海に沈んだ村
「イヤホンのバッテリー切れたか……」
まあ、もうすぐ着くし、耳栓代わりにつけておくか。
仕事で「海に沈んだ村」の噂を調査するため、僕は田舎の二輌の電車に揺られていた。車内はクーラーもなく、汗の臭いが混じったじっとりとした暑さがまとわりつき、乗客たちは扇子や団扇を仰ぎ、「暑い、暑い」と呻いた。
「海に着けば涼しくなるかな」
窓の外に目をやると、広がる海が陽光を反射して眩しく、それだけで思わず口角が上がった。
「ん?」
イヤホンからコポコポという仄暗い水底で水泡が上がってくるような、奇妙だが涼しげな音が流れてきた。
「気のせいか?……まぁバッテリーも切れてるし気のせいだよな」
気にも止めず、窓に視線を戻すと、丁度トンネルに入り車内が暗闇に包まれる。ガラスに映る自分の顔がぼんやり浮かぶ。が、いつからそこにいたのか、その隣に、ずぶ濡れの老人の姿が、僕のすぐ横に立っていた。
髪から滴る水、青白い顔、腐臭のような湿った臭い。ガラス越しに目が合うと老人はギラリと光る目で僕を見つめ、唇を不自然に吊り上げ、骨ばった手をゆっくり招く。
「――ッツ!」
身体が凍りつき動かなくなる。勇気を振り絞り、恐る恐る横を見る。が、老人は消えていて、代わりに普通の女性が立っていた。安心したせいか思わず笑いが漏れて「疲れてんな、俺……」 なんて呟くが、その言葉に隣にいた彼女は冷たく低い声で呟いた。その言葉に再び死神に心臓を握られるように、呼吸が浅くなる。
「それは、未来の貴方よ」
あの老人のような、歪んだ笑みを浮かべ、彼女は駅に降りて行った。
「……は?」
意味が分からず、けれど心のどこかで否定したい気持ちもあり、自分を落ち着かせる為にも、空いた目の前の席に腰を下ろした――
「うわっ!」
座席がびしょ濡れだった。水が染み出し、お尻辺りに冷たい嫌な感覚が広がる。驚いて立ち上がり車内が静まり返っていた事に初めて気がついた。
暑い暑いと唸っていた客達は誰もいない。
あの女性の様に降りてしまったのか、と思ったが、全ての席が濡れていて、クッションの色が濃くなり変色し、床に水滴が滴っていた。
再び窓の外が暗くなると同時に、イヤホンからは、コポコポという音が響き、今度は水泡の中からはっきりと声が聞こえてきた。
「こっち……おいで……」
振り返ると、奥に、あの老人が立っている。ずぶ濡れの身体から水が滴り、床に黒い染みが広がる。
その顔は、確かに老人ではなく、痩せこけた僕だった。
と、次の瞬間。電車が何かに横からぶつかった様な大きく衝撃が起こり、車内の電気は消えて暗闇に飲み込んだ。
最後に聞こえたのは、大量の水泡の音と、人々の笑い声だった。まるで、仲間が増えて喜ぶ様な、そんな笑い声だった。
「ここが例の村か」