19.わかっていない。
「…かっこいい」
お昼休み。
私は今日も教室の窓際の席で雪乃と弁当を食べながら、外でバスケをしている私の推しこと、沢村くんのことを見つめ、うっとりとしていた。
今日のような沢村くんと一緒に昼食を食べられない時は、決まって沢村くんはいつもあそこでバスケをしている。
それが私と付き合う前からの沢村くんのお昼の過ごし方で、私と付き合うようになってから、沢村くんは週に2回ほど私の為に時間を作り、私と一緒に昼食を食べてくれていた。
全て彼氏としての責任感から。
絶対私と昼食を食べるよりも、気心の知れた友人たちとバスケをしている方が楽しく、有意義なはずだ。
それなのに、ただ付き合っているというだけで、私の為にわざわざ時間を作ってくれるとは、なんて私の推しは優しく、完璧で究極の彼氏なのだろうか。
「…はぁ、かっこいい」
ボールを持つ沢村くんの周りに集まってきた相手チームの男子生徒たちを難なくかわし、遠くから綺麗なフォームでシュートを決めた沢村くんに、思わず感嘆の息が漏れる。
沢村くんを見ながら食べる白米が一番美味しい。
「…ふ、相変わらず好きだねぇ、王子のこと」
「へ?まあ、うん。好きだね」
私の視線の先に気づいた雪乃が揶揄うように笑ってきたので、私は当然だと頷いた。
雪乃の言っていることに間違いは一つもない。
私は沢村くんのことが好きだ。
「アツアツね。最近、様になってきたよ、2人とも。ちゃんと付き合っているように見える」
「本当?私ちゃんと彼女できてる?」
「できてるできてる」
私の言葉に気だるげに頷く雪乃に私はホッとする。
以前、付き合いたての頃、私たちは本当に付き合っているのか、と疑われるような関係だった。
だが、この1ヶ月で、登下校や昼食を共にし、デートまでした私たちは、もう誰もが認めるカップルとして定着しつつある。
この学校で沢村くんに興味を持つ者で、私が彼女だという事実を知らない者はおそらくいないだろう。
私はしっかりと彼女という名の壁になるという役割を果たせているようだ。
「けど、まだ危ういよね、アンタ」
「え?私?」
窓際からさっさと弁当へと視線を戻し、卵焼きを口に入れた雪乃に私は首を傾げる。
危うい?私が?
「千晴くん。あれ、どうすんの?」
「へ?千晴?」
考えてもよくわからないので、じっと雪乃の次の言葉を待っていると、雪乃から何故か千晴の名前が出てきて、私は眉間に深くシワを寄せた。
千晴が私の危うさに一体何の関係があるというのか。
全くわからない。
首を捻り続ける私に、雪乃が「本当、鈍いわね」と呆れたように笑う。
それから意地の悪そうな笑みを浮かべて、ゆっくりと、言い聞かせるように口を開いた。
「ぱっと見仲のいい先輩後輩に見えるアンタたちだけど、明らかに千晴くんは柚子のこと好きじゃん。放置してると、知らぬ間にパクッと食われるわよ」
「…」
雪乃、まだそう思ってたんだ…。
雪乃からのまさかの答えに私から肩の力が抜けていく。
何か私が気づいていないような重要なことでも言われるのかと思ったが、千晴の私への恋心を指摘してくるとは。
千晴は確かに私へ好意を抱いているだろうが、あれはよく面倒を見てくれるちょっと口うるさい先輩へ向けてのものだ。
千晴にとってお母ちゃんorお姉ちゃんなのだ、私は。
「…落ち着いて、雪乃。あれはそういうのじゃないから」
「そういうのだと思うけど」
「違う違う」
呆れたように笑い、首を振る私に、雪乃は「これだからアンタは」と何故か深刻そうな顔でため息を漏らしていた。
え、私が悪いみたいになってない?
「あ、そういえば、千晴といえばなんだけど、今日の放課後から千晴に勉強教えるんだよね」
「…へぇ」
「で、沢村くんも一緒に勉強したいみたいで、3人で勉強することになったの」
「…え?3人って、アンタと千晴くんと王子の3人で?」
「そう」
「…」
最初こそ、気だるげに興味なさそうに私の話を聞いていた雪乃の目が何故かどんどんキラキラと輝いていく。
興味津々です、とその可愛らしい目が言っている。
「修羅場じゃん、おもしろぉ。また話聞かせて」
それから雪乃は楽しそうにそう言って私に笑った。
え?修羅場?何故?




