ここはどこ?
「ほら! そんなところで寝てるんじゃないよ!」
威勢の良い声で目が覚めた。
確か、バーのカウンターで美人さんが何でもしてくれると誘惑してきたはずだ。
目をこすりながら、声をかけてきた人の方を見ると、メイド服を着た恰幅の良いおばちゃんが腰に手を当ててこっちを見ている。すまないが、貴女は私の求めている女性では無い。近くに昨晩の美女が居ないかときょろきょろしてみたが、居たのはフードを被った貧しそうな子供が2人と、その2人の方を抱いているメイド服を着た幸の薄そうな貧弱な女の子しか居なかった。
「ニットワンピースを着た女性は見かけませんでしたか?」とおばちゃんに聞いてみたが……
「はぁ? 寝ぼけたことを言ってるんじゃないよ! ここがどんなとこで、何が始まるか知ってるのかい?」と返された。
そこで、初めて気がついた。バーで飲んでいたはずだが、今居るのは廃村のような屋外。汚れて朽ちかけている剣を持った女神像が建っていて、その後ろには教会らしき建物。今居るのは、村の広場みたいな開けたところだ。
「ここは何処なんだ?」
「アレストという街だったところさ。アンタは何処の人だい?
「俺はニイガタってとこの出身だ」
「ニイガタ? 聞いたことがない地名だね。それより、アンタは剣か魔法は使えるのかい?」
「剣? 魔法? 何を言っているんだ? 剣はまだしも、魔法なんておとぎ話やアニメの世界だろ?」
お互いの表情には、嘘や冗談ではなく、真面目に話をしているようにしか見えなかった。2人の間に少し沈黙が生まれた。
「見たことも無い服装しているし、出身も知らない地名……アンタもしかして……別の世界から迷い込んだんじゃないのかい?」
「えっ……そんな……スマホは知ってる?」
「知らないねぇ」
「ニホンって国は聞いたことある?」
「知らないねぇ」
「サッカーという競技はどう?」
「聞いたこと無いねぇ」
「テレビやラジオは?」
「さっきから、知らないものばかりだよ」
これは、異世界に紛れ込んだのかもしれない……
元に帰ったところで人生が詰んでいる。この状況に早く適応するのが良さそうだ。
「そうか……本当に知らないところに来てしまったのかも。おばちゃん達はアレストって街で何をしている人なんだ?」
返ってきた内容は、
アレストという街は、過去は栄えていたが、現在は廃墟になっている。
48年周期で近くのダンジョンからこの女神像めがけてモンスターが押し寄せるスタンピードがあり、今日がその日であること。
おばちゃんは、王家のメイド長だった。私利私欲のために政治を行う現国王一族に堪えきれなくなった家臣やメイド達の反乱がバレ、メイド長だったおばちゃんが1人で罪を被り、部下のメイド達をかばったらしい。幸の薄い娘は、どうしてもおばちゃんに付いて行くと聞かなかったのだとか。
おばちゃんの話では、フードを被ったちびっ子2人は、国王一族の悪事を見てしまったらしい。本人たちは、何も見ていないと言っている。とんだとばっちりじゃないか……
4人の置かれている状況は、私より詰んでいる状況だった。