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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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想い人を冷静に見つめる事はできますか?

マンションにも戻らないと決めた僕は、結局、黒壁のアパートに転がり込んだ。

「やっぱり、使えるカードも限られてくる華」

自分名義のカードのみ。当たり前だが、親に与えられたカードを持っていた。当然、使った事はないが、当面の生活を考えて、試算を導き出してみた。

「莉子が治るまで」

そうしようと思った。このまま、何もかにも、中途半端で、終わる訳にはいかない。僕が僕らしく後悔しない為にできる事。莉子を藤井先生に預けよう。架の気持ちも、わかるが、そもそも架が、莉子を愛していない事は、わかっている。架にも、自分の道を歩んでほしい。皆、自分の道を間違えている。勿論、僕もそうだ。莉子が元の道を歩ける様になったら、僕も、自分の道を歩こう。病院で働けなくても、リハビリを必要としている人は、たくさんいる。僕は、その人達の力になりたい。身体の機能と共に、失った夢をもう一度、みさせてあげたい。藤井先生も、

「スタジオの2階が空いているから、使いなさい」

衣装部屋を空けるからと言ってくれたが、そこに僕に住んでしまったら、莉子と離れられなくなる。事情を知る黒壁に理由を話し、次の住処が見つかるまで、黒壁の世話になる事にした。

「俺は、思うんだけど」

普段は、お調子者の黒壁も、医療従事者らしく、真面目になる事があり、僕と本気の論議を交わす事がある。

「莉子の一時的な記憶喪失や人格障害って、本当だと思うか?」

僕は、黒壁の質問にドキッとした。あの睡眠導入剤を見つけた時から、僕が抱いていた疑問だったからだ。いや・・・その前、病院で転倒した莉子の両足が、動いたのを目にした時からだ。

「硬膜下血腫の後遺症で、発症する人もいる」

僕は、自分の考えを打ち返すように黒壁に言った。

「頭の中に残った血腫が原因で、一時的に出る人はいる。それに、感情を抑制できなくなり、人格崩壊と言われる様な、症状を出すこともある」

「感情の抑制ができない場面は、今まで、いくらでもあった筈だ。お前と一緒にいた時は、そんな事あったのか?」

「・・・ないね」

莉子は、冬の陽だまりの様に、静かで、暖かだった。

「誰といる時に、人格が壊れたり、記憶が途切れたりするんだ?考えた事あるのか?」

黒壁に言われてハッとした。人格が変わったと言うのは、架の一方的な意見だ。

「だけど、今は、僕の事を夫の架と間違えていて」

「元々、好意を寄せていたお前を夫と呼ぶのは、容易い事だよ。何があって、そんな行動をしているのか?考えたか?」

「莉子を疑って事?」

「そうじゃない。莉子に入れ込みすぎだよ。もっと、冷静になれ」

「足は、心因性で、歩けると思っていた・・・けど、彼女の行動については・・・」

「冷静になるんだ。何か、大事な事を見落としていないか?硬膜下血腫だけが、本当に、原因なのか?彼女が人に言えない事を抱えているんじゃないか?」

「そうか・・・」

僕にも言えない深い傷。言えずにいる莉子から、聞き出すのも難しいとしたら。藤井先生も知らない事実。

「莉子の夫が、話すわけないし・・・」

突然と、脳裏に浮かび上がる女性。心陽。莉子の側にいて、知らず知らずに莉子を傷つけているもう一人の人間。

「あ・・・いる」

「どんな奴だ?」

僕は、黒壁に心陽の事を話し始めた。

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