運命を拾う
今日も全然お客さんがつかない。
こんなに可愛いのに何で?
月がもうだいぶ傾いた頃、街の明かりを背に、街灯と家から漏れる光、時々通る車のヘッドライトが一瞬辺りを照らす中、愚痴を吐露しながら自宅に帰る。
そんないつもの帰り道、いつもの風景。1つ違和感があるとすれば、前方の電柱下、ダンボール箱の存在だろう。
近づくと、猫の鳴き声が聞こえる。
箱の蓋は閉められている。
人の気配に気づいたのか、中にいた猫が蓋を押し上げて頭を出す。
箱の前でしゃがみ、猫を撫でながら話しかける。
「可愛いい。どうしたのこんな所で、置いてけぼりになっちゃったのー?」
「クーン」猫はこちらの問に答えるように鳴く。
「うんーそうなの。私も色んな人に捨てられて、誰にも求められない人になっちゃった」
「クーン」猫は拾って欲しそうに、大きな瞳をこちらに向けてくる。
「拾ってあげたいけど、、、私のマンション、ペット禁止なの。ごめんね。」
「クーン」私の言葉が通じたのか、猫は残念そうに鳴く。
立ち上がり、去ろうと思った時。視界にずっと入っていたけれど、見ないようにしていたものに視線を送る。
そこにはダンボールを敷いて、横になりうずくまる、男がいる。
顔はボサボサの髪で見えない。しばらく手入れしてをしていないのだろう。体格と着ている服で恐らく男性と分かる。
それにしても問題は薄着だ。この寒い日にTシャツに上からポロシャツを着て、ジーンズを履き、靴は壊れてはいないがボロボロだ。
そんな出立ちで、こんな寒い中寝ている。もう数時間したら凍え死んでしまうだろうと予想がつく。
「猫は連れて帰っちゃダメだけど、人間は大丈夫だよね」
私は恐る恐る近寄り、顔に掛かる髪を掻き分ける。隙間から見える顔の感じから、20歳前半だろうか。汚れてはいるが、整った顔立ちをしている。
服の上からではあるが、痩せ細っている訳では無さそうだ、手を見てそう判断できる。
キャバ嬢になると相手の顔や手、身なりから相手の感情や状態を読み取るクセがつく。
他にも沢山不思議なところはあるが、危ない人には見えない。そう思って見ていた時。不意に腕を掴まれた。
「え!、」
私は驚き髪を退けていた手を引っ込める。
掴まれた瞬間は相手の力を感じたが、直ぐに弱くなり腕を離れ地面に落ちる。
「お腹減った」
青年は力を振り絞るように小さな声でそう言った。