龍二くんと玲子ちゃんと…鬼斬さん
「こここここ、怖い、怖いよ…」
「うるさい!静かにしてて!」
僕は小樽龍二
名前に似使わない臆病者だ
"龍二"と言っても、龍一兄さんとかは居なくて
長男なのに龍二なんだ
今日も幼馴染の玲子ちゃんに連れられて
愛知県最恐の廃神社に来ている
動画配信サイトで心霊スポットにハマってから一人でいくつか回ってきたが
最恐と言われているせいもあって友達に断られたらしい
それで怖がりな僕が連れて行かれることになったのだ
16歳にもなってなにやってんだか…
それは今日の夕方に遡る…
「おーい龍二!今日の夜暇?暇だよね?どうせゲームやるんでしょ?たまには外出でもしてみたら?よし!決まり!20時に呼びに行くからライトとか準備して待っててよ!じゃあね!」
学校帰りに家の前でばったり会ってしまったが一方的に喋って家に入ってしまった
実は玲子ちゃんとは隣同士の家だ
でも、何かロマンスがあるわけでもなく
小学校高学年辺りから遊ぶグループが分かれて疎遠になっていた
それにしてもまるで引きこもりみたいな言い方だ
確かに間違ってはいないけど夜にどこへ行くってんだ…
「今日の夜玲子ちゃんと遊びに行くの?付き合ってるの?」
「母さん変なこと言わないでよ…急に誘われて勝手に行くことになってるだけだよ…」
「行くのは良いけど、夜は危ないから気をつけてよ?玲子ちゃんを守ってあげてね」
「大丈夫だよ、どこに行くのか知らないけど…」
夕食を済ませ軽くくつろいでから準備をする
一応ペンライトぐらいなら持ってるから、最悪スマホのライトでも良いだろう
ピンポーン!ピンポンピンポンピンポーン!
けたたましくドアベルが鳴り響く
夜だから余計に響いて耳が痛い
「はいはいはい!は~い!そんなに鳴らさいないでよ!」
ドアを開けると玲子ちゃんが居る
「よっ!準備はいい?行くよ!」
相変わらず話をする暇が無い…
「わかったよ!行くよ!」
「玲子ちゃんこんばんは、気を付けて出かけてね」
「おばさんこんばんは!任せて!何かあったら私が龍二を守ってあげるから!」
「龍二…あなた格好悪いわよ…」
「いいよ!もういいよ!玲子ちゃん早く行こ!」
かれこれ自転車で15分は経っただろうか
お互い無言でひたすら漕いでいるのが、だんだん不安になってきた…
「ねぇ、玲子ちゃん…どこ行くの?」
「ナイショ、言ったら帰っちゃうもん」
「えっ…帰りたくなる所なの?」
「いえ、なんでもない、面白い所よ」
絶対ウソだ…
またひたすら自転車を漕いで、更に20分程だろうか
だんだん辺りが森に変わっていった
前に大きな森の壁が見える
「まさかあの森へ行くの?カブトムシでも捕まえるの?」
「それも良いかもね、高く売れそうだし、でも違うよ」
「えぇ…なんだよそれ…」
森といっても夜のコントラストで真っ黒な壁に見える
吸い込まれそうな黒さだ
「ちょっと怖いんだけど…」
「・・・・・」
スルーされた
「よし着いたよ!ここからは歩いていくよ!」
「あの森に入るの?やだよ…」
「何言ってんのよ!ここまで来たら付いて来なさいよ!」
「いや、だって怖いじゃん!」
「龍二…女の子一人で行かせる気?それでも男なの?」
「いや、何で行く前提なのさ!玲子ちゃんも行かなきゃ良いだろ?」
「龍二のいくじなし!」
「うわ、それ言う人初めてみた…」
「おちょくってると殴るよ!」
「わ、わかったよ!行くよ!行けば良いんだろ?」
「物わかりが良いね!」
「いったい何の言い回しだよ!」
玲子ちゃんは喧嘩が強い
部屋にサンドバッグがあるぐらい強い(?)
殴られたらたまったもんじゃないぞ!
半ば言いなりで後を着いていく
「うわぁ!でっかいねぇ!」
「ちょっと…ここに入るの?ってか、廃神社じゃん!僕が怖がりなの知ってるだろ?!」
「自分で怖がりって言うのダサくない?」
「なんだよそれ!意味が分からないよ!」
そして現在に至る…
「ここって何なのさ…」
「ここは愛知県最恐の廃神社なんだってさ」
「なにそれどれぐらい強いの?」
「そっちじゃなくて怖い方の最恐」
「えっ…帰ろうよ…」
「またそれだ、ここが最恐なら龍二は最弱ね」
「なんでここと比べるんだよ!」
「いいから辺りを照らしてよ、なにか見つけたら教えなさいよ」
「わ、わかったよ…」
辺りを持ってきたペンライトで照らしているが、廃棄物の山以外何も無い
「おっかしいな…最恐っていわれてるのになんにも遭遇しないなぁ…」
「やだよ!遭遇したくないよ!」
「はいはい!それじゃつまんないからもっと奥へ行くよ!」
「ひっ!」
「えっ何?」
「今一瞬人影が見えたような…」
「なによ…ライトと闇のコントラストで影の出具合がそう見えただけじゃないの?」
「そ…そうなのかなぁ…」
「ほんと!よわっちいのね!」
何とでも言え…もうチビリそうなぐらい怖いよ…
とうとう最奥部の神様が祀ってあった場所へ来てしまった…
「あ~もう!何が最恐よ!殺人があったとか自殺があったとかいろいろ書いてあったのに!」
「不謹慎過ぎるだろ!何いってんだよ!」
「あ~!もう!」
そう言って玲子ちゃんは地団駄を踏んだ…その時だった
ギシッ!
「えっ?」
バリバリバリ!!!
「キャッ!」
「うわっ!」
床が抜けてしまった…
「痛たた…龍二大丈夫?」
「あぁ…大丈夫だよ、玲子ちゃんは?」
「私も大丈夫…ごめんね」
「良いよ、無事で良かった」
「これ…なんだろう?」
玲子ちゃんが指差す方を見ると、地面に何か蓋がしてある
「こんなのサイトにも書いてなかったよ」
「地下室…?」
「開けてみようか」
「やめなよ、どうみても怪しいよ」
「せーのっ!!」
玲子ちゃんは力任せに蓋をずらした
「龍二、ライトを当ててみて」
「うん、何かありそう?」
「お、乗ってきたねぇ」
嬉しそうに言う
そりゃ探検が嫌いな男は居ないだろう
「べ、べつに乗ったわけじゃ…」
「いいからいいから」
木で出来た階段がある
「これも崩れたりして」
玲子ちゃんが不吉な事を言う
「やめなよ…」
玲子ちゃんがゆっくり降りていく
「じゃぁ今度は私が照らすから降りてきてよ」
「わ、わかった」
ぎ…ぎ…
つなぎ目がきしむ
「奥へ進めそうだから行きましょう」
ライトで照らすと、そこは手掘りのトンネルだった
いや、洞窟といっても良さそうな場所だった
「ねぇ、これって登記簿にも乗ってなさそうな地下施設じゃないの?絶対怪しいよ…」
「変な事に拘らない!進むよ!何かお宝があるかも!」
「不法侵入だから、持って帰ったらよけいに面倒くさい事になりそうだよ…」
少し進んだ突き当りには木で出来た小さな扉があった
「これ開くかな?」
玲子ちゃんがカンヌキを外し扉を開ける
ギイイィィィ…
「あれ、ここが本堂なの?何か祀ってあるっぽい」
「こんな所が?誰も来れないでしょ…」
「これは…祀ってあるっていうか、封印…?」
立派な着物が畳んであり、その中心部に縦一直線に刀が刺さっている
「これ見るからにヤバそうだねぇ」
「なんで楽しそうなんだよ!本気で怖いよ!」
「痛っ!何だこれ!?」
「龍二!どうしたの?!」
右腕が急に痛んだと思ったらすぐに良くなった
「わからない、一瞬右腕が痛くなった」
「お?やっと怪奇現象かな?」
「だからそんな楽しそうにしないで!」
着物に近付いてよく見てみる
「凄く立派な着物ねぇ」
素人の、ましてや子供でもその立派さがわかるぐらいの着物だ
「でも刀を刺して勿体ないよね」
「うん、抜いてみる?」
「いやいや、これどうみても封印してるんじゃないの?!」
「御札とか無いし大丈夫でしょ」
「なんでそんな楽観的なのさ!」
玲子ちゃんが刀を抜こうとするのを僕が阻止する
「ちょっと邪魔しないでよ!」
「いや、何が起こるか分からないじゃん!危ないよ!」
この時に気付くべきだった
着物がまったく汚れていないこと
そして刀がまったく錆びていない事を
「よいしょ~!」
「なんだよその掛け声!あと抜かないでよ!」
僕は柄を握り抑え込む
玲子ちゃんはその僕の手を掴み引き抜ことする
「んぎぎぎぎぎ!」
「漫画みたいな声やめてよ!普段絶対言わないでしょ!」
「んおおおおおお!!!」
「ダメダメダメ!!」
ズッ!
「「うわぁ!!」」
ドサッ!
二人して尻もちをついてしまった
餅が4つだ
「あれ?着物は?!」
玲子ちゃんが初めて驚いた声をあげる
「抜いた表紙にどっか飛んでったんじゃないの?」
「龍二、刀は?」
「あるよ、ここ」
僕は刀を持ち上げ玲子ちゃんに見せる
「あっ!玲子ちゃんあそこ!」
「え?どこ?」
「後ろの壁!」
落ちたペンライトが薄っすらと着物を照らしていた
「壁に引っかかったのか」
「これ戻した方がいいんじゃないの?」
「まぁ、そうだよね」
やけに素直だ…何かおかしい…
「あっ!」
「えっ?なに?」
玲子ちゃんが驚いたのも無理はない
着物は壁に引っかかっているのではなく、宙に浮いていたのだ
それに気付いた瞬間背筋がゾワッとした、冷や汗も出てくる
「ちょっと…さすがにこれは怖いかな…」
玲子ちゃんは後ずさりしている
目が離せないのだ、目を離せば何かが起こる…本能に近い
「玲子ちゃん、そのままゆっくりこっちへ」
「う…うん…」
そのまま後ずさり僕の方へ来る
「さ、手を」
左手を伸ばす
「ど…どこ…」
「そのまま手を出してて」
僕が玲子ちゃんの手を取ったと同時に着物から闇が溢れてくる!
瞬間、玲子ちゃんの手を引き僕の後ろへやる
そのまま右手で防御態勢を取る
ザザザザザザザザザザザザザ
「何?何の音?何が起きてるの?」
「分からない…なにか着物から嫌な気配が部屋を囲んでいる感じがする…」
「分かるの?」
「分からない…そんな気がする…だけ」
おおおおおおおおおおおおおおおおおお…
地の底から響く様な声が聞こえる
「刀…抜いたらまずかったかな…はは…」
「そうだね、でも今はそんな事よりあいつをどうにかしないと…」
「うん…どうにかなりそう?」
「わからない…けど…何があっても玲子ちゃんだけは守るよ…」
「うわ、惚れそう」
「なんだよそれ!せっかく格好つけてるのに!」
「ありがと、少し気持ちに余裕が出てきたよ」
僕らの周りだけ明かりがある
これは落としたペンライトだ
しかし辺りは着物以外真っ暗だ
真っ暗といっても人工的な暗さだ、暗いというより黒い
「あいつ、何かしてきそう?」
「いや、黒いもので囲った以外は浮いてるだけみたいだ」
「もう一回刀で刺したら戻るかな…」
「そうだね、やってみる価値はあるかも」
ソロリソロリと着物へ近付く
すると突然…
ぎいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーー!!!!!
悲鳴の様な叫び声の様なものが聞こえ着物が後ろへ下がる
「あれ…逃げてるのかしら…」
「どうなんだろう…」
着物の胸がはだけ、何か赤いものが見えるが、暗くてよく見えない
「まさか、アレって弱点だったり?」
「そんなあからさまな…」
少し期待してしまう
その赤いものが強く光ったと思ったら玲子ちゃんが悲鳴をあげる
「きゃあああ!!痛い痛い!!」
「どうしたの?!」
振り向くと床を踏み抜いた時に怪我をしていたのだろう
ふくらはぎから血が飛んでいる
え?飛んでいる?何で?
驚いている間に血は止まった
「はぁ!痛かった!」
それだけで済む玲子ちゃんも凄い
血が飛んだ先を見ると赤いものが吸い込んでいた
そして、白いものが溢れ、膨れ上がるように着物を着る
それは完全に着物を着たヒトガタだった
「おえっ!」
玲子ちゃんがえづく
こいつは何だ?玲子ちゃんに何をした?
今は怖さより怒りが勝っている
刀を持ち替え構える、自然とそういうふうにできた
「お前は何だ!何なんだよ!」
言葉が通じるか分からないが僕は叫んでいた
「妾は骸華 お琴…この憎い世を滅ぼすために今一度復活せん!」
「は?滅ぼすだって?何いってんの!滅んだらゲームできなくなるじゃん!」
「いや、それだけかよ…」
玲子ちゃんがツッコミを入れる
もう大丈夫な様だ
「何を訳の分からぬことを…そなたたちには感謝しているぞ、妾の封印を解いてくれたからのう」
「感謝されても嬉しくないね!もう一回封印してやる!」
「ほほほほほ、そなたたちにできるかのう_」
図星だ
もろちん封印の仕方など分からない
でもやるしか無い、生きて帰るために!
見様見真似で霞の構えを取る
「龍二!剣術できるの?」
「あぁ、侍ソードっていうゲームで優勝した事がある」
「なんだよそれ!」
「また訳の分からぬことを…もうよい、そなたたちから滅ぼしてやろう」
そういって右手を上げる
間髪入れずにその腕を切り落とす…つもりだった
「えっ!」
「ほほほほほ、どうした童よ、妾を切るのではなかったのか?」
刃が腕をすり抜けたのだ
よく考えたら相手は霊体っぽい
そりゃ物理攻撃は効かない
「くそっ!なんでだよ!」
なぜ封印されていた?なぜ封印"できて"いた?何が違う?考えろ!
まさかありがちな"霊力"ってやつか?気合で何とかならないか?
お琴が上げた右腕を下ろすと地面から刀が突き上がり…
「がっ!」
「玲子ちゃん!」
なんと、玲子ちゃんの胸の真ん中をその刀が貫いていた!
うそだ!うそだ!うそだ!!!!!
玲子ちゃん!玲子ちゃん!!
「がっ…はぁはぁ…龍二…これってどうみても助からないよね…」
ごぼごぼごぼごぼ
口から血が、肺から空気が溢れ出し、混ざりあった嫌な音を立てる
「大丈夫、なんとかなるよ」
「ほんとう…?」
「本当だよ、大丈夫」
精一杯微笑んでみせる
すぅ…ゆっくりだが呼吸はできているようだ
しかし時間がない
こんなに血が出て…
血?あいつは血を吸って体が出来ていた
じゃぁ、この刀も?
薄く手首を切り、刃に血を垂らす
瞬間、蒸発したような煙が出た
シュウウウゥゥゥゥゥ!
「なにっ!そやつはまさか!」
明らかに動揺している
煙がヒトガタになっていく
「おぉ、また現世に来られるとは…しかし、あまり状況は芳しくないようだな」
どこか時代劇で見るような侍?が現れた
「なにしに出てきた!鬼斬!また妾を封印しようとでもいうのか!」
「ははは、お琴よ、ぬしは変わらんのう!安心せい!改めて封印してやろう!」
「ぐぬぬ!覚えておれ!」
ザザザザザザザザザ!!!!!
黒いものを引っ込めて着物はどこかへ消えてしまった
「玲子ちゃん!」
「大丈夫…まだ…いきてる…」
喋るたびにひゅうひゅう喉がなる
「これはもう虫の息だな」
「そんな事言うなよ!なんとかならないのかよ!」
「無いことは無いが…お前たちはお琴を倒したいか?」
「当たり前だろう!玲子ちゃんをこんなにしやがって!」
「場当たり的で感情的は駄目だ、もう一度聞く、お琴を倒したいか?」
「あぁ、倒す、玲子ちゃんの為にも、この世界の為にも!」
「わかった、では…」
そう言うと鬼斬って奴は玲子ちゃんの体に入っていった
「ゴホッ!ガハッ!」
「玲子ちゃん!玲子ちゃんに何をした!」
「慌てるな、俺が入って生きながらえさせるんだ、傷が癒えるまでな」
「ごほっ!ヒューッ!はぁっ!はぁっ!はぁ…」
玲子ちゃんは深呼吸を始めた
「ところで自己紹介がまだだったな、この娘が玲子で、お前が龍二か」
「何で分かるんだよ…体に入ったからか?」
「そうだ、そして俺は刹那 鬼斬だ」
「で、お前が持ってる刀は妖刀名無しだ」
「妖刀…名無し…?」
名前が無いのに名前があるとはこれ如何に
「む…そろそろ俺も限界だ…血が少なかったからな…一旦眠りにつくがまた用があればお前の血をこの娘に飲ませてやると良い」
「お、おい!眠っても大丈夫なのか?玲子ちゃんは?」
「そこは安心しろ、出ていくわけじゃないから死なん」
「そっか、ならいいや、今日はもう帰ろう…」
「きちんと送り届けてやれよ、この色男」
「な…!なに言ってんだよ!」
「そう照れるな!またな!」
「何だよもう!」
「あ、そうそう、その刀は名無しじゃ可愛そうだから何か名前をつけてやってくれ、お前の助けになるだろう」
「寝たんじゃないのかよ!」
「「うわっ!」」
玲子ちゃんが急に声を上げたからびっくりした
そのびっくりした声に玲子ちゃんもびっくりした
びっくり連鎖である
「何よ!顔が近いわよ!」
「あわわわわ!ごめん!何もしてないから!」
「分かってるわよ…鬼斬さんと意識は繋がってたんだから…」
「そっか…じゃあ体のことも…」
「うん…鬼斬さんがいなきゃ死んでたって…」
「うん…他には異常はない?」
「他に…あ、そういえば鬼斬さんが言ってた」
「何を?」
「あなたの名無しなんだけど、私が鞘なんだって」
「鞘?それは、いったいどういう…」
「それ、私の体に当ててみて」
そう言うと先端(切先)を胸に当てる
「駄目だよ、また怪我しちゃうよ!」
「大丈夫だから…」
つぷっ…
「刺さってるよ!駄目だよ!」
「あ~うるさい!」
刺さってはいるが血は出てない
スススススッ
刀がどんどん吸い込まれていく
そしてそのまま全部飲み込んだ
そこには縦目の様な赤い玉がある
場所は胸の谷間の少し上ぐらいだ
「何これどうなってんの?」
「この刀は鬼斬さんの為に造られたんだって」
「それで、妖気の刀になった名無しは霊体となった鬼斬さんの中にあるんだって言ってた」
「そ…そうなんだ…にわかには信じられないけど…」
「あなたが名無しに血を与えたから名無しはあなたの物で、私にあなたの血を与えれば名無しはまた現れるだろうって」
「血を…さっきのはそういうことか…」
「ま、そういうことだから名無しに名前をつけてあげて!」
さっきまで死にそうだったのにもう元気を取り戻してる
「さ、帰るわよ」
「う、うん」
帰りをほぼ無言だった
玲子ちゃんの服に穴が開いてるし体中土だらけだし…帰ったらなんて言おう…
「ねぇ、あなた手首切ったわよね?」
「そういえばそうだった、思い出したらヒリヒリ痛みだしたぞ」
「あはは、ちょっと帰る前に確認がしたいんだけど良いかな?」
なんだろう?
「いいけど…」
その場で止まると玲子ちゃんは僕の手首の傷を眺めている
「まだ、血が出てるね」
少し固まっているが若干滲んでいる
凄く浅く切ったからこんなものだろう
ペロッ
「ひゃっ!なにすんだよ!」
「まぁ、まぁ」
胸の赤い玉が光だす
「おう龍二!どうした?」
玲子ちゃんじゃない男の声で喋る
「いや、玲子ちゃんが勝手に…」
「そうか、ほんの少しの血だから長くは居られないぞ」
「う…うん、そうだ!具体的に何をすれば良いの?」
「これからお琴の眷属が現れるだろう、ま、そいつを倒しながらお琴まで辿り着けたら俺の出番だ」
「でも、その眷属はいつどこで現れるか…」
「それはこの嬢ちゃんが分かるから安心しろ」
「お琴は嬢ちゃんの血を吸っただろう」
「なるほど、そういう事か…」
「そうだ、それでお琴や眷属が分かる!どんどん血を与えればもっと能力が増えるかもしれん」
「僕が死んじゃうよ!」
「ま、程々にな!おっともう時間が来たようだ!またな!」
「あっ!ちょっと!」
鬼斬はまた眠ってしまった…
「ふぅ、どう?会話できた?」
「できたけど無茶苦茶だよ…」
「眷属かぁ…私らで倒せるのかな?」
「やるしかないのかな…じゃないと玲子ちゃんが…」
「そだね…これ治るのかな…」
「ね、名前決めた?」
「名前?あぁ、刀の名前か」
「かっこいい名前がいいなぁ」
「う~ん…鬼斬さんが使ってる刀だから"鬼切丸"かなぁ」
「いや、それは駄目だよ、パクリじゃん!」
「えっそうか、じゃあ…"妖刀ムラサメブレード"とか」
「いや、それもパクリじゃん!ちゃんと考えてよね!」
「そんな事言ったって…すぐには思いつかないよ!」
「じゃあ明日までに考えといてね」
「うぅ、分かったよ」
家に帰るとそれぞれの母親が出迎えた
「おかえり、玲子」
「ただいま!」
「おかーさん!すみません!僕が居ながら…!」
「龍二…」
「いいよー、無事なら、今日はもう帰りな」
「はい!すみません!失礼します!」
「だだいま、母さん」
「おかえり、龍二」
「深くは聞かないわ、でも話があるから先にお風呂に入ってきなさい」
「うん、わかった…」
「龍二ー!また明日ね!」
「うん!またあした!」
風呂に入り、今日の出来事を思い出す…
最恐の心スポと言われている廃神社
誰も知らなかった地下通路と封印
世界を滅ぼそうとする"骸華 お琴"そして"眷属"
"刹那 鬼斬"と"妖刀名無し"…
生前のお事に何があったのか
鬼斬さんは一人で封印したのかな…
探すったってどうやって…全部玲子ちゃんに頼るのか?
当然眷属も強いんだろうな…
玲子ちゃんを守れるだろうか…
風呂を上がり部屋着に着替えた
「母さん、お待たせ」
「って、玲子ちゃんとおかーさん?」
「よっ!おじゃま!」
「二人に来てもらったのは、あなた達に重大な話があるからよ」
「何だよその話って」
「まぁ座って」
「あ、うん」
「まず、玲子ちゃんの事だけど、さっきあらかた聞いたわ」
「えっ!そうなの?」
「そして、玲子ちゃんの家、八神家は昔から巫女の家系なの」
「ちーっす」
おかーさんが合いの手をいれる
「巫女って…初耳だけど、どこの?」
「まぁ聞きなさい。そして私達小樽家は用心棒の家系なの」
「よ、用心棒?なにそれ笑えるんだけど」
「用心棒としての仕事は巫女を守る事なのよ」
「専属のって事?」
「そう、で、ここからが大事、私達小樽家の用心棒は代々八神家の用心棒をしてきたのよ」
急にロマンス感が出てきた気がした
「それじゃ、これからは僕が玲子ちゃんを守るって事?」
「そうなるわね、代々って言ってもここ何代かはそんな事無かったんだけどね」
「でも今日の話を聞いて、また復活させなくちゃならなくなったわ」
「母さんはお琴とかの話を信じるの?」
「勿論信じてるわ、封印したのは小樽家だし」
「えっ!?そうなんだ!」
「でも巫女を守るって言っても神主とか神社は?」
「それは無いのよ、昔はあったみたいだけど、神主より巫女の方が力があったみたいでね、神社から離れて呪物を管理していたのよ、その一つが骸華 お琴よ」
「ご都合主義っぽくない?だって神社の下に封印してあったじゃん」
「それは巫女の仲間が神主を買って出たからよ」
「へぇ~」
「その神社もたまに見回ってたんだけどねぇ…すっかり心霊スポットになっちゃって…」
「そして、いくら誘われたからって玲子ちゃんがこんな体になったのは貴方にも責任があるわ」
「ゴクリ」
「だから明日からはなるべく一緒にいなさい、いいわね?」
「わかったよ、僕が玲子ちゃんを守ってみせるよ」
「それじゃ、鬼斬さんを呼び出してくれる?」
そう言ってペティナイフを机に置く
自傷行為を勧める親ってなんなの??
そう言っても始まらないので指先を少し切る
「ツッ!」
玲子ちゃんはその指を舐める
変なプレイみたいでドキドキする…
「やぁやぁ皆さんお揃いで、俺が刹那 鬼斬だ」
「どうも、息子がお世話になります」
「娘がお世話になってるねー」
「で、何が聞きたい?俺も聞きたい事があるんだ」
眠ってても情報の共有は出来てるみたいだ
「あら、それじゃお先にどうぞ」
「そうかい?それじゃ、なんでこの娘は何も知らされていなかった?あと、この封印は何だ?答えてもらおう」
「それは私が話すねー」
おかーさんが語りだす
「成人したら教えようと思ってたからねー、今教えても荷が重いっしょ、あとその封印は巫女としての力を抑える為の封印さー、悪いやつに狙われない様にねー」
「そうか、巫女だから一回で取り憑く事ができたのか」
「娘の事ありがとねー」
相変わらず真面目なのかふざけているのか分からない母親だ
「あと、ボウズ!お前から感じた力は用心棒の力だったのか!これから剣術の稽古しろよ!」
「は、はぁ」
「それじゃ次は私の番ね、鬼斬さん、貴方は小樽家でしょ?なぜ、力を使わなかったの?あと、なんで刹那?」
「それは単純だ、現世に留まるのがやっとだったんだ、血が足りないんだよ!あと刹那ってよ、響きが格好いいだろ?だからそう名乗ってんだよ」
「ここに鶏肉のパックがあるけど、血がいっぱい出てるわよ」
「ははは!それは駄目だ、小樽家の血じゃなきゃあな!」
「刀の他にも装備はあるのかしら?」
「あるぜぇ、胴や篭手とか一式ある筈だ、俺が着けていたやつがな」
「ま、おいおい探せば良いわけね?」
「そういうこった!お、そろそろ時間だ!休ませてもらうぜ!じゃあな!」
「あっ!ちょっと!」
鬼斬は眠ってしまった
「龍二、貴方はこれから剣士として巫女の玲子ちゃんを護るのよ」
「玲子ー、これからアンタに巫女としての力を開放していくからそのつもりでー」
「「はい!」」
とは言ったもののどうすれば良いんだ?
どこかに通うのか?
「剣術は私が教えるからね」
「母さんできるの?」
「これでも小樽家の妻よ、任せなさい!」
「かーちゃん、巫女の力ってどんなの?」
「かなーり強力だよ、アレはヤバいね、マジヤバイ」
「っていうかさ、母さん達がやればいいんじゃないの?」
「そりゃ、代わってあげたいけど子供を産んだらもう力が弱くなるのよ、大半の力が子供に引き継がれるの」
「そーそー、だから玲子と龍ちゃんでやるのよー」
「はぁ…そうなのか…」
「ま、やるしか無いでしょ」
母親に似て妙なところでやる気になっている
玲子ちゃん達は帰り、母が言う
「これから厳しくなるわね、あなた達もこの街も…」
どこか遠い目をしている
実はどちらも母子家庭だ
幼い頃に事故で僕らの父親が他界したらしい
幼すぎて殆ど覚えてない
だから、僕が玲子ちゃんを守らないと!!