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Prolog

もうどれだけの時間が経ったのだろう。少しずつ少しずつ、貯金が減っていく。こんなことをしている暇は無い。そんなことはわかってる。でも、こんな時の私を支えてくれるのは、文学だけだったから。


ぶらぶらと歩いていると、古本屋見つけた。ちょうどいい。迷わず足を踏み入れた。立て付けの悪い扉が、軋む音がする。心做しか床も若干軋んでいる。カウンターには年老いた店主の男性がいるだけで、他にお客は見受けられなかった。

いらっしゃい、と響いた掠れた声に、会釈をして、書店特有の紙の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。


「お嬢さん少しいいかい」


店主のものではない低い声が響いた。驚いて振り向くと、白い髪の、二十代くらいに見える男性が立っていた。この時代には似合わない、和装だ。

眼鏡の奥の知的そうな瞳が、私の後ろの本棚に向いていると気づいて、サッと身を躱した。

「すみません」

「いやいや。」


「あ、」

そういえば。ふと思い出した。なぜ今だったのかは私にも分からなかった。ただ、男の容姿を見てからだったことは明らかだ。


旅をして小説を書く、変わった小説家が居る、と。


噂を聞いたことがあった。

なんでも、白い髪を乱雑に後ろにまとめて、知的そうな青い瞳を持ち、メガネをかけていて、和装だそうで。


そんな変わり者がいたら、すぐにわかるだろうと心の中で笑い飛ばした。


けれど実際、今目の前にいる男性は、その内容と酷似していた。


「くろぬま、ライ」


気がつくと、その小説家の名前を呟いていた。


すると案の定。


「……はい?……なんで私の名前を?」


男性は不思議そうに振り返った。

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