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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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36.お嬢様、再び。





文化祭準備もいよいよ大詰め。

文化祭まで残り2日。


私は急遽必要になったものを買う為に、1人で街へと出ていた。


夕方の街はさまざまな人で賑わっている。

私と同じような学生が制服のまま放課後の時間を友達と謳歌していたり、スーツを着た大人が疲れた顔で歩いていたり。

大学生のような若者のグループが楽しそうにお店に入る姿や、たくさんの買い物袋を持って歩く人、子どもと手を繋いで帰路についている人など、本当にたくさんの人がここにはいた。

私はその人混みの中を、ただただ目的の場所を目指して、歩いていた。




「離しなさいよ!」




そんな人混みの中、突然、気の強そうな女の子の怒りに満ちた声が聞こえてきた。


どうしたのだろう、と疑問に思い、声の方を見れば、たまたま人の隙間からその声の主が見えた。


見覚えのある透明感のあるふわふわの栗色の髪。

高めの位置で結ばれた揺れるハーフツイン。

千晴によく似た気の強そうな綺麗な顔。


ーーー千夏ちゃん?


そう気づいた時には、反射的に私は千夏ちゃんの方へと、向かっていた。


千夏ちゃんは3人の若そうな男の人に囲まれており、そのうちの1人に、腕を掴まれている状態だった。




「ちょっと、嫌がっていますよ?離してください」




千夏ちゃんの元に辿り着くと、私はまず千夏ちゃんの腕を掴む男に凄んだ。

ここには何故か、あの千夏ちゃんの近くから離れようとしなかった、ゴリマッチョSPたちはいない。

状況はよくわからないが、千夏ちゃんは今1人のようだ。

千夏ちゃんは私の登場に嬉しそうな、安堵したような表情を浮かべた。




「いや、ちょっと待ってお姉さん。コイツが俺に汚らしいとか言ってきてさ…」


「当然よ!急に声をかけてきて、許可もなく馴れ馴れしく触ってきて!汚らしいでしょう!?」




私に突然責められる形となったお兄さんが、弁明させてくれ、と困惑したような表情を浮かべる。

だが、そんなお兄さんに千夏ちゃんは怒鳴った。


あー。なるほど。


今の騒ぎの原因がなんとなくわかり、苦笑してしまう。


さすが千晴の妹だ。

マイペースで、自分勝手で、そして素直だ。


千夏ちゃんの主張は正しい。

知らない人に馴れ馴れしく声をかけられて、急に触られたら、ほとんどの人は嫌悪感を抱くはずだ。

それを千夏ちゃんはストレートに「汚らしい」と表現したのだろう。


そりゃあ、相手も怒るよね。

言い方がよくなかった。




「すみませんでした。言い方が悪かったですよね。この子にもよく言い聞かせますので…」




お兄さんたちに申し訳なさそうに謝罪しながらも、それじゃあ、とさっさと千夏ちゃんの腕を取り、この場から離れようとする。

しかし千夏ちゃんの腕を掴むお兄さんは、何故か千夏ちゃんから手を離そうとしなかった。

…私の謝罪だけではほとぼりが冷めないのか。




「ねぇ、悪いと思ってるんなら、お詫びとして一緒に遊ぼうよ?お姉さんも綺麗だし」


「…」




そうきたか。


ニヤニヤと笑う千夏ちゃんの腕を掴むお兄さんに、イラッとしてしまう。

静かに怒りが満ちていく中、それを私は表には出さず、至って冷静な表情を浮かべた。




「遊びません。用事があるんです」


「用事?じゃあ、それ、一緒に済ませちゃお?」




きっぱりと断りを入れた私に、また別のお兄さんがヘラヘラと笑いながら声をかける。




「大丈夫です」


「人手は多い方がいいじゃん」




それからまた違うお兄さんが。




「いえ、私1人で大丈夫ですから」


「そんなこと言わないでさぁ。男3人もいれば結構心強いと思うけど?」


「…」




断り続ける私に、お兄さんたちは、それぞれヘラヘラとしつこく私に提案し続けた。

正直、千夏ちゃんが「汚らしい」と罵倒した理由も頷ける人たちだ。

こちらが何度も断っているのに、それを無視して、自分たちの都合を押し付けようとしてくるとは。




「あんまりしつこいと警察呼びますよ?」




さすがに我慢の限界を迎え、そう言って、お兄さんたちを睨みつけると、お兄さんの1人がおかしそうに笑った。




「えー。それは困っちゃうなぁ。俺たちお姉さんのお手伝いがしたいだけなのに」




まるで被害者のような表情を浮かべられ、眉間のシワがどんどん深くなっていく。

言葉や態度は困っているようだが、声音だけは楽しそうで、どうやら私の言葉を間に受けていないらしい。

警察など呼べるはずがない、と確信しているようだ。




「ねぇ、いいじゃん。一緒に遊ぼう?」




ついにお兄さんの1人が私の腕を掴む。


ーーーーもう本当に我慢の限界だ。


気がつけば私はそのままお兄さんとの距離を詰め、お兄さんの服の襟を掴むと、勢いよく回転し、背負い投げしていた。

もし、ここが柔道の会場なら、この綺麗な背負い投げに大歓声が巻き起こるだろう。

だが、ここは柔道の会場ではないので、大歓声ではなく、動揺が広がった。

その中でたった1人、千夏ちゃんだけはキラキラとした表情を浮かべ「すごい!」と感動していた。




「これ以上絡むなら容赦しませんよ?」




構える私に、お兄さんたちの表情がどんどん曇っていく。

そこには、先ほどまではなかった恐怖もあった。




「え、や、やばそうじゃね?」


「に、逃げる?」




お互いに顔を見合わせながら、冷や汗を流すお兄さんたち。

その時、人混みの中から、誰かが必死に何かを叫んでいるような声が聞こえてきた。


微かに聞こえるそれは徐々にそのボリュームを上げていく。

間違いなくその声はこちらへと向かっていた。




「どこにおられますか!」


「お返事を!お返事を!」


「お嬢様!お嬢様!」




徐々にはっきりと聞こえ出した声に、誰が誰を探している声なのかなんとなく察する。




「「「「お嬢様ー!!!!!」」」」




ついに人混みの中から現れたゴリマッチョSP集団は、千夏ちゃんを見つけると、とんでもないスピードでこちらに駆け寄ってきた。




「お、お嬢様?」


「やばくね?SP?あれSP?」


「俺たち普通にやばくね?」




ゴリマッチョSPたちの登場に、お兄さんたちから一気に血の気が引いていく。

それから「し、失礼しましたぁ!」と叫んで、慌ててその場から逃げていった。


これにて一件落着だ。





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