莉子と見る夫婦の形
テレビでのニュースを改めて見る訳ではなく、莉子は架に電話をした。特に会いに行こうとは思わなかったが、自分の父親のせいで、巻き込まれるのを謝罪したいと思ったからだ。
「架?」
携帯は、すぐ繋がった。少し、疲れた感じの声だった。
「見たのか?」
架は、テレビで、莉子の父親の事を知ったのかと聞いてきた。
「えぇ・・・やっぱり、そういう人だった」
「それをわかってて、うちの親も、乗った話だ」
「どうするの?」
「うん・・・」
架は、引き出しを開け、一枚の紙を取り出した。
「うちも、甘い汁をたくさん分けて貰ったからね。莉子、ごめんな」
思わず、架の口から謝罪の言葉が出て、本人が一番、驚いた。
「本当・・ごめん」
「何に対して、誤っているの?」
僕は、2人の会話を聞いていて、いいものか、少し、場所を変えた方がいいのか悩んだ。
「行かないで」
そう小さく呟いて、莉子は、僕のシャツの裾を掴む。
「君を縛った事。君の自由を奪う事で、僕自身を満たしていた」
架は、続ける。
「諦めず、夢を追う姿が、嫌だった。諦めろと言いたかった」
「私から、何もかも奪いたかったの?だから、怪我をさせたの?」
莉子は、あの時の記憶がない。架が、自分を再起不能にしたくて、事故に遭わせたと思っていた。
「あなたと同じ様に、事故に合わせたの?」
「違う。僕じゃない」
「あなたが、そうしたんだと思った。それだけでなく、子供まで、外で、作って・・」
莉子の肩が小さく震えている。辛かったんだ。だから、薬に頼らざるを得なかった。
「君を苦しめる為だけに、言ったんじゃない」
「私を否定したのだと思った。全てを奪った上に、子供ができない事を思い知らされた」
「莉子」
僕は、興奮し、震える莉子の肩を抱いた。
「大丈夫だよ。莉子は、何も悪くない」
後ろから、思わず、抱きしめる。
「誰かいるのか?」
気配に、電話の向こうの架が気付いた。
「新といる」
「そうか・・・一緒なんだ」
「えぇ・・。私達、選択を間違っていたのね」
「そう思いたくなかったけど。隣の彼に変わってくれないか?」
莉子は、携帯を僕に差し出した。
「まさかね。君に負けるとはね」
「勝ち負けでないよ」
僕は、言った。
「今からでも、遅くない。リハビリするんだ。また、ピアノをやればいい」
「知らない奴だな。腕が落ちたと言われて、続ける気はない」
「上手だとか、気にしている場合か」
「お前には、わからないよ。僕らの気持ちなんて」
電話の向こうの架の騒がしくなった。
「そろそろ、僕は行かなくてはならない。そう、莉子にプレゼントがある」
莉子に代われと架は、言う。
「莉子。君にプレゼントを用意した。会社の机の引き出しの中だよ。」
「いらないわ。今更、プレゼントなんて」
「必要な物だよ。僕は、これから、父親に変わって、出頭する。」
架は、倒れた父親に代わり、事情聴取を受けると言う。莉子は、言葉にならない小さな返事をし、電話を切った。
「行かなくていいのかい?」
心にもない事を僕は、聞いた。
「行かないわ。続きを練習しましょう」
そう言うと、莉子は、車椅子で、中に戻っていった。