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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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20/108

20.勉強会ですよ?





放課後。

ホームルームが終わり、いつものように荷物をまとめていると、教室内がやけに騒がしいことに気がついた。




「なぁ、何でアイツがここにいるんだ?」


「だ、誰か、反感を買った命知らずな奴がいるとか?」


「怖いけどかっこいいよね…」


「話しかけたいけど、無理だよねぇ、普通に怖い」




騒つく生徒たちの声に何となく誰が現れて教室内がこうなったのか察する。

こんなにも必要以上に恐れられ、だが、かっこいいと騒がれる特殊な生徒なんて、この学校には1人しかいない。


荷物をまとめ終え、全員の視線が集まる扉の方へと視線を向けてみると、そこには予想通りの人物が開いている扉の枠に体を預け、こちらをじっと見ていた。

その人物、千晴が出入り口を塞いでいるせいで、誰もその扉を使えず、仕方なくもう一つの扉からそそくさと出て行っている。

その姿に、私はため息を漏らした。


全く、この教室にいる全員の帰る邪魔をするなんて。




「ちょっと、千晴…」




鞄を急いで持ち、呆れたように千晴の元へ行くと、そんな私を見て、千晴の表情は無表情から柔らかい笑顔へと変わった。




「先輩、迎えに来たよ」


「はいはい。全く。邪魔になってるよ。そこ」


「邪魔?なんで?」




私に呆れられながら注意された千晴が不思議そうに私を見る。

何故、自分が邪魔になっているのか、全くわからないといった様子だ。


…逆に何故、自分が邪魔になっていると思えないのか知りたい。




「こんなに大きな奴が出入り口塞いでたら通れないでしょ」


「人が来たら避けるけど」


「そういう問題じゃない。みんなアンタが怖いの」




私にそこまで説明され、千晴はどこか不服そうに急に黙る。

それからほんの少しだけ間を置いて、伺うように私を見た。




「先輩も俺のこと怖い?」




先ほどの柔らかい笑みを消し、私の本心を探るようにこちらをまっすぐと見つめる千晴。

私よりも全然大きいのに、まるで小さな子どものようにこちらを見る千晴に、何を言っているんだ、と私は鼻で笑った。




「怖いわけないでしょ?私は千晴が邪魔なとこにいたら、ちゃんと邪魔って言うから」




私は泣く子も黙る、この学校の風紀委員長なのだ。

一生徒のことを怖いだなんて思うわけがない。

そもそも千晴は素行が悪く、見た目が派手なだけで、怖いやつではない。

私を害そうとしてきたことなんてもちろんないし、もし仮に千晴が私を害そうとしようものなら、あらゆる手段で対抗するつもりだ。


私は強いのだ。千晴くらいどうとでもなる。


私からの答えに千晴は「やっぱり、先輩、最高」と何故かとても嬉しそうに笑っていた。


…よくわからないやつ。当然のことを言っただけなのに、何がそんなに嬉しいのだろうか。


「…とりあえず集中して勉強できる空き教室に移動するよ?いい?」


「うん」




未だにご機嫌な千晴に怪訝な視線を向けながらも、スマホを鞄から取り出す。

それから私は沢村くんに今決まったことや、千晴と合流していることなど、必要事項を伝える為に、スマホを触り出した。


私のスマホの画面が沢村くんとのツーショットロック画面から、ロックを解除したことによって、千晴とのツーショットホーム画面へと変わる。

それをたまたま横から覗いていた千晴は満足げに笑った。




「やっぱいいね、そのホーム画面」


「…変えても変えても千晴がこれに勝手にするんでしょ?もう面倒だからこのままにしてるだけだから」




迷惑そうに千晴を見れるが、それでも千晴はどこか嬉しそうで。

自分さえ良ければそれでいい、という自分勝手な思考が丸わかりだ。

困っている私なんてお構いなしなのだ。コイツは。


千晴の言動にため息を漏らしながらも、千晴と他愛のない話を続け、目的の空き教室へと着く。

その教室には私たち以外、誰もおらず、集中して勉強するにはうってつけの場所だった。


教室に入った私と千晴は適当な机を選び、とりあえずその机を囲うように座る。

そしてそのまま勉強会は始まった。




「で、どこを教えればいいの?」




机を挟んで向かい側に座り、数冊のテキストを出した千晴に、私は真剣な表情で早速質問する。

すると千晴は少し考えて、一冊のテキストを手に取ると、適当にパラパラとめくって、「ここ」と気怠げに開いたページにある問題を指差した。

千晴が適当に選び、指差した問題は数学の問題だ。




「これね。これはね、まず公式を使う問題なんだけど…」




千晴が指差した問題の解説を私はテキストを見ながら早速始める。



それからしばらく話すこと数分。

何となく千晴のことを見てみると、テキストではなく、私をじっと見つめる千晴と何故かバチっと目が合った。




「…聞いてた?」




こちらを見る千晴に、私は静かな声で問い詰める。

千晴は私の問いに、きょとんとした顔をして、少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。




「ごめん、聞いてなかった」


「はぁ?」




全く悪びれることなく、平然としている千晴につい眉間にシワが寄る。


一体何のために勉強会をしていると思っているんだ。

千晴がこんなではダメではないか。




「今回のテストやばいんでしょ?だから勉強会してるんだよね?ちゃんと聞いてないと意味ないよ?」


「ごめん、先輩。でも先輩が可愛すぎることも悪いと思う」


「は?私が?」


「うん。先輩が可愛すぎて話全然入ってこない」


「…」




怒る私にあっけらかんと答え続ける千晴に頭が痛くなってくる。

私をおだてれば自分の思い通りになると思っているのなら大間違いだ。




「…はぁ。そんなとこ言っても許さないからね。集中しなさい」




千晴の言動に呆れながらも、目の前でへらりと笑う千晴の頭を軽く叩くと、千晴の表情は何故か不満そうなものへと変わった。

その顔がしたいのは私の方である。




「…別に許されたくて言ったわけじゃないんだけど」




不服そうにそう呟いた千晴が私から視線を落とす。

それから机の上に置いてあった私の右手に自身の左手の指をするりと滑らせると、何故か絡ませてきた。


何の予告もなく、突然私の手を捕らえた千晴の手。

私よりも大きくて、硬い千晴の手に、私とは全然違うな、という、月並みの感想しか出てこなかった。

千晴は男で、私は女なので、当然の違いだといえばそうなのだが。


だが、そう思うと、何故か急に相手はあの千晴だというのに、気恥ずかしくなってきた。




「…」




それでも何事もないように平静を装う。

頬に少し熱を感じる気もするが、きっと気のせいだ。


だが、どこかむず痒くて、つい千晴から視線を逸らしてしまう。

この時、私は千晴が私の小さな変化に気づき、まるで獲物を狙う肉食獣のような目で、私を見ていたことに当然気づかなかった。


私が視線を逸らしている間も、千晴は無言で私の手に優しく触れ続ける。

やがてその手は私の手を下から優しく掴み、そのまま自身の方へと引き寄せた。


そして何故か千晴はそんな私の手の甲に唇を寄せた。


え、キスされた?手の甲に?


視界の端で何となく見えた千晴の行動に、私は思わず目を見開き、千晴の方を見る。

すると、まっすぐと、だけど、どこかイタズラっぽくこちらを見つめる千晴と目が合った。


それから千晴はもう一度私の手の甲に唇を寄せ、何と今度はペロリと私の手の甲を舐めてきた。




「な、な、な、何すんの!」




あまりの衝撃にそう叫んだのと、ガターンッと勢いよく席から立ち、千晴の手を振り払ったのはほぼ同時で。




「どうしたの?」




さらにそのタイミングで私の推し、沢村くんまでも不思議そうに私たちの元に現れたので、私のキャパシティがついに悲鳴をあげた。


な、何てタイミング!




「あ、さ、沢村くん、こ、これ、は…」




真っ赤な顔のまま、私はなんとか状況を説明しようとする。

…が、いろいろなことが重なりすぎて、軽くパニックになっている為、上手く言葉が出てこない。


千晴に何故か手の甲にキスされるは、舐められるは、突然推しが現れるはで、もう私の頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。

私の様子を見ていたこのパニックの元凶、千晴は私が上手く説明し始めるよりも早く楽しそうに口を開いた。




「そんなに気になるなら詳しく教えてあげるよ。先輩はね、俺と指を絡ませて…」


「千晴、ストップ!」




本当に楽しそうに先ほどのことを詳しく話し始めようとした千晴を、私は大声で制する。

手の甲にキスされた上に舐められたなんて、とてもじゃないが沢村くんには言えない。

恥ずかしすぎる。




「千晴が悪ふざけしてきたから怒っただけです!」




私は千晴が何か言うよりも早く、必死にそう沢村くんに主張した。


間違いではない。むしろ正しい。

詳しく言わなかっただけだ。




「そっか…。大丈夫、鉄崎さん?」


「…う、うん、大丈夫」




何とか平静を取り戻してきた私を沢村くんが気遣うように見つめる。

優しくも柔らかい沢村くんの瞳は、私を労る気持ちでいっぱいだ。


私の推し、やっぱりかっこいいし、優しいし、最高なのでは?


見た目だけではなく、中身まで王子様のような人なのだ。沢村くんは。

バスケ部の王子様、と呼ばれていることも頷ける。

もういっそ、地球の王子様、でもいいと思う。


沢村くんに内心メロつきながらも私はいつも通りしっかりとした表情を作る。

そんな私の隣に沢村くんは座ると、「よろしくね、鉄崎さん」と優しく、そして爽やかに微笑んできた。


その微笑みにうっかり昇天しそうになったことは言うまでもない。

こうして3人での勉強会が始まったのであった。





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