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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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24.約束の練習試合。




side柚子




『鉄崎さん、週末空いてる?もし空いてたら、市営体育館で練習試合があるから観に来て欲しいんだけど…』




とある日の帰り道。

遠慮がちに私の様子を伺いながらそう言った沢村くんに、私は食い気味に「もちろん!」と答えた。


そして現在。

私は沢村くんとの約束を守る為に雪乃を誘い、雪乃と共に市営体育館へとやって来ていた。

我が鷹野高校バスケ部の練習試合を観るために。




「推しのバスケ…。ガチバスケ…」




体育館内の廊下をぼんやりと見つめる私に、ふわふわとした感覚が込み上げる。

今までこっそりとバスケをする沢村くんを観てきたが、きちんとしたバスケの試合を観るのはこれが初めてだった。


普段とは違い、勝ち負けにこだわる大事な試合。

練習とはいえ、いつも見ているものとは、明らかに違うのだろう。


これからそんな真剣な試合に挑む沢村くんを観られるなんて。


真剣な試合では一体どんな姿を沢村くんは見せるのだろうか。

汗を流しながら必死に声を張り上げ、コート内を縦横無尽に走り回り、試合を支配するその姿。

揺れる綺麗な黒髪から覗く、瞳は真剣そのもので…。




「…へへ」




想像しただけで、笑みが溢れてしまう。

急にだらしなく笑い出した私に、雪乃は「怖いわ」と無表情のまま、軽くツッコミを入れてきた。




「…どうせ、王子のことでそんな顔になってるんでしょ?」


「…え、やっぱ、わかる?」


「うん。顔に思いっきり書いてある」




呆れたようにこちらを見る雪乃に、私は、はは、と渇いた笑いを漏らす。


雪乃が相手だとどうしても気が緩み、思ったことがつい顔に出てしまう。

一応他の人の目もあるので、泣く子も黙る、鷹野高校の風紀委員長として気を引き締めなくては。


改めてキッと緩み切った顔に力を込め、いつものようにきちんとすまし顔を作る。

それから何となく、私の隣でスマホを触る雪乃を見ると、雪乃は表情一つ変えず、誰かとスマホで何やらやり取りをしていた。


おそらくお相手は先ほど体育館の入り口で声をかけてきた他校のイケメンだろう。


ここに来る時も、



『他校のイケメンを捕まえる☆』



と、うきうきしていた。

そしてその宣言通り、雪乃は声をかけてきたいろいろなイケメンと次々に連絡先を交換していた。

その流れで私にも声をかけられそうになったが、そこは雪乃がいるので、そうならないように上手く立ち回ってくれた。


ーーー雪乃、本当にすごい女である。

男を手玉に取るのが上手すぎて、その華麗な手腕に、毎回毎回脱帽だ。


そんなことを考えながらも、コート内が見える場所まで移動する。

それから開いていた大きな扉の向こうにあるコート内を、何となく覗いてみると、そこにはうちの高校のバスケ部と、今日の練習試合の相手である華守学園のバスケ部が、コートを半分に分けて、試合前の練習をしていた。


その中にはもちろん、私の推し、沢村くんもいる。

沢村くんはいつになく真剣な表情で、ボールを投げたり、走ったりしていた。


その姿に思わず視線が釘付けになる。


とても、とても、かっこいい。

間違いなく世界で一番眩しい。




「鷹野ファイ!」


「オウ!」


「ファイ!」


「オウ!」




コート内に両校の迫力のある掛け声が響き渡る。

気合の入った声は止まることなく、上げられ続け、この場を熱気で包んだ。

その光景に私は息を呑んだ。


さすがに今この状況で沢村くんに「来たよ!試合頑張って!」と、とてもじゃないが声はかけられない。

なので、私はさっさとこの場から離れて、2階のギャラリーへと移動することにした。


その時だった。




「鉄崎さん!」




大きな扉の向こう側。

コート内からとんでもなく素晴らしい声の持ち主が、何と私を呼び止めたのだ。

もちろんその声の持ち主とは、私の推し、沢村くんのことである。


さささ、沢村くん!?


突然のことで内心とても焦ったが、私は何とか平静を装い、声の方へと振り向いた。

すると、そこにはうっすらと額に汗を光らせながら、爽やかな笑顔で、こちらに走ってきてくれている沢村くんの姿があった。


沢村くんがあまりにも尊すぎて、何とか装った平静が崩れ、頬が思わず熱を帯びてしまう。


私の為にわざわざ練習をやめて、こちらに駆け寄って来てくれるだなんて。

笑顔が眩しすぎて直視できない。




「来てくれてありがとう、鉄崎さん」


「…いや、こちらこそ誘ってくれてありがとう」




笑顔の沢村くんに、こちらも至って冷静に笑顔で応え、「これ…」と、手にある差し入れを差し出す。




「ゼリー買ってきたからあとでみんなで食べて?」


「え。わざわざ?なんか気を使わせてごめん。ありがとう」




一瞬きょとんとして、すぐに申し訳なさそうに眉を下げる沢村くんに、胸がきゅーんと締め付けられた。


可愛い。私よりもずっと大きいのに子犬みたいだ。

こんな顔されたらもっと貢ぎたくなる。




「応援してるよ。頑張ってね、沢村くん」


「うん。ありがとう、鉄崎さん」




キュンキュンと私の胸を締め付けるこのトキメキに耐えながら、私は沢村くんにいつもと変わらない笑みを浮かべた。

そんな私に沢村くんは爽やかな笑みを浮かべ、お礼を言ってくれたのだった。


ああ、推し、尊い。





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