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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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18/108

18.お願い。





「おはよ、先輩」




私の声を流れるように遮った千晴は、何故かそのまま私を後ろから抱きしめてきた。

生徒たちの視線が一斉にこちらに注がれている気がする。


…何だ、これ。




「…おはよう、千晴。離してくれない?」


「俺のお願い聞いてくれたら離す」


「…お願いぃ?」




気怠げな千晴の声に眉間にシワを寄せる。

一体お願いとは何なのか。




「うん。俺、今回のテストヤバそうでさ。だから先輩に勉強教えてもらいたいんだよね。ダメ?」


「なんだ、そんなこと?」




未だに私を自身の腕の中へと閉じ込め続ける千晴に、私は思わず苦笑する。

お願いだと言うからもっと難しいことでも言われるのかと、身構えてしまったではないか。




「勉強くらいいくらでも教えるよ。はい、わかったら離す」




千晴のお願いをさっさと聞き入れ、私は自分を離すようにと、後ろに振り向き、グッと千晴の胸を押す。

だが、何故か千晴は私を離そうとせず、「もうちょっとだけ」と、私の頭に自分の頭をぐりぐりと押し付けてきた。千晴のせいで私の綺麗な一つ結びがボサボサだ。




「やめろバカ!髪がボサボサになっちゃうじゃん!」


「そしたら俺がまた結んであげる」


「そういう問題じゃない!」




先ほどよりももっと力を入れて千晴の胸を押すのだが、びくともせず、私は千晴にされるがままだ。

力では敵わないと思い、私は一度千晴から逃れることを諦め、どうすれば自由になれるのか考えることにした。


やはりここはみぞおちに一発、私の肘を喰らわせるしか…。




「嫌がってるだろ、離れろよ」




今まさに千晴のみぞおちを狙いかけたところで、沢村くんがどこか面白くなさそうに私たちを見て、千晴の肩を掴む。




「は?何、お前?」


「鉄崎さんの彼氏だけど」


「…」


「…」




それから2人は、私を挟んで、千晴がにこやかに、沢村くんが怖い顔で、静かに互いを睨んだ。

間に挟まれた私はとんでもない空気に1人晒される。


…居心地が悪すぎる。




「…千晴、私を離しなさい。あと沢村くんを睨むな」




もう我慢の限界だと、できるだけ怖い顔で千晴の頬を掴んで横に引っ張る。

私の推しを睨むだなんて言語道断。許されるものではない。

私に頬を引っ張られた千晴は何故か嬉しそうに「はぁい」と間の抜けた返事をし、やっと私から離れた。


千晴から解放された私はそのまま自由になった体で、千晴の方へと振り向き、千晴を見据える。




「…それでいつ勉強教えればいいの?」




それから私は腕組みをし、千晴に真剣な表情でそう尋ねた。

予定を早く決めておくに越したことはない。




「テストまでの放課後全部」


「え?全部?」


「うん。全部」


「やる気満々じゃん」


「まあ、今回ヤバいし、先輩に手取り足取りいろいろと教えてもらいたいからね」


「…なるほどね」




千晴のまさかすぎるやる気のある答えに、少々意外で驚いたが、私は深く頷く。

やる気のある後輩の手助けならぜひやりたいところだ。


千晴は我が鷹野高校の中でも圧倒的に真面目な生徒が多い進学科だ。

それなのに、全身校則違反だらけで、問題ばかり起こし、真面目のまの字もない問題児だ。

そんな千晴が、必要に迫られてとはいえ、勉強に対してやる気を出してくれているのだ。

先輩としては応援したい。


テスト週間は今日から1週間だ。

つい先ほど、沢村くんと一緒に帰る約束をしかけたところだが、沢村くんと一緒に帰ることと、千晴に勉強を教えること、どちらが大事か。


正直、沢村くんは私の彼氏だという義務感で私といるだけで、別に私と帰れなくてもいいだろうし、困っている後輩がいるのなら助けるべきと言うだろう。


ならば私の選ぶ答えは一つだ。



「わかった。テストまでの1週間、放課後全部私が千晴に勉強教えるよ」


「本当?」


「本当」


「やったぁ」




千晴に力強く笑顔で頷くと、そんな私に千晴は嬉しそう笑った。

きっと、沢村くんも納得の答えだろう。




「と、いうわけだから、沢村くん。今週は一緒に帰れなくなっちゃった。だからまた来週から…」




千晴との話の流れそのままに、私は今度は沢村くんの方へと視線を向ける。

すると、沢村くんは信じられないものでも見るような目で私を見ていた。


な、何で?


沢村くんの視線の意味が全くわからず、ここにいるもう1人の人物、千晴の方へと何となく視線を移せば、千晴は千晴で何故か勝ち誇ったような笑みで沢村くんのことを見ており、ますますわけがわからなくなる。


な、何で?


2人の間で状況が飲み込まず、おろおろしていると、やっと沢村くんが口を開いてくれた。




「…俺も勉強したいし、一緒にいい?」


「…う、うん!もちろん!」




伺うようにこちらを見る沢村くんに、私は戸惑いながらも、笑顔で了承する。


どうやら沢村くんも一緒に勉強がしたかったようだ。

しかし、なかなか言えるタイミングがなく、自分よりも先に、千晴が言ってしまい、さらには約束まで取り付けているところを見て、あのような複雑な表情を浮かべていたらしい。


千晴は沢村くんの提案に「まあ、俺には拒否権ないし」とどこか嫌そうにだが、沢村くんと一緒に勉強することを了承していた。


そこまで話したところで、キーンカーコンカーンコーン、と予鈴が鳴る。

なので、私たちは朝のホームルームに間に合わす為に、慌てて解散し、急いで教室へと向かったのだった。


ちなみに千晴だけは全く急いでいなかったので、途中まで私が腕を無理やり引き、強制的に急がせた。



 


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