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第2話

「なんだって!?」「マジかよ!」

 各教室から生徒たちが次々と廊下に出てくる。生徒たちはみな男子で、頭髪はほとんどが明るい色で、制服は着崩しているか、私服姿である。彼らは長い廊下の真ん中で対峙する、黒髪をツンツンと逆立てた平均的な身長の男子と茶髪のウルフカットのやや長身の男子に注目する。

「どっちが勝つと思う!?」

「ナギサに300!」

「カオルに500!」

「ナギサに700!」

「カオルに1000!」

 二人の男子を取り囲んだ男子生徒たちは口々に名前と数字を挙げる。これから始まるであろう喧嘩に金を賭けているのだ。そう、この『東上野学院』は、関東地方、さらに近隣の県から素行のよろしくない生徒ばかりが集まる、いわゆる『ヤンキー高校』だった……。

「ドローに2000だ!」

「なにいっ!?」

「そんなのアリかよ!」

 ある生徒の発言に笑いが起こる。

「……今日こそ決着を付けるぜ……」

 ツンツン頭がウルフカットを見上げて睨みつける。

「ふん、やってみろよ……」

 ウルフカットが鼻で笑う。

「うおりゃあ!」

「ナギサから仕掛けた!」

 ナギサと呼ばれたツンツン頭が右ストレートを放つ。

「ふん!」

「カオルがかわした!」

 カオルと呼ばれたウルフカットが上半身だけを後ろにそらす、ボクシングで言う、スウェーでナギサのパンチをかわしてみせる。

「ちっ!」

 ナギサが舌打ちする。

「隙有り!」

「おっと!」

 カオルが体勢を低くして、ナギサの足元にキックを放つが、ナギサはバック転をしてそれをかわす。

「ちっ! ならば!」

 カオルが体勢を元に戻すと同時に、右回し蹴りを放つ。

「うおっと!」

「むっ!」

 ナギサがしゃがみ込んで回し蹴りをかわす。

「からの~!」

「むうっ!」

 ナギサが素早くアッパーカットを放つが、カオルはこれも紙一重のところでかわす。一連の攻防にギャラリーが湧く。

「うおおっ!」

「どちらも魅せるねえ~!」

「どっちも鋭い攻撃だが、ここまで一発も当たってねえ!」

「そこまでだ!」

「あん!?」

「……!」

 ギャラリーたちをかき分けて五人の男が現れる。小柄な男、痩せている男、太っている男、長身の男、中肉中背の男だ。

「し、四天王だ!」

「なぜ、東上野四天王がここに……!?」

「そりゃあ学校だからいるだろう」

「あ、そ、それもそうか……」

「ナギサとカオル……久しぶりに面見せやがったな……」

 四天王の内の一人、小柄な男が呟く。

「別にてめえに面を見せた覚えは無えけどな」

「馬鹿に同じ……」

 ナギサの言葉にカオルが頷く。ナギサが声を上げる。

「て、てめえ! そこは『右に同じ』だろうが!」

「へえ、意外と学があるんだな……」

 カオルが笑みを浮かべる。

「意外ととはなんだ! 舐めてんのか!?」

「今さら気付いたのか?」

「ああん!?」

 小柄な男が顔をしかめる。

「おい! こっちを無視してんじゃねえよ!」

「なんだよ!?」

「お前ら……二人揃って、俺たち『四天王』を無視しやがって……」

「……無視しているつもりはねえよ」

「ああ?」

 ナギサの言葉に小柄な男が首を傾げる。ナギサはカオルに顔を向ける。

「っていうか……なあ?」

「ああ、もとから眼中に無え」

「なっ……!?」

 カオルの言葉に小柄な男がムッとする。

「へへっ、阿呆に同じだ」

 ナギサが笑う。カオルがため息交じりに呟く。

「パクるな、馬鹿……」

「馬鹿って言いやがったな!」

 ナギサがカオルを睨む。小柄な男が声を上げる。

「待ちやがれ!」

「なんだよ!」

「てめえらは一年の頃から生意気だと思っていたんだよ……ここら辺で直々にシメてやるよ!」

「タメ年の癖に偉そうだな……」

 カオルが自らの後頭部をポリポリと掻く。

「カオル! てめえに偉そうとか言われたくねえんだよ!」

 小柄な男がカオルをビシっと指差す。

「……まあいいさ。雑魚はこの辺で片付けておく……おい」

 カオルがナギサに声をかける。

「……あん?」

「四天王の癖に五人いる間抜けども……どっちが多く仕留められるか、それで勝負といこうじゃねえか」

 カオルが五人の男たちの方に顎をしゃくる。ナギサが笑う。

「へへっ、面白えじゃねえか……乗ったぜ」

「早い者勝ちだ」

「分かってらあ!」

「むっ……!」

「おらあ!」

 ナギサが小柄な男に向かって殴りかかる。

「よっと!」

「どわっ!?」

 小柄な男がナギサの攻撃をかわし、足を引っかけて転ばせる。

「もらったぜ!」

「ぐっ!?」

 小柄な男が転んだナギサの首を絞める。

「へへっ、俺は寝技が得意でな……さっさと落とすぜ!」

「ぐ、ぐう……」

「あっけないもんだな……」

「……むん!」

「があっ!?」

「……ごほっ! ごほっ!」

 ナギサが咳き込みながら立ち上がる。小柄な男が腕を抑える。

「ば、馬鹿な……自分の首ごと殴りつけやがった……!」

「馬鹿って言うな!」

「がはっ!?」

 ナギサが体勢を低くして放ったパンチが小柄な男の顔面を綺麗に捉える。小柄な男は吹っ飛ぶ。

「はあっ!」

「ふん! ……そんな大振りな前蹴りが当たるかよ……!」

 痩せている男の蹴りをカオルがかわす。痩せている男が笑う。

「……前蹴りだと思ったか?」

「なに? ぐおっ!?」

 痩せている男は振り上げた足を素早く振り下ろす。かかと落としである。鋭い蹴りがカオルの右肩に入る。カオルは右肩を左手で抑える。

「へえ、その綺麗な顔を狙ったんだが……よくかわしたな」

「ち、ちぃ……」

「次で仕留める……! はああっ!」

「くそが……!」

「な、なんだと!? ぎあっ!?」

 痩せている男が足を振り上げた瞬間に、カオルが肩でぶつかりに行く。距離を詰めてくるとは予想しなかった痩せている男は体勢を崩して倒れ込む。

「そらよ!」

「ぎはっ!?」

 カオルの下段右回し蹴りが痩せている男の顔面にクリーンヒットする。痩せている男が崩れ落ちる。カオルが肩を抑えながら呟く。

「己のリーチの長さに囚われ過ぎだぜ……」

「むうん!」

「どあっ!?」

 カオルが吹っ飛ばされる。太っている男の強烈なタックルを食らったからだ。カオルはなんとか倒れずに踏みとどまる。

「ふひっ、踏ん張るとはやるな……」

 太っている男が鼻を鳴らして笑う。

「不意打ちで良い気になるなよ……」

「それならば……!」

「のあっ!?」

 太っている男が再度タックルをかます。思わぬスピードでカオルは避け切れず、またタックルを食らってしまう。カオルは片膝をつく。

「避けられなかったなあ~」

「くそが……」

「とどめと行こうか~!」

 太っている男が三度突進する。

「そらっ!」

「ぐあっ!?」

 カオルが太っている男の膝をキックする。太っている男がよろめく。

「思った通りだ……その図体を支えるだけでも膝にダメージが蓄積しているだろう……」

「お、おのれ……」

「動きが鈍くなったな……こっちのもんだ!」

「ぐはっ!?」

 カオルが上段左回し蹴りを太っている男の顔面に叩き込む。太っている男は横に倒れ込む。

「ふん……さて……」

 カオルがナギサの方に視線を向ける。

「おらおらっ!」

「ぐ、ぐぐっ……」

 ナギサが長身の男のパンチとキックの猛ラッシュに圧されている。

「どうしたどうした!?」

「ちっ、手数足数が多い……反撃する隙が無え……!」

「こんなもんかよ!」

「ちっ!」

「げあっ!?」

「あれっ!?」

 ナギサが苦し紛れに放ったパンチが長身の男の顔面に当たる。長身の男は鼻のあたりをおさえながら呟く。

「せ、正確なカウンターを放つとは……や、やるじゃねえか……」

「へ、へへっ! どんなもんだ!」

 まぐれで当たったとは言わない。

「調子に乗るなよ……!」

「さっきより明らかに動きが鈍い……そらっ!」

「げはっ!?」

 ナギサのカウンターパンチが再び炸裂し、顔面に食らった長身の男が後方に大の字に倒れる。

「ふ、ふう……後は……ああっ!?」

 ナギサがカオルの方を見て驚く。中肉中背の男が木刀でカオルを叩きつけていたからである。

「四天王四人を倒したからって良い気になるなよ! 奴らは四天王最弱! 所詮は四天王の面汚しだ!」

「武器使うとかありかよ!?」

「ありだ! 俺は四天王最強だからな!」

「わけのわかんねえことを……言ってんじゃねえ!」

「ごあっ!?」

 怒りに震えたナギサのパンチが木刀を側面から叩き折り、中肉中背の男の右頬を叩く。思わぬ一撃を食らった中肉中背の男がよろめく。

「その木刀がウザかったんだ……!」

「はっ!?」

「おりゃあ!!」

「ごはっ!?」

 カオルが飛び蹴りを放つ。飛び蹴りを顔面に食らった中肉中背の男が壁に叩きつけられて、崩れ落ちる。

「へへっ! やるじゃねえか!」

 ナギサはカオルと肩を組む。

「暑苦しい、くっつくな……」

 カオルがうっとおしそうにナギサの腕を振り払う。

「……続きといくか?」

「今日は良い、興が削がれた……」

 カオルがその場から離れる。ナギサもその逆方向に歩き出す。

「まさか、四天王を倒しちまうとはな……」

「ああ、これは上の連中も黙っていねえだろうぜ……」

「だが、あの『ナギサとカオル』……この『東上野学院』最強とも言えるコンビならばあるいは……?」

「顔二人とも週三日しか登校しねえけどな……」

「なんか、色々事情があんだろう?」

 生徒たちが話をしながら、各々教室に戻っていく。次の日……東上野学院の東に隣接する『北武蔵学院』で……。

「み、皆様! なぎさとかおるがご登校ですわ!」

 女子生徒の声が校門付近に響く。

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