表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
56/106

相反する者

僕の前で、ステージは、進められていく。煌びやかな衣装は、曲毎に異なり、一眼でその踊り手が、ストーリーを表現している。藤井先生が、ステージの始まる前に、挨拶をしていた。

「フラメンコは、人生と同じ」

悲しさ、怒り、喜び。そして、切なさを表現していく。僕が、莉子に抱いた思い。それは、切なさから、始まった。外来のホールで、見かけた莉子の後ろ姿。誰かを待っているのだろうか。来ない人を待つ莉子の後ろ姿に、言われのない切なさを感じていた。踊りの中には、ストーリーがあり、歌い手の声が伸びやかに、響いていく。

「だからね・・・嫌なのよ」

床を打ちつける音が、次第に大きくなっていく。

「何が?」

僕は、耳元で囁く。ホール内に、歌い手とギターのリズム。莉子がやるはずだったパルマ。靴の音。全ての音が絡み合い踊り手を絡みとっていた。僕の側で、ステージを見ていた心陽は、再度、つぶやいた。

「騒々しい」

「え?」

振り向いて心陽の顔を見てしまった。苦々しく呟くと、苛立った顔で、首を振る。

「だから・・・嫌いなのよ」

そう言うと僕の服の裾を引っ張る。

「莉子がいないのに、見ているつもり?」

「そのつもりだけど」

「ばかね。あなたも」

「意味がわからないよ」

フラメンコを見ている事がどうして、ばかなのか?

「関わらない方が良かったのに。莉子は、あなたの物にはならない。ずっと、籠の中の鳥が似合うの」

「随分、酷い事を言うんだね」

勝手について来て、言いたい事を並べる心陽に腹が立った。

「酷い事?酷いのは、どちらなのかしら?あんたは、莉子をよく知らない」

「何だって!」

僕らが言い争いを始めたので、周りの人が顔を顰め始めた。僕は、心陽の口車に乗らないように、無視する事にした。莉子が出る筈だったステージを見ておきたい。フラメンコのレッスンは、何度も見てきた。けど、本番は、初めてだった。心陽に振り回されたくない。

「帰るわ」

無視を決められて、心陽は、立ち上がった。

「莉子が大事なら、もう、逢わない事ね」

そっと僕に耳打ちする。

「期待させておいて、裏切る事になるのよ」

「どういう意味?」

周りに迷惑をかけそうなので僕は、心様に付いて、ホールを後にした。

「意味深な事ばかり言って、気が散る」

「呑気に、見ている場合なのかしらね」

「莉子に何かあったのか知っているんだろう?」

僕が莉子に逢う事を邪魔するように、彼女は、ステージを見に連れ出していた。最初は、莉子が僕に逢う事を拒んだ為かと思っていたが、そうではなかったようだ。

「絶対、結ばれないのに、どうして莉子に逢いに行こうとするの?あなたと莉子は住む世界が違う」

「そう言う君も、必ず、莉子と同じ位置にいる訳ではないな」

今まで感じていた違和感。心陽。この女性は、莉子に悪意しかない。彼女がどうして、莉子に悪意を持つのかは、莉子の夫と同じピアノが原因だろう。

「莉子に逢う時は、今の私の言葉を思い出すのね」

僕は、心陽に口を開きかけたが、藤井先生が顔をだしたので、心陽から、すぐ離れた。僕がホールから出ていくのを見つけて、ステージの合間に抜け出してくれていた。

「大丈夫だった?」

真っ先に心配していたのは、莉子の事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ