レックスのハンターデビュー
ある日の事、アルドレア王国の王都に1台の馬車が来た。
正門の前に止まると、1人の青年が馬車を降りた。
「なあ、ホントに大丈夫か?レックス」
「まったくもう……、心配しすぎだって」
すると、馬車の持ち主であろう男が馬車から顔を出して、レックスと呼ばれた青年と話していた。
「心配だってするさ。魔物狩り(以下ハンター)は死と隣り合わせの職業だぞ?
そんなハンターにお前みたいなペーペーの剣士もどきがなった所で死ぬだけだぞ?」
「大丈夫だって言ってるでしょ?
村長だって言ってたろ?俺は戦闘スキルをたくさん持ってるからハンターになっても魔物に苦戦することはないだろうって」
「そうは言ってもな……。やっぱ心配だな……」
「心配しすぎだって何度も言ってるだろ?俺なら大丈夫!
次に村に帰る時は歴戦のハンターになってるかもな!」
「 ハァ……。そこまで言うなら大丈夫か……」
そんな頭を抱える男をよそに、レックスはガッツポーズをしながら喜んでいた。
(これで俺はハンターとしての一歩を踏み出せるぜ!)
そんな事を思っていた。
「ただし、お前に一言だけ言っておく」
(何だよ、今度は何だってんだよ……)
レックスは頭をかきながら仕方なく男の方をいま一度向いた。
「絶対に死ぬなよ」
「……。何当たり前の事言ってるんだよ」
「確かに当たり前の事だ。
だけど、『当たり前ほど維持が難しいものはない』ってよく言うだろ?」
男はそう言った後に、フフッと笑い馬車に顔を引っ込ませた。
「じゃあな!レックス!元気で暮らせよ!」
「ああ!アスクも元気でな!」
レックスとアスクと呼ばれた男は、それぞれお互いに手を振って別れを告げた。
アスクの馬車が見えなくなった後、レックスは王都の正門を振り向き、少し深呼吸をした。そして、王都に向かって歩き出した。
(ここから始まるんだな……。俺のハンターとしての生活が!)
「よ~し!いつか立派なハンターになってやるぞ~!」
レックスが王都の正門をくぐると、今までの17年間の人生で見たことのない景色ばかりが広がっていた。
広場で行われている旅芸人の曲芸も、道を挟むように行われている市場も、レックスにとっては全てが新鮮だった。
レックスは目を輝かせながら、街を歩いていた。
そして……、
「あれ?俺、今どこにいるんだ?」
道に迷った。
王都とはいえ、地図もなしに手当たり次第に歩いているのだ。迷って当然である。
しかもそれに加えて、レックスが迷い込んだのは路地裏も路地裏、言わば人が寄り付かない場所に迷い込んでしまったのだ。
そんな事はお構いなしに、レックスは何故かその路地裏を突き進んでしまった。
最終的にレックスは、行き止まりにぶち当たるまでその路地裏を突き進んでいた。
なんとか王都の正門に戻ってこれた後、レックスは兵士に聞いてみることにした。当然、彼は兵士にハンターギルドの場所を聞いた。
その後、レックスはなんとかハンターギルドに到着した。
……とにかく大きい。
レックスは今まで見たことのない建物の大きさに唖然としていた。
(何だこの大きさは……。城じゃないのは分かってるけど、それにしてもデカいな……。俺の家何個分だよこれ……)
レックスは意を決して、ハンターギルドの中に入った。
……中も大きいし、それに豪華。
それに、色んな人がいる。見るからに重そうな剣を背負った戦士や、魔導書をたくさん背負った魔法使い、レックスの住んでいる村では見ない人ばかりだ。
レックスは、誰に話しかければハンター登録ができるのかが分からなかったが、そのうちレックスと同じでハンターになるためにギルドを訪れたという少年と出会った。
そして色々と話を聞いていると、ハンターになるためには養成学校を卒業しないといけないらしいが、アルドレア王国では曖昧なのか、養成学校を卒業していなくてもハンターにはなれるらしい。
厳密には、ハンター登録した後でも、養成学校に入ることはできるらしく、ハンターの中にはあらかじめアルドレア王国のハンターギルドで登録を済ませ、その上で養成学校に入った人もいるらしい。
少年と話しているうちに、受付で少年が呼ばれてレックスはその少年と別れた。
「ハンターギルドなら何でも良かったんだけど、養成学校に通わなくてもいいって面じゃ、ここのハンターギルドを選んでよかったかもな〜」
(村から近いところがここしかないっていうのもあると思うけど)
色々と考えたり、独り言を呟いたりしているとレックスの番が回ってきた。
レックスはカウンターに立って待っていた。どうやら今日はかなりハンター登録に来た人が多いのか、ギルドの受付嬢たちも忙しそうだ。
壮行しているうちに、やっとレックスが待っているカウンターに受付嬢がやってきた。
「おっ!ようやく来たぞ〜!」
「す、すいません!色々とバタついちゃってて……」
「いや、俺は全然大丈夫ですよ!」
「そ、そうですか……!ありがとうございます!
えーと……。それでは、今からあなたのハンター登録をする上での大事な手順を教えますね!」
すると、受付嬢はカウンターの上に1枚の紙を置いた。
「この紙に、あなたの名前や年齢、生まれた月日だったりをお書きください」
言われるがまま、レックスは置いてあったペンで紙に自分の名前と年齢、生まれた月日を書いた。
名前|レックス・フォウ 年齢|17歳
生月日|3月4日
そして、その紙を受付嬢に渡した。受付嬢は、名前の部分を一瞬不思議そうに見たが、気にせずに紙を持ってカウンターの奥に向かった。
「フォウって苗字がそんなに変なのかな……?」
しばらくして、受付嬢は紙のかわりに大きな水晶玉を持って戻ってきた。
「お待たせしました!あと少しで登録は完了です!」
「早っ!そんなので十分なんですか!?」
「はい!アルドレア国立ハンター養成学校の最新の卒業目録で照らし合わせるだけなので!
それでは、最後の手順を教えますね!」
すると、受付嬢は水晶玉をカウンターの上に置いた。
「この水晶玉に手をかざしてください!水晶玉に移し出されたステータスを元に、総合ステータスランクを集計させていただきますね!
この時に映し出されるステータスは、我々以外には見えないようになっているので、ご安心ください!
「何でそんな事を?」
「ここのギルドのマスターの決定なんですよ!
あと、レックス様のスキルの方も確認しますね!ハンターライセンスを作る時に必要となるので!」
そう言われて、レックスは水晶玉に手をかざした。
「これでいいのかな………?」
「オッケーです!それでは、確認いたしますね……」
受付嬢が水晶玉を見た。
レックスには、これで本当にステータスが分かるのか?という疑問が頭をよぎっていた。
「ステータスの方は確認が済みましたよ」
その受付嬢の一言で、レックスの疑問は愚問と化した。
しかし次の瞬間、
「えっ………」
急に受付嬢が何か恐ろしいものを見たような表情で固まった。何かよくないものでも映ったのだろうか、レックスは心配になった。
「あ、あの………。なんか映っちゃいけないものでも映ったんですか?」
「ちょ…、ちょっと待ってくださいね!」
レックスが聞いた途端、受付嬢は急いでカウンターの奥へと駆けていった。
レックスの中には心配の気持ちがあった。ハンター生活0日目ともいえる日で、ハンター登録中に受付嬢が絶句してカウンターの奥に行ってしまったので心配しても無理はない。
しばらくすると、受付嬢がかなり荒い息遣いをして戻ってきた。
「ハァ……ハァ……。お待たせしました………!これがあなたのハンターライセンスてす………!」
受付嬢は、レックスに1枚のハンターライセンスを渡した。
レックスは受け取ると、ライセンスの質感に驚いた。紙とは違うしっかりとした固さの素材なんて村では見たことがない。これは何なんだ?
まあそんな事は置いといて、レックスはライセンスをよく見た。すると、総合ステータスランクは『G』となっていた。
「えっ………?まさか、あんたはこれを見てあんな表情を?」
「まあ、それもそうなんですが………」
それを聞いた途端、レックスはふっと肩の荷が降りた。
「それならよかったかも。俺、てっきり見たらダメな物を見たのかと思いましたよ。アハハハハ………」
そう苦笑いしてレックスはライセンスをしまった。
「と、ともかく!これで登録は完了です!
ちなみに今のレックス様のハンターランクは『G』となっており、受注できる依頼に限りがあるので注意してくださいね!」
「Gランクってどういう依頼が?」
「強いて言えば、採集や低級の魔物の討伐を依頼されますね!
まあ、チュートリアルだと思ってもらえれば構いません!」
「つまりはさっさとランクを上げたほうがいいと?」
「その通りです!
ちなみに、ダンジョンの攻略はFランクから可能なので、まずはそこを目指してみてはいかがでしょう?」
「そっか。Gランクでの目標Fランクに上がることなのか………」
「えぇ!ココだけの話、少なくともGランクよりは確実に報酬は弾みますよ!」
「じゃあまずはFランク昇格だな!ところで、依頼の受注はどこから?」
すると、受付嬢はカウンターの右にある赤く塗られた看板を指さした。いろいろな依頼が書かれた紙が張られており、どうやらここで依頼を受注するらしい。
レックスは、1枚の髪を取り受付嬢に渡した。
「じゃあ、まずはこの依頼からこなすとしますよ!」
「えっと……、『モブゴブリン討伐』ですね!少々お待ちください!」
すると、受付嬢が紙を持ってカウンターの奥に行ったと思いきや、すぐにレックスの元に戻ってきた。
「受注手続きを行いました!それでは、ハンターとしての初の依頼、いってらっしゃいませ!」
「よっしゃ!倒しまくるぞ〜!」
レックスは気合を入れてハンターギルドを飛び出していった。
レックスを見送ったあと、受付嬢はカウンターでぐったりしてしまった。
「ふぅ〜………」
すると、もう1人の受付嬢が声をかけた。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないですよ〜………。
何なんですかあのスキルの数は………」
「確かに、あのスキルの数は異常ね。スキルの質も」
「それでいて総合ステータスランクはGランクなんですよ………?おかしくありません………?」
「別にそんなにおかしいことじゃないわ。どれだけスキルが強くても、ステータスが低いハンターはいるもの。
でも、これは流石にギルドマスターに報告したほうがいいわね。ちょっとお菓子でも買ってきてあげるわ。少し休みなさい」
「うぅ………。そうですね………」
受付嬢は、カウンターの奥に戻った。
あれ。これもしかして本腰入れてるやつより腰入れちゃってる?