第5章:皇后陛下を救え(前編)
謁見が一段落したとき、菜々子は王様に向かって尋ねた。
「ところで、皇后様がいらっしゃるとお伺いしていたのですが、本日はご都合がよろしくないのでしょうか?」
王様の表情が一瞬にして曇り、
「ああ、それが…実は皇后が長い間、病に伏せっているのです。どんな名医も、どんな治癒魔法も効果がなく、私たちは非常に心配しています」と語った。
菜々子は深く同情し、「それは大変ですね。もしよろしければ、私に皇后様のお見舞いをさせていただけないでしょうか。もしかしたら皇后様のみに何が起きているのかわかるかもしれません」と提案した。
王様は一瞬驚いた後、希望を抱いて言った。
「それは本当ですか?なぜ皇后の身に何が起こっているかわかるのですか?
実は私たちはあらゆる異国の医者、治癒師、薬草など様々な方法を試しましたが、皇后の病は一向に良くならないのです。」
「私の持っている力で、調べることができるかもしれません。
一度、皇后様のお見舞いに行かせていただけますか?」と菜々子が再度王様に尋ねた。
「それは有難い。もし皇后が回復するならば、私や家族、我が国にとって最大の喜びです。」と王様がいった。
「国王陛下お喜びのところ大変申し訳ございません。失礼ですが、私は奈々子様が本当に皇后様のお体に何があったかを調べることができるとは思えません。」
「ロベルト!なんということを!奈々子様に失礼だと思わんのか!」
「恐れながら申し上げます。私はいまだ奈々子様を信用することができません。
皇女殿下をお救いしたとのことでしたが、
奈々子様ご自身が盗賊を差し向けて皇女殿下をお救いしたという可能性も無きにしも非ずかと…
そのような怪しげなお方をましては皇后陛下のもとにお連れするなど容認いたしかねます。どうかご再考をお願いいたします。」
「ロベルト…確かにそのような考え方もお前の立場であればしなければいけないこともわかる。
しかし、皇后を救うことができる兆しすらないというのも事実じゃ!
もう残されている時間もあまり多くないと治癒師たちにも言われている。
彼らが言うにはすべて手は尽くしたと…
私は最後の時まですべての知りうる手は尽くしたいそうすることが皇后に対しての私の精一杯の誠意だと思っている。だからロベルトわかってくれ」
「わかりました。…では私も同行致します。皇后様に何かあってからでは遅いのでご理解いただきたいと思います。」
「わかった。奈々子様ロベルトもご一緒してもかまいませんか?」
「私はかまいません。ロベルト様がおっしゃっていらしたことも一理あると存じます。
私としましてはご一緒できることで少しでも疑いが晴れれば嬉しいです。」
王様が菜々子を皇后様の部屋へと案内した。
部屋に入ると、彼女たちは床に伏せた皇后様の衰弱した姿を目の当たりにした。
皇后様の顔色は青白く、呼吸はか細かった。
菜々子は沈痛な面持ちで言った。
「皇后様、とても弱っていらっしゃいますね。私には特殊な鑑定魔法が使えます。
もしよろしければ、鑑定魔法を使い皇后様の状態を詳しく調べさせていただけますか?」
王様は驚いた表情で尋ねた。「鑑定魔法ですか?それは聞いたことがありませんが…」
「はい、私の魔法は、人の身体の状態や病の原因を詳しく言語化することができます。
ただ、この魔法は非常に珍しいものですので、他言無用でお願いします」と菜々子が静かに説明した。
「それは非常に貴重な力ですね。もちろん、秘密は守ります。どうか、我が妻をみてやってください」と王様が頼んだ。
「お待ちください!!そんな魔法聞いたことがありません!そんな怪しげな魔法で皇后様の身に何かあったら…!!」
「ロベルトっ!!さっきも話した通りじゃっ!!もう皇后には時間が残されていないんじゃ!これ以上邪魔だてするとそなたにも沙汰を下さねばならぬぞ!!」
「っ…申し訳ございませんでした…しかし、奈々子様くれぐれもよろしく頼みますよ!」
「かしこまりました。それでは始めさせていただきます。」