自分の理解者は
莉子は、ぼんやりと天井を見ていた。頑張っても、どうする事もできない。誰もいない時に、転倒する事は致命的なのに。夫の言葉が、自分を打ちのめし、自分から、力を奪っていく。
「こんな事が、前にもあった気がする」
あの事故の記憶は、途切れたまま。久しぶりに夫との食事の約束に現れたのが、心陽だったと思う。その後、ホールで転倒して。気が付くと病室にいた。
「あれから、ずっと眠っていたんだよ」
主治医がそう告げた。日にちを聞くと、5日が経過していた。自慢の長い髪はなく、ざらざらとした、肌触りだけが、気持ち悪かった。自分の状態が理解できないまま、主治医の説明を受けた夫は、事もあろうか、真実を莉子に告げた。
「もう歩けない。家で、療養した方がいい」
伏せ目がちに言った夫の横顔を今でも、覚えている。
「歩けないって?」
「頭の中の血腫は、取り切ったけど、どうしても取れない場所に、塊があるそうだ」
「歩けないなんて、嫌」
莉子は、叫んだ。
「私だって、やりたい事がたくさんある。架さんだって、そうでしょう?私の気持ちが一番、わかるのは、架さんだと思う」
「僕は、違うよ」
架の表情はない。
「背伸びしすぎたと思っている。望んではいけなかった。」
「諦めないで、リハビリしてみたら、動かせるかもしれない」
「いいんだ!」
赤面し激昂する架の様子に、莉子は、一瞬、たじろいた。
「もし、リハビリして動かなかったら、どうするんだ?それに、こんなに長い間、弾けていない。こんな僕を曝け出せというのか?」
珍しく架は、感情的だった。あの日の新聞の記事が、莉子の脳裏に甦る。
・・・・無念の引退・・・・事故による負傷の為、会社の経営権を相続し・・・
架は、華々しい引退を望んでいたのではないのか?
「リハビリしたからといって、僕の技術が元に戻る保証はない。それどころか・・」
落ちぶれてしまう恐怖が、架を支配している。地に落ちても、這い上がる気持ちが、架にはない。
「二度とその話はするな状態が落ち着いたか、家に帰るんだ」
架は、機嫌が悪くなり、莉子の個室から立ち去っていった。
「それでも・・」
莉子は、呟いた。
「歩けない」
架は、そう言った。呪文の様に、莉子の心を支配する。
「それでも、私は、踊りたいの」
莉子は夫に隠れるように、主治医に相談する。
「リハビリがしたい?勿論、リハビリはした方がいい。急性期だから、幾つかの病院を選んでおくよ。そおいえば、実家の近くにも、いいリハビリ病院があるんだと。お父様が誘致していて、関東から、リハビリの先生が通ってきている」
「そんな所があるんですか?」
「復興対策として、お父様は、医療の誘致に力を入れているからね」
莉子は、その病院が気になった。海を眼下に見下ろす白い建物が、気になった。
「先生。ここを考えてみたいんです」
再度、主治医にあった時に、莉子は、リハビリの転院の意思を告げていた。そこで、逢ったリハビリ師が、親から逃れてきた新だった。