表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
68/106

失った物と得た物

勤務先に戻った僕に突きつけられたのは、親の力で生きていた者が逆らった為に、失った現実だった。

「お前、一体、何やったの?」

病院に着くなり、更衣室で、待っていた黒壁が開口一番、僕に告げた。

「お前が、危ない橋渡る奴だとは、思っていなかったよ」

黒壁は、コーヒーを持ってくると、耳打ちした。

「このまま、帰っちゃえよ」

「そうしたいけど」

黒壁曰く、もう、僕のデスクはないとの事。院長より、解雇が皆に伝えられたという事だった。

「こんなに、早く親父が手を回すとは・・・」

両親は、本気だ。莉子の身の回りを調べ、僕を思い通りに操ろうとしている。

「院長を怒らせたのか?」

「いや・・・怒ったのは、院長ではなくてね」

僕は、着ていたユニホームを脱ぎ捨てた。

「まぁ・・・そう言う訳だから、世話になったよ」

僕は、黒壁の肩を叩いた。

「お前・・・また、あの子のリハビリ続けてたのか?」

「どこまで、できるか、試したかったし・・・興味があった」

「いい子だけどさ・・・荷が重いだろう」

「そんな事、考えた事なかった」

「力になるからさ。何かあったら、言えよ」

僕は、黒壁に軽く挨拶をして、病院を後にした。親父達は、本気だ。きっと、カードは、止められているだろう。僕は、マンションに行くと簡単な荷物だけをバックに詰めて、街を出る事にした。家には、戻らない。そう決めていた。携帯の着信が七海からの電話である事を知らせた。勿論、出る訳がない。

「どこに行こうか?」

車は、マンションの駐車場に置いてきた。電車と地下鉄を乗り継いで、やはり、来てしまったのは、藤井先生のスタジオだった。

「あら?ここに真っ直ぐ来るとは、どういう事かしら?」

先生とは、莉子を救急搬送した日以来だ。

「病院には、行っていないの?」

「旦那がついているから」

「聞いていないの?」

藤井先生が、困った顔をした。

「莉子のお父さんが連絡をくれてね。ちょっと、困った展開になったそうよ」

「何かあったの?」

「手術自体は、問題なかったらしいけど」

藤井先生は、僕に、病院に行くように告げた。話は、こうだ。手術は、問題なく終了し、意識は、戻った。だが、記憶が退行しており、夫の顔を覚えていなかったそうだ。夫の架は、あまりにも、莉子が怖がる物だから、病院に顔を出す事もできず、会社にいるとの話だった。

「人格障害の話もあったそうね」

藤井先生は知っていた。

「夫の架さんといる時だけ、興奮して手のつけられない時があったそうよ」

「感情が抑えられないのは、硬膜下血腫の後遺症だし、僕の前では、そんな事はなかった」

「それはね・・・」

藤井先生は、言った。

「莉子に問題があるのではなく、架さんに問題があるの」

僕は、ハッとした。

「きっと、私達の知らない何かがあるのよ」

僕らには、伝えられない事情を莉子は、抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ