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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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その時、君は、奇跡を起こす

そこから、僕達の不思議な同居生活が始まった。藤井先生は、昼近くにスタジオするから、朝は、ゆっくりだ。黒壁は、仕事にここから通い、週末は、自分のアパートに帰って行った。僕は、最初、転職先を探したが、大きな病院は、父親の手が回っているのか、雇ってくれる所もなく、小さな整形外科で、運動選手のリハビリをする事になった。合間を見て、藤井先生のスタジオに通い、生徒さんのレッスンに付き添い、自宅とスタジオで、莉子のリハビリを始めた。勿論、黒壁と共同で。黒壁は、東洋医学も勉強しており、いろいろな新しい方法を試そうと言ってくれた。僕もそれに同意した。方法があるなら、試したい。莉子も同意した。夜は、莉子の自我が崩壊しやすいので、近くの部屋で、休むようにした。黒壁がいるのは、あいつ、曰く

「人妻と間違いを起こさないように」

だそうだ。こんな状況で、僕から、間違いを起こす訳がない。黒壁の方が、可能性があると藤井先生が言って笑った。僕は、とにかく、莉子の足裏を、マッサージした。莉子は、

「感覚がない」

とよく言った。足裏は、硬く冷たい。感覚すらないのか、立ち方も、忘れている。足裏の次は、親指、中指、小指を骨に沿って、曲げていく。足の脇を打つ側に織り込んだりしながら、丹念に揉みほぐす。

「何かさ・・・お前、いやらしい」

時折、黒壁が、茶々入れるから、莉子も僕も、変な空気になった。柔らかくなった所で、今度は、車椅子のまま、立てた足指に圧を加えていく。親指、中指、小指と。忘れてしまった足先の感覚に刺激を入れていく。何度も繰り返す。

「ほら、黒壁、触ってみろ。お餅みたいだろう?」

繰り返すうちに、莉子の足裏は、柔らかく、吸い付くようになる。

「俺が、触っていいのかよ」

黒壁が、そう言いながら、少し、空気の抜けたボールを持ってきた。

「どうするんだ?」

「まぁ・・・見てて」

黒壁は、敷いたヨガマットの上に、莉子を横たわらせた。尾骨の下に、ボールを入れる。

「新。両足を抱え上げ、ゆっくり、降ろしてみて」

それを繰り返す。また、今度は、うつ伏せになり、ボールを下腹部に入れた状態で、莉子に、お腹で、押すように、言った。

「これって?何の?」

今までとは、違う動きに莉子も戸惑っていた。

「中から鍛えてみようと思うんだ。今まで、感覚を無視してたからね」

黒壁が答える。確かに、筋力ばかりに目がいっていて、感覚の回復まで、考えてなかった。そんな簡単なストレッチを合間見て、続けていく。

「結構、続いているわね」

ご機嫌な藤井先生が、僕らにケーキの差し入れをしてくれた。

「お!マンゴーのケーキじゃん」

黒壁が、真っ先に皿を取り出す。

「遠慮がないなぁ」

マンゴーのケーキは、莉子が好きなのに。と、思いながら、別の皿にケーキを乗せようとした時だった。

「あ!」

皿に乗せたケーキが滑り、床に落ちそうになった。

「やば!」

僕と黒壁が、手を差し出し、キャッチしようとした時に、一瞬、誰かの手が、僕らの前を掠めた。

「えぇ!」

ケーキをつかもうとして、一瞬、右足を前に出し、前傾する莉子の姿があった。

「嘘!」

藤井先生が叫び、ケーキは、莉子の手を掠め床に落ちた。

「はぁ???」

僕と黒壁、藤井先生。そして、莉子。僕らは、顔を見合わせた。

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