16.同じにしたい。side千晴
side千晴
太陽が沈み、パーク内が電飾の海に包まれる。
その中で俺の隣を歩く小さな存在に、俺はじんわりと心が暖かくなった。
意志の強そうな瞳に、小さな口。
綺麗だが、可愛い要素もある、美人な柚子先輩の横顔は、いつまでも見ていられる。
先輩を見て俺は改めて、好きだな、と思った。
複数の事業を展開する、日本有数のグループ、華守グループの跡取り息子である俺は、生まれた時から特別で、何をしても許される存在だった。
周りの大人たちによって勝手に決められたつまらない道に、俺に頭が上がらない全ての人間たち。
俺を取り巻く全てがつまらない。
そう思って生きてきたが、先輩と出会って全てが変わった。
先輩は時に強く、時に優しい人だ。
それは誰に対しても同じで、俺に対してもそうだった。
そんな先輩が俺は好きだ。
今日の先輩も本当によかった。
強いところも優しいところも見れたし、何よりも私服の先輩はいつも見る制服の先輩とはまた雰囲気が違い、カジュアルでとても可愛いかった。
だが、そんな大好きな先輩に〝彼氏〟ができてしまった。その枠はいずれ俺のものになるはずだったのに。
最初、先輩に彼氏ができたと知った時、はらわたが煮えくり返った。
心が、体が、不快と怒りに支配され、どうしようもない不快感が俺を襲った。
しかし、今はもう落ち着いている。
何故なら先輩が彼氏に選んだ相手が、ただの先輩の推しだったからだ。
先輩は別にアイツのことを異性として好きではない。
ただの推しとして推しているだけだ。
先輩からアイツの話を聞くたびに、そこに俺と同じ熱を一切感じなかったので、すぐにそうだとわかった。
まあ、だからといって、先輩の口から他の男の話なんて聞きたくないが。
だから一刻も早く俺を好きになってもらわなければならない。
そうでなければ、この不快な状況がずっと続いてしまう。
「うわぁ…」
俺の隣にいた先輩がある場所を見て感嘆の声をあげる。
先輩の視線の先には、このパークのシンボル、大きな西洋式のお城があった。
先ほど先輩と共に軽食を食べた場所だ。
ライトアップされているそれは昼間のものとはまた違うものに見えた。
一般的な感想を述べるなら、あれは綺麗なのだろう。
俺にはただ光っているな、という感想しかないが。
けれど、そんなただ光っているだけの建物でも、先輩越しに見れば、何故かとても輝いて見えた。
先輩と共に見る景色はどんなものでも美しいと思えた。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
俺に呼ばれてこちらに振り向いた先輩は相変わらず可愛らしくて。
どうしたの?と目で聞いてくる先輩に心臓を鷲掴みにされる。
「一緒に写真撮ろ、先輩」
「写真?うん。いいよ。撮ろ」
俺の提案に先輩は当然のように快く頷いてくれた。
なので、俺は早速自分のスマホを出し、撮影の準備を始めた。
まずは内カメにし、そしてそのままスマホを縦に持つ。それから画角に先輩と一緒に入れるようにスマホを持つ右手を伸ばした。
先輩が俺の近くに寄る。
スマホの画面には光り輝くパークを背景に微笑む2人。
お揃いのバケハをかぶっており、先輩は胸元、俺は顔にこれまたお揃いのサングラスがある。
どこからどう見ても恋人にしか見えない2人だ。
俺はちょうどいいところでシャッターを押した。
「先輩どう?」
それから俺はすぐに写真を先輩に見せた。
「ん?うん。めっちゃいい写真じゃん。綺麗」
俺に見せられた写真を見て、先輩が嬉しそうに笑う。
愛らしいそんな先輩に俺はまた先輩への愛しさで胸がいっぱいになった。
傍から見て俺とアイツ、どちらが先輩と恋人同士に見えるのか。
それは間違いなく、俺の方だろう。
先輩のスマホのロック画面になっているアイツとの写真よりも、ずっと今撮った写真の方が恋人らしい。
アイツよりも俺の方が先輩と恋人のような関係なのだと、周りに、そしてアイツにじわじわと思い知らせてやる。
その為にも、アイツにお土産を買う先輩を後押しした。
お土産を渡せば、自然と今日の話になるからだ。
今日、お前ではなく、俺と共に過ごした柚子先輩という存在をアイツも知ればいい。
そうして少しずつ、俺と先輩の仲をわからせていけば、アイツは先輩と別れるはずだ。
自分は相応しくない相手だった、と。
あとはアイツと別れて傷ついた先輩を俺が慰める…いや、そもそも俺を好きになれば、先輩が傷つくこともない。
やはり一刻も早く俺を好きにさせなければ。
「先輩、写真送るから、連絡先教えて」
「うん。ちょっと待ってよ…」
自然な流れで先輩の方へとスマホを向けると、先輩は頷いて、鞄に手を入れた。
こうやって、アイツのいない2人だけの時間をどんどん積み重ね、先輩の中に自然と俺を浸透させていく。
それから徐々に俺を好きにさせる。
周りにも抜かりなく手を回して、俺と先輩こそが結ばれるべきだという空気を作るのだ。
先輩が知らないうちに少しずつ囲ってやる。
だから同じになろう、柚子先輩。
「そっちが読み取る?」
QRコードを表示させたスマホをこちらに向けて、首を傾げる愛らしい存在に俺は瞳を細めた。




