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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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35/108

35.舞台練習。





千晴に練習場所として連れて来られたのは、主要校舎ではない、第三校舎の中庭の芝生の上だった。

普段あまり使われない校舎の為、ここには私と千晴以外誰もいない。

練習に没頭するにはちょうどいい場所だった。




「白雪王子が狩人から逃げた先には、小さな家がありました」




千晴に渡された〝白雪王子〟の台本を読む私に合わせて、千晴が右へ左へ、時には前へ後ろへと動く。


練習を始めて数分。

台本を一通り読み終え、いざ、練習を始めてわかったことは、この台本では、主役である千晴のやることが非常に少なく、最低限であるということだった。


千晴がやりたくないからそうなっているのではなく、台本がそうするように指示をしているのだ。

おそらく、どうしても千晴で白雪王子をやりたいと考え、台本の内容をこうしたのだろう。

これなら千晴はただただナレーションに合わせて動いていればいいだけなので、千晴本人にも頼みやすい。


『ただ華守くんは立っているだけでいいから!』


と、クラスメイトに言われたに違いない。


そう思って、そのまま千晴に聞いてみると、「何で知ってんの?」と不思議そうにしていた。




「白雪王子は小人たちを見て言いました。「ここはお前たちの家?」と。小人たちは白雪王子にそれぞれが反応を示します。まずは…」




必要最低限の動きを千晴はもう頭の中に入れているようだった。

私の続くナレーションに、台本を見ることなく、台本の通り動けている。

その動きは少々気だるげだが、おそらく、完璧だった。


やればできるじゃん。


千晴の完璧な動きに、千晴の努力が見えて、何だか嬉しくなる。

親心なのだろうか、それとも姉心なのだろうか。


台本を読み進めていくうちに、いよいよラストシーンになった。

ラストシーンは白雪王子が毒林檎の眠りから覚めるシーンだ。


千晴は台本通り、その場に仰向けに転んだ。

その隣に腰掛ける私は、台本越しに千晴を見た。


柔らかな夕日を吸い込むふわふわの黒髪。

そこから覗くあまりにも端正な顔。

高い鼻に形の良い口。

白雪という名に相応しい白い雪のような肌。

閉じられた瞼にある長いまつ毛が、美しい顔に影を落とす。


ーーー綺麗な子だな。


私はシンプルにそう思った。

ただ何もせず黙っていれば、彼は誰からも愛されるこの天性の見た目を持っているというのに。

それを凌駕する素行の悪さが残念ながら千晴にはあるのだ。




「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました。すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」


「…」




ここでお姫様にキスをされた白雪王子が目を覚ます。

男女は逆転しているが、あまりにも有名なシーンで説明の必要のない場面なのだが、千晴は何故か目を閉じたままだった。


…聞こえていない?




「呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」




聞こえていないのであろう千晴に、もう一度同じところを読む。

しかし、それでも千晴は何故かその瞳を開けようとはしなかった。




「千晴、起きるシーンだよ」




仕方ないので、台本の内容を千晴に伝える。

すると、千晴は瞳を少しだけ開けて、わざとらしく困ったように口を開いた。




「お姫様にキスされてないから起きられない」


「はぁ?」




ふざけたことを言う千晴に、つい呆れ顔になってしまう。しかしそれはどう考えても千晴が悪かった。


千晴はここまで、相手役がいなくとも、1人でどのシーンも問題なく、完璧にしてきたのだ。

最後のシーンだけ、相手役がいないという理由だけで、できない、と主張するとはおかしな話だ。




「もう一回同じとこ読むから、ちゃんと起きてよ」




呆れながらもそう言い、台本に視線を落とすと、台本を持つ手を千晴に掴まれた。




「ここ1番の見せ場だからちゃんとしたい。キスされて、お姫様が離れて、どのくらいのタイミングで起きれば自然なのか知りたい」


「…」




先ほどとは違い、真剣な眼差しでそう訴えかけてきた千晴に、思わず黙ってしまう。

こんなにもっともらしいことを言われては、言い返す言葉がない。




「…わかった。じゃあ、お姫様役の子も呼ぼう」


「いい。お姫様役は先輩がやってよ」


「は?」




千晴のとてもいい笑顔の要望に一瞬固まる。


何故、私がお姫様役を?

お姫様役の子を呼んだ方が練習になるのでは?


…いや、何か千晴にも考えがあるのかもしれない。

だから私に頼んだのかもしれない。


千晴はいつになく頑張ろうとしている。

こんなにも積極的に、学校行事に参加しようとしている千晴を見るのは、正直初めてだ。

この頑張りがきっとクラスメイトとの仲を深めるきっかけになる。

そのきっかけに少しでもなれるのなら、私もそれを応援したい。




「…わかった。お姫様役、やるよ」


「やったぁ。ありがとう、先輩」




渋々頷いた私に、千晴は本当に嬉しそうに笑った。

それだけこのシーンを大切にしており、きちんと千晴の中で形にしたかったのだろう。

その為に必要な練習相手が私だった。

私で練習して、次のクラスでの練習の時に、少しでもプラスになればそれでいい。




「じゃあ、さっきのところからもう一度いくよ?」


「はぁい」




千晴に改めて確認すると、千晴は軽く返事をし、再びその美しい瞳を閉じた。

練習再開だ。




「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」




まずここまで台本を読んで、私は一旦台本をその場に置く。

それからすぐそこに寝転ぶ千晴に、お姫様役として顔を近づけた。


一体どこまで近づければいいのだろうか。

ここはキスシーンだ。

キスシーンといっても、キスをするフリなので、本当にキスをするわけではない。

が、その適正な距離が私にはわからないのだ。


どんどん近づく千晴の顔に、さすがに恥ずかしくなってきた。

ただの後輩でも、ここまで顔が近いと、恥ずかしくもなる。

吐息がかかりそうな距離に、思わず息を止めた。


ーーー次の瞬間。


千晴はその美しい瞳をパチっと開けた。

どうやらここで白雪王子が眠りから覚め、起き上がるらしい。


恥ずかしすぎる距離にさっさと離れようとしたが、それを千晴に阻止された。

するりと千晴が私の首に両腕を回して、私を捕まえてしまったからだ。


鼻と鼻が今にも触れ合いそうな距離で、千晴はふわりと笑った。




「…っ」




こ、こんな感じだったっけ?


あまりにも近い千晴に恥ずかしさとパニックで、息をすることさえも忘れてしまう。

頭も真っ白になり、何がなんだかわからなくなる。


しかしそれもほんの数秒で、すぐに私は冷静さを取り戻した。

それでも頬に熱を持ったままで。


台本にはこんなシーンなんてなかった。

白雪王子はお姫様のキスで目覚めて、体を起こすだけだ。




「だ、台本と違う!」




やっとの思いでそう指摘すると、千晴は「そうだっけ?」とおかしそうにとぼけた。


…こいつ!絶対確信犯だ!私をからかう気だ!




「やっぱ、練習不足だからわかんないみたい。もっと練習しないと」


「…っ!?」




千晴を叱りつけようとしていると、千晴はおかしそうにそう言って、私の首に回していた腕を自分の方へと引き寄せた。

結果、私は何故か仰向けになっている千晴に抱きしめられていた。


…何故。




「…ちょ、どうして、そうなるのっ!」




わけのわからない状況に、とりあえず千晴の腕の中から逃れようとするのだが、当然、力では敵わず、されるがままで。




「は、離しなさい!」


「えー。やだ」




抵抗する私に聞こえてきたのは、とても嬉しそうな甘い千晴の声だった。


目の前には千晴の首があり、そこから千晴の香りが香る。

甘いような優しいようなそんな香り。

しっかりとした首筋に、私に回されている力強い腕。

至近距離で感じる千晴に頭がクラクラし始める。


相手はあの千晴だというのに。




「は、離さないと噛むよ!」


「…え?噛んでくれるの?」


「血が出るほどね!痛いよ!?」


「いいよ、噛んで?先輩」


「…」




どんなに喚いても、脅しても、千晴には何も効かない。

何故か甘い声音の千晴に心臓がどんどん加速し始めた。


きっととんでもない距離に千晴がいるからだ。

だからこんなにも心臓がうるさいのだ。

全く、心臓に悪い男だ。早く解放してくれ。





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