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推しに告白(嘘)されまして。  作者: 朝比奈未涼


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12.お誘い。





最高すぎた推しとのデートの翌日の放課後。

私は今日も風紀委員室にいた。

そして机を挟んで目の前に座る千晴のことを睨んでいた。

今日こそはきちんと反省文を書かせる為に。


先日は仕事のついでに千晴の反省文の監督をしたせいで、酷い目にあった。

だから今日は仕事もせずに、千晴から片時も目を離さないつもりだ。

少しでもおかしなことを書き始めたら止めてやる。




「ねぇ、先輩」


「ん?」




先日とは違い、一応真面目に反省文を書いていた千晴を睨みつけていると、ふと千晴が思い出したかのように手を止め、顔を上げた。


急にどうした?




「先輩は土日何やってたの?」


「え?土日?」


「そう土日」




千晴からの突然の質問に首を傾げる。

私を見る千晴には、何か意図があるようには見えず、本当に今思ったことをそのまま口にした、という感じだ。




「推し…じゃなくて、沢村くんとデート」




なので、私も特に何も考えずにただ淡々と千晴からの質問に答えた。




「…」




私の答えを聞いた後も、千晴は何も言わずに、ただじっとこちらを見続ける。

そんな千晴の様子に、まだ続きが聞きたいのかな、と思い、私は続けて喋ることにした。




「運命diaryっていう漫画が原作の映画を観に行ったんだけど、その前にその漫画に出てきた神社に行ってきたの。近場にまさかあんな神スポットがあるなんて知らなかったよ」




そこまで言って、制服からスマホを取り出し、ライブラリを開く。そしてその中にある風景の写真や沢村くんの写真を千晴に見せた。


ここまで喋り出すともう止まらない。




「沢村くんかっこいいでしょ?デートのプランも沢村くんが考えてくれて、めっちゃ楽しかったんだよ。沢村くん、すごいスマートで、子どもには優しいし、盗撮犯には毅然と立ち向かうし。困っている人には、平等に手を差し伸べられる素敵な人だったの」




昨日のことを思い出し、思わず締まりのない表情になる。推しが尊すぎて、語っても語っても、語り足りない。

あんな素晴らしい人の彼女になれた私は世界一の幸せ者だ。


ついヘラヘラしたまま千晴を見ると、千晴はどこか面白くなさそうにこちらを見ていた。


…少し語りすぎたようだ。


この話はこれで終わりだ、とライブラリを閉じ、ホーム画面に戻してから、スマホの画面を消す。

すると、暗くなったスマホの画面に一瞬だけ、不満げな千晴が映った。


どうやら面白くないを通り越して、機嫌を損ねてしまったらしい。私の話が長すぎるあまりに。


語りすぎてごめん、千晴。

興味のない話を永遠に聞かされればそうなるよね。


反省し、千晴に謝罪しようとした。

その時。




「…先輩、俺ともデートしよ」


「へ?」




突然、千晴から耳を疑うようなことを言われた。

不満そうだが、どこか真剣な気もする千晴を、私はついまじまじと見る。


今、デートに誘われた?

まさか。そんなまさかね。

『先輩、俺のデートの話も聞いて』とか、そんなことを言ったのだろう。


…だが一応、万が一もあるので、聞き直した方がいいだろう。




「もう一回言える?」


「俺ともデートしよ」


「…はぁ?」




無表情だが、どこか焦がれるような視線を私に向ける千晴に、表情がひきつる。

聞き間違いではなかったようだ。




「ごめんけど、私はあくまで沢村くんの彼女なので。千晴とデートはできません」




きっぱりとそう千晴に告げると、千晴は黙ったまま視線を落とした。


一体何なんだ。




*****




そう、きっぱりと告げたはずなのだが。


次の日の朝、いつものように校門前で委員会活動をしていると、千晴が私の前に現れた。

2枚のチケットを見せながら。




「これ、メルヘンランドのチケット。もらったから一緒に行こ、先輩」




そう淡々と誘ってきた千晴に、呆れて苦笑いを浮かべてしまう。

メルヘンランドとは、日本でも有数の超大型テーマパークで、老若男女問わず大人気の場所だ。




「いや、私は沢村くんの彼女…」




昨日も同じ理由で断ったはずなのに何故誘う、と思いながらも、何となく千晴の手にあるチケットを見て、私は言葉を止める。


千晴の手にあるチケットが普通のチケットには見えないのだ。

そもそもメルヘンランドのチケットは基本電子チケットで、あまり紙のチケットは見ない。

紙のチケットだから違和感を覚えているだけなのだろうか。


どうしてもこの違和感の正体が気になって、よくチケットを観察する。するとチケットにはVIPという文字が記載されていた。


え、VIP?




「え、えぇぇぇ!?」




千晴の手にある信じられないものに、思わず大きな声を出してしまう。

それから私は慌てて自身の口を塞いだ。


いけない!こんなたくさんの生徒の目があるところで取り乱してしまうなんて!


だが、今、千晴が手に持っているものは、そうなってしまってもおかしくないものなのだ。


千晴の手にあるメルヘンランドのチケットは、どうやらVIPチケットらしく、本物であれば、なかなか簡単には手に入らない価格帯のものだった。

私の記憶が正しければ、確か10万以上はするものだったはずだ。それをただの高校生の千晴がもらったとは…。

一体どういう関係の人からもらったんだ。




「と、とりあえず、それ、しまって」




千晴の手にあるものの価値に気づき、青ざめながらもそれをしまうように千晴に指示する。

すると、千晴は「はーい」と適当に返事をし、さらに適当に制服のポケットにチケットを入れようとしたので、私は慌てて鞄にしまうように強く言った。


千晴はきっとあのチケットの値段や価値をちゃんとわかっていないのだ。

あれはレシートと同じような扱いをしていいものではない。




「で、一緒に行ってくれるの?先輩?」




千晴の何もわかっていない言動にやきもきしていると、どこか甘えるようにこちらを見る千晴と目が合った。


キラキラと輝く日本人ならまず似合わせることの難しい金髪から覗く、綺麗な瞳がこちらをまっすぐと見つめている。

私と一緒に行きたい、と訴えるその瞳に、私は複雑な気持ちになった。




「…千晴の先輩ってだけで、そんな高価なチケットでメルヘンランドには行けないよ」




私は千晴にとってただの口うるさいだけの先輩だ。

そんな私がこんな貴重なチケットを使える訳がない。

VIPチケットでメルヘンランドに行ってみたい気持ちももちろんあるが、さすがにそれは気が引けるし、受け取れない。




「だから私じゃなくて、もっと仲のいい人とか大切な人とかと行き…」


「そんな人先輩しかいない」


「え」


「だからそんな人俺には先輩しかいないよ」




寂しそうにこちらを見る千晴の言葉に、嘘だ、と一瞬思う。

だが、それは本当に一瞬だけで、すぐに千晴の言葉は本当かもしれない、と思った。

悪い噂が絶えず、生徒たちに恐れられ、距離を取られている千晴が、学校で誰かといるところを私は見たことがないのだ。




「柚子先輩が一緒に行ってくれないなら、俺、メルヘンランドに行けない」




私よりも倍大きい男がシュンとした表情で私を見る。




「わ、私は沢村くんの彼女で…」


「チケットはあるからあとは行くだけなのに」


「だから私は…」


「柚子先輩しか一緒に行く人がいないのに」


「だから、わ、私はっ」


「行きたかったな…」


「〜っ」




どこか辛そうに私から視線を逸らした千晴に、私の良心がとうとう限界を迎える。




「…わかった。一緒に行くよ」


「本当?ありがとう、先輩」




ついに頷いた私に、千晴は先ほどの辛そうな表情が嘘かのように嬉しそうに笑った。


…ま、負けた。

あんな寂しそうな顔をされては良心が痛んで断れない。





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