初めて向き合う時
「私は・・・」
莉子が言葉を出せず、口を噤んでしまった。
「莉子・・・僕は、君から本当の事を聞きたい」
心の奥底に溜めている事を。誰にも、言えず、その塊が、君の心の中で、蟠りになっているのなら。それが全ての始まりと言うなら、伝えて欲しいと。
「君の力になりたいと思う」
莉子からの返事はなかった。大きく開いた瞳から、大粒の涙が、こぼれ落ちるだけだった。
「いいよ・・・待ってるから」
僕は、そう言い莉子の荷物をまとめた。莉子は、言葉を発する事もなく、黙って俯いているだけだった。一人で、戦わなければならない事情は、どんな事があるのだろう。一緒に、莉子のマンションに行く事は、出来ず、架に事情を話す事もできないので、藤井先生に連絡を取って、迎えに来てもらう事にした。
「こんな事になるなんて、私の考えが甘かったのかしら?」
藤井先生は、僕のそばで、そっと、呟いた。
「ただ・・・リハビリをすれば、元に戻るもんだではなかったのね」
「そうじゃなかったみたいです」
僕は、頭を下げた。
「もう少し、真剣に掘り下げる必要があります。僕の力が足りなくて。。。」
藤井先生は、僕を廊下に置いて、病室に入って行った。
「莉子。いろいろ考えたけど、しばらく、私のマンションに来てみない?」
「先生の所?」
「そうよ。少し、私の所で、休んで欲しいの。架さんには、私から、話しておくから」
「先生・・私」
莉子は、何かを言いかけたが、僕の気比を察して、また、黙ってしまった。
「莉子。私から、お願いがあるの」
「はい・・・」
「何か、辛い事があったとは、思えるの。だけど、フラメンコを諦めないでほしい。あなたが言葉で、伝えられない感情も、バイレだった、あなたなら、表現できる。刹那に生きているあなただからこそ、伝えられる。だから、リハビリをして。歩くの。歩けないじゃない。歩くの」
藤井先生の言葉は、強いものだった。莉子の体を抱きしめ、先生は、背中に顔を埋める。
「莉子。わかっているでしょう?私の想い」
「はい・・」
莉子は、藤井先生の手を固く握りしめ、感慨深めに、頷いている。
「先生の辛さも、わかっています」
藤井先生も、僕に話の内容を聞かれたくないのか、莉子の耳元に何か、囁くと廊下にいる僕を呼んだ。
「新君。お願い」
僕が、2人のそばにいくと、莉子は、目を伏せたままだった。
「莉子をしっかり、サポートして。そして、必ず、立たせて欲しいの」
「それは、わかりますけど・・」
リハビリするには、本人のモチベーションが必要だ。今の莉子が抱えている問題が障害にならないとも、限らない。
「私に、力を貸してほしい」
莉子は、ようやく、僕に眼差しを向けた。初めて見る莉子のまっすぐな眼差しに、始めた見た時と同じ衝撃を受けた。
「わかったよ・・・莉子」
君をステージに戻そう。いろんな問題を含め、それがあなたなのだから。