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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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32/108

32.最強の推し。





文化祭まで残り1週間。

学校内はいよいよ間近に迫った文化祭に向けて、忙しなくなっていた。


早めに授業が終わり、いつもより長い放課後が全て文化祭準備に充てられる。

我が校はスポーツ科もあり、部活にも力が入っている為、部活をしている生徒は部活優先で部活終了後に、文化祭準備に合流する。

委員会活動も同じで、風紀委員所属である私も、委員会活動後に、文化祭準備に参加していた。


私のクラス、2年の進学科の出し物は、第二校舎の3階と4階を使った大規模な脱出ゲームだ。


その脱出ゲームの内容とは、鷹野高校の文化祭に参加していたプレーヤーたちが気がつけば、過去に一度、廃校してしまった鷹野高校へと迷い込み、そこから脱出を目指す、というものだった。


脱出条件はたった一つ。

ここへ迷い込む原因となった昔病気で亡くなってしまったとある少女の心残りを解消することだ。


プレーヤーたちは廃校内を自分の足で歩き、時には廃校にいる生徒たちに声をかけヒントを貰い、時には用意されている謎を解いていく。

最後に心残りを解消することができると、ゴールへと辿り着け、晴れて脱出成功、というわけだ。


舞台が過去に一度廃校した鷹野高校なので、実は大して準備するものはなかった。

今の第二校舎を少々いじれば、すぐに廃校風にできる。

衣装に関しては、〝昔の鷹野高校〟がコンセプトなので、男子生徒は学ラン、女子生徒はセーラー服となっていた。


脱出ゲームの中で、運営側である生徒たちは様々な仕事をするのだが、私の仕事はプレーヤーたちにヒントを与える登場人物になることだった。

生徒たちに話しかけられた時、「あの子には好きな人がいた。確か名前は…」と言うだけの役だ。


ストーリーも完成され、謎もある程度できている為、あとは、装飾や衣装、謎の配置などを考えるだけだが、これがなかなか大変で忙しい。

放課後のクラス内は今日も忙しなく、全員がそれぞれの作業に没頭していた。


もちろん私もその中の1人で、雪乃やクラスメイトたちと共に、廃校に必要な装飾を作っていた。

私の担当はボロボロのカーテンを作ることだ。


指示された通りにハサミを動かしていると、その声は聞こえてきた。




「王子が吸血鬼になってる!」




へ?


廊下から聞こえてきた黄色い女子生徒の声に、思わず肩が跳ねる。

うちの学校の王子は1人しかいない。

そうバスケ部の王子こと、私の推し、悠里くんだ。

つまり、悠里くんが今、まさに吸血鬼になっているということで…。


推しが、吸血鬼?


廊下の騒ぎに、教室内も私と同じように、ざわめき始めた。




「ゆ、悠里くん、今、吸血鬼なの?」


「確か、スポーツ科は吸血鬼カフェだったよね?」


「絶対かっこいいじゃん…」


「み、見たい…」




主に女子生徒たちがキラキラと目を輝かせ、作業中の手を止める。その中には、教室から出て行く者まで現れた。

私は騒がしいクラスメイトたちを横目に、静かに頷いていた。


全く何もかもに共感できる。

悠里くんたち2年のスポーツ科は、彼女たちが言っていた通り、なんと吸血鬼が接客をしてくれる吸血鬼カフェだ。

なので、当然、そのクラスに所属している悠里も吸血鬼になる。


吸血鬼な悠里くん、絶対にかっこいい。

間違いなく、素晴らしく、尊いに決まってる。


とても見たいと思うが、今はその時ではない、と私はわかっていた。


この騒ぎだ。

きっと悠里くんのクラスは、悠里くん見たさに、たくさんの生徒が集まり、とんでもない騒ぎになっていることだろう。

そこに私が加わるということは、騒ぎを大きくする1人になるということだ。

ただ迷惑をかけるだけだ。

そんなこと絶対にできない。




「…」




…けど、すごくすごく見たい。


なんとか今、自分を支配する邪念を払う為に、手に持っている布を睨みつけながら、鬼の形相でハサミを動かし続ける。

そんな私を見て雪乃は「見たいんでしょ〜?王子の吸血鬼姿ぁ」と、おかしそうに揶揄ってきた。




「…今はいい」




ギリっと奥歯を食いしばり、なんとかその言葉を絞り出す。




「ふぅん」




楽しそうな雪乃に私は「…さっさと手を動かしなさい」と素っ気なく吐いた。


少し人が少なくなった教室で、また黙々と作業を再開する。




「文化祭まであとちょっとだけど、なんとか形になりそうだねぇ。文化祭、どんな男が来るか楽しみ」


「…雪乃らしい、楽しみだね」




意味深な笑みを浮かべる雪乃に、呆れたように笑う私。

いつもの雰囲気の中、他愛のない話をしていると、廊下が何故か先ほどよりも騒がしくなり始めた。




「…や、やば」


「な、なんで…」


「かっこいいよぉ」




主に女子生徒たちの黄色い声が先ほどからずっと聞こえてくる。

何事かと思っていると、うちのクラスの扉がガラッと開かれた。




「柚子、いる?」




扉から現れた人物が私の名前を呼ぶ。


サラサラの黒い髪。

そこから覗く、整った爽やかな顔。

優しげな瞳に形の良い口。


そして、キラリと光る鋭い牙。


制服に黒いコート姿の吸血鬼な推し、悠里くんがそこにはいた。




「「きゃあああ!!!!」」




突然の眩しすぎる存在の登場に、教室中の女子生徒たちが悲鳴をあげる。

その中には、数名の男子生徒までいた。


吸血鬼であるということだけでも、とんでもないのに、そんな推しが私のことを〝鉄崎さん〟ではなく、〝柚子〟と呼んでくれるなんて。


心拍数が一気に上昇し、頭に血がのぼり、クラクラする。

今にもぶっ倒れてしまいそうだ。


そんな自分を鼓舞して、私は表向きは冷静なままで、悠里くんの元へと向かった。




「…ど、どうしたの?ゆ、悠里くん?」




緊張して、うまく言葉を発することができない。

頬にも熱を感じ、熱くて熱くて仕方がない。

まるで悠里くんという太陽に焦がされている気分だ。

熱中症だ、これ。




「急に教室に押しかけてごめんね。実は作業が長引きそうで、帰るのが遅くなりそうでさ。何時までなら一緒に帰れるか相談しに来たんだ」




申し訳なさそうに笑う悠里くんからチラチラと見える牙が、新鮮でどこか色っぽくて、思わず視線が奪われてしまう。

話の内容があまりにも入ってこない。




「柚子に相談の連絡も入れたんだけど、返事が来ないから、聞きに来た方が早いかなって…。柚子?」




様子のおかしい私に、悠里くんが首を傾げる。

それと同時に私の視界は、一気に暗くなった。


推しのあまりの尊さに正気を失い、私はなんと失神してしまったのである。





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