見てみると、そのまま解決しそうな雰囲気だったので、男子生徒のクラス、部活を確認して、そこに一点加点した。


それから次に目に入ったのは、嫌がる女子生徒に無理やりな客引きをしている男子生徒の姿だった。




「嫌がってない?それ?ねぇ?」


「ひぃ!ひぃぃいい!て、鉄子ぉ!?」




鬼の形相で突然現れた私に、男子生徒は顔面蒼白で叫ぶ。

まるでお化けでも見たかのようなリアクションに、心の中で、失礼な、とツッコミを入れた。




「イエローカードです。次、同じとこ見たら問答無用で減点だから?わかった?」


「は、はいぃ!肝に銘じますっ!」




ギロリと私に睨まれて、男子生徒はビシッと背筋を伸ばす。

全く、と呆れながら私はその場から離れた。


そのままの流れで次に辿り着いたのは、2年スポーツ科の〝吸血鬼カフェ〟だった。

そう、私の推しである悠里くんのお勤め先である。


だが、今は委員会の仕事中。

浮かれている場合ではない。


仕事として吸血鬼カフェの様子を軽く確認しようとしたが、廊下に面する窓には全て黒いカーテンが付けられており、こちらからでは中が見えない状態だった。

仕事を続けるには、このカフェに直接入るしかない。


カーテンで締め切られた入り口には、黒と白のフリフリのゴスロリワンピースに、黒いマントを羽織った女子生徒がいたので、入れてもらえるように声をかけた。




「ど、どうぞ!お、お客様一名様です!」




私に声をかけられて、緊張気味に女子生徒がカーテンを開ける。

すると、カーテンの先には、いつも見ている教室とは全く違う空間が広がっていた。


全ての窓に付けられたカーテンは光を通さない黒が採用されており、この空間の光源は天井にある蛍光灯しかない。

その蛍光灯は、既存の白い蛍光灯ではなく、暖色のものに変えられており、この空間を暖かくもどこか古めかしいものへと変えていた。


さらに黒いカーテンには、暗くなりすぎないように白のレースがあしらわれており、机にも似たような布が掛けられ、統一感と上品さまで醸し出している。

ロッカーや黒板など、教室らしい部分はなるべく黒の布で隠すように工夫されており、そこにはシンプルながらも高級路線を意識した装飾が飾り付けられていた。


ここはまさに吸血鬼の家をモチーフにしたような場所になっていた。


なかなかの作り込みだ。

私が審査員だったらいい得点を入れたいレベルだ。

人気投票ではここに一票を投じてもいいかもしれない。


…まぁ、悠里くんのクラスっていう時点で、入れたくて入れたくてうずうずしてるけど。


なかなかの完成度に感心している私に、吸血鬼カフェ内はどよめいた。




「て、鉄子が来たぞっ」


「きっと偵察だっ。気を引き締めろっ」


「そ、粗相はとんでもない減点対象だよ。みんな、ここが山場だからね」




顔面蒼白の者、息を呑む者、神妙な顔になる者。

様々なリアクションで、全員が小声でいろいろなことを口にしている。

一応こちらに聞こえないように配慮しているのだろうが、全て聞こえているので、思わず、苦笑いを浮かべそうになる。

だが、泣く子も黙る、鬼の風紀委員長、鉄子はそんなことでは笑わない。

少々、怖がってもらっていた方がこちらもいろいろとやりやすい。


なので、私はキッと顔に力を込めて、真剣な表情を作った。




「鉄子…あ、いや、鉄崎さん、お席はこちらに…」


「お気遣いなく。委員会の仕事で少し様子を見に来ただけだから」


「…っ。わ、わかりました」




私の答えに息を呑む女子生徒。

それから「やっぱり偵察だよーっ」と小声で他の生徒たちに速やかに報告に行っていた。


怯えながらも緊張している様子の生徒たち一人一人に視線を向ける。

全員、ビクビクしているが、接客も丁寧で、お客さんも楽しそうだ。

内装の気合いもさることながら、接客もなかなかいいらしい。

悪い点もないし、減点対象はないと言える。

むしろ、この雰囲気に加点をあげたいくらいだ。


もうこのくらいでいいか、と撤退しようとしていると、スタッフ専用にされている出入り口から、眩しい存在が現れた。


黒いシャツの首元で光る、シルバーと赤の丸いループタイ。

上は白いシャツに下は黒い制服のパンツだが、そこに黒い長めのマントを羽織ることによって、全体の印象が制服とは全然異なるものへと変わっている。

さらにはいつもは降ろされている綺麗な黒い前髪が今日はかきあげられており、どこか大人っぽい雰囲気になっていた。


ーーー推しだ。

そこには私の推し、悠里くんがいた。





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