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第三話.笠舞智沙
「嬢ちゃん、名前は?」
フェリーの甲板で、黒沼のきれいな銀髪が潮風に揺れる。
「笠舞智沙です」
名乗るついでに、ずっと気になっていたことを聞いてみることにする。
「ライって、どういう字を書くんですか?」
蓬莱の萊、信頼の頼、落雷の雷。そのどれも彼には似合わない気がしてならない。
「嘘だよ。嘘と書いて、ライと読む」
俺にぴったりの似合いの名前だ。
黒沼の表情からは、嫌悪は微塵も感じられなかった。
字面も、読みもそれほど良いものとは言えないもののはずなのに。
───……あぁ、この人は、自分の生き方を決めているんだ。
こうして飄々と、のんびりと旅をしながら小説を書く。
私とは正反対に人生を楽しんでいる人だ。
私はもう、とっくの昔に……
「疲れてしまったのかい?」
黒沼の声。
顔をあげると、手摺に肘を置き頬づえをついた黒沼が、微笑をたたえて私を見ていた。
その一言で、私のリアクションで、私の全てを見抜かれた気がした。
途端にそれがとても恥ずかしいことのように思えて、黒沼から目をそらす。
「さて、……次の目的地には、どんな物語があるのかな」
そんな私を気にも留めず、黒沼はゆっくりと、水辺線に視線を戻した。




