身近に潜む悪魔
ステージの合間の縫って顔を出してくれた藤井先生は、普段のメイクとは、全く異なり、衣装に負けない派手なメイクに、間近で見る僕は、少したじろいていた。
「ごめんね。新君。無理を言って。みんなステージに駆り出されていたから」
「いえ・・大丈夫です」
「新幹線できたの?」
「まぁ・・・2時間位で着いちゃうし」
「本当。大事な用があったんでしょう?」
ふと七海の事が気になったが、考えない事にした。両親への言い訳も色々考えたくない。
「莉子に逢えた?」
僕は、首を振った。
「中には入れていないです。外に彼女がいて」
僕は、去っていく心陽の後ろ姿を指した。
「また・・・彼女ね」
藤井先生は、気のせいかため息をついた。
「莉子がどうして、あんな子といるのか。わからない」
「え?」
僕もそう思っていたけど、藤井先生まで、そう思っているとは、考えた事もなくて、僕は声を上げた。
「気をつけてね。私も、最近知ったんだけど。彼女は、少し危険な子ね」
「危険て何ですか?」
「証拠がないからね」
藤井先生は、少し、時間を気にし出していた。
「また、ゆっくり話すから。とにかく、彼女には気をつけて」
慌てて裏方に戻ろうとする藤井先生をもう一人のスタッフが声をかけた。
「先生。大事な事は言っておいた方が、莉子の為よ」
僕は、気になって追いかける。
「一体、何なんです?」
「亡くなった子がいるのよ。自死として、言われているけど、私はねぇ・・」
「あの女が、いじめたんですよ。自分が、コンクールで優勝する為に」
「莉子は、その時は、ピアノから離れていたから、知らないみたいだけど」
スタッフは、藤井先生を急かしながら、口々に心陽の黒い噂を捲し立てた。
「新君も気をつけて」
「あ・・・あぁ」
嵐のようにスタッフが、動き回り、口々に莉子の身を案じて、僕に伝えてくるので僕は、余計に、心配になってきてしまった。
「マンションに行きなさい」
藤井先生は、付き添いの女の子に預けていたバックから、名刺を取り出すと急いで、何かを書き込んだ。
「本人と話して確認して。あの子が絡むと良くない事が起きるから」
僕の手にメモを押し込む。
「力になってあげて」
口々に何かを言いながら、楽屋へと駆け込んでいっt。
「僕は、一体、どうしたら?」
これ以上、踏み込むなと自分に言い聞かせていた。勝手にここまで、流れてきた。身軽な方がいいじゃないか。だけど、あの日の莉子の後ろ姿が焼き付いていて。このまま、彼女を閉じ込めたままで、いいのだろうか。僕は、タブラオの階段を駆け上がっていた。地下にあるタブラオは、空気がこもり、そして、汗臭い。長い階段を駆け上がると、ふっと、外の空気の塊にふれ、ほっと息をする。僕は、決めなくてはならない。彼女を外に連れ出そう。