3/5
第二話.旅の始まり
「お嬢さん、行き先は決めたかい?」
ちょうど3日後。私はまたあの古本屋を訪れた。
「まあ」
黒沼との接点は、その古本屋以外なかった。
実際、どうやって、どこに向かって旅をしているのか見当すらつかなかった。
それくらい、名前と容姿以外は謎に包まれた小説家なのだ。
「どうする?俺と一緒に来るか?」
私を静かに見つめる黒沼の瞳は生気を感じない。
まるで木の洞のような、そこにはただ光のない赤い双眸があるだけだった。
けれど、どこか人を見抜くような、射抜くような鋭さがあり、さながら天然のマジックミラーのようだ。
「私は、何をするでもなく自分の人生を浪費しているだけの人間でした」
黒沼は、興味深そうに片眉を上げた。続けて、と目で言う。
「私はなんのために生きているのかがわかりません。でも、私は文学が好きで、」
だから、探したいんです。
「探す?」
「私の生き方を」
バカバカしいと笑われるだろうか。
けれど、誰がなんと言おうと私が据えた目標だ。
「なんとも滑稽な目標だが、悪くない」
黒沼が口元に微笑を浮かべる。
私は、この奇妙な小説家と旅をすることになったのだ。




