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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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同居します。

その夜。僕らは、藤井先生の家に泊まった。莉子は、這いつくばり、苦しさのあまり、涙を流していたが、落ち着いたのか、僕の腕の中で、眠りについていた。寝ようとしても、頭が冴えて眠れない夜。カーテンの隙間から、朝日が昇るのがわかった。朝は、少し、肌寒い。壁を背にして寄りかかる僕達に、藤井先生は、そっと毛布を差し出した。

「きっと、莉子は、何も覚えていない」

夜間に苦しみ抜いて、泣き叫んだとしても、翌日は落ち着いている。忘れてしまうのか、夜間とは、全く違う顔だ。彼女の中に、抑圧された感情が眠る。解放されるのは、夜。あの睡眠導入剤も、その症状を抑える物だった。常用しているから、ふらつき、思い通りにリハビリだって進まない。莉子の苦しみを取り除く事が、最短の道のりなんだ。

「眠れなかったか?」

隣の部屋にいた黒壁が、ひょっこり顔を出した。

「うん。色々考えてね・・」

「まあ・・・そばに、好意を持つ女性が居たら、眠れる状態では、ないよな」

自分は、しっかり、睡眠を取りましたって、顔をした黒壁が言う。

「やっぱりさ。莉子の環境が悪すぎるんじゃないか?」

「逃げ出すにも、逃げられないし・・」

僕は、ため息をついた。

「どうするよ。架に言うのか?」

「それは、架が原因だったら、どうする?」

「何が原因で、彼女を追い込むのか、わからない」

「愛情が憎しみに変わる時もあるよ」

僕は、笑った。黒壁がそんな事を言うとは、思っていなかったから。

「おいおい・・・俺だって、色々あるし・・莉子が、新に魅かれてるって知った時は、ショックだったな」

「え?そんな事あった?」

「お前が知らないだけで、何度も、お前が担当にならないか、確認していたんだよ。俺も話すのは、癪だから、黙っていたけど」

「そっか・・」

「ハードル高いよな。人の奥さんだもんな」

「紙一枚の関係だろう?莉子がどう思うのかだよ」

僕は、横で眠る莉子の顔を見ていた。顔を歪め苦しんでいた莉子の姿は、もうない。

「あのさ・・・いっその事、お前ら、くっついちゃえよ」

「へ?」

「だって、莉子の夫も、人の事言えないだろう!お前、言ってやれよ」

「お前って?荒いなぁ。そのやり方」

黒壁は、基本、短気だ。時には、荒っぽい方法に出る。僕らが、また、戯れ合う物だから、その騒ぎで、莉子の閉じた瞼が、微かに震えた。

「起きたのか?」

黒壁が急に顔を出したので、莉子は、一瞬、小さな悲鳴をあげ、体を固くした。

「へ?どうして?」

「どうして?って」

黒壁は言った。

「今日から、俺達、一緒に暮らす事にしたから」

「え?」

俺は、素っ頓狂な声を上げた。

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