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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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善意を装う悪意

僕が、莉子の親友と言う心陽と初めて会ったのは、その時だったと思う。莉子の通うフラメンコスタジオは、常時、生徒さんを募集していて、見学者は自由に出入りしていた。レッスン前の簡単なストレッチを僕は、任されていて、莉子のリハビリを同時に行いながら、その日のレッスンで、莉子にできそうな動きを取り入れていった。そうなると、僕も、フラメンコの動きを理解する必要があり、少しずつ、フラメンコのリズムが、体に染み付いていく感覚だった。あの日に、思わず、莉子の体に触れてしまって、わかった事は、思いの他、下半身の筋肉が落ちている事だった。負荷をかけて動かすしかない。藤井先生と何度も、打ち合わせしながら、どうしたら、彼女が立てるのか、話し合っていた。

「新君、筋がいいわ」

僕は、思わず、フラメンコの動きを真似して、ステップを踏んでみると、褒め上手な藤井先生が、声をあげた。

「本気で、レッスンしてみない?」

「いえいえ・・僕は」

スタジオは、滅茶苦茶、男性がいない。莉子をリハビリする為に、ここに通うだけでも、重圧を感じるのに、フラメンコを習うなんて、僕には、重圧すぎる。

「そう?莉子と一緒に、ステージを踏むのもありよ」

人の目につきやすい所に出るなんて、とんでもない。

「あら?見学希望者かしら」

僕を冷やかしながら、莉子の動きをチェックする藤井先生が、外の様子に気付いたのは、その時だった。スタジオのドアを開けて、見慣れた七海と一人の女性が立っていた。

「あらら」

七海がどういう存在か知っている藤井先生が、僕の顔を振り返った。

「可愛い恋人さん。見学希望かしら?それとも、付き添い?」

七海が、泣きそうな顔で立っていた。そばには、藤井先生も、よく知る人なのか、目で挨拶すると、莉子の元へと歩み寄った。

「新しい先生?」

その女性は、莉子の知り合いなのか、莉子の目線に座り込み話している。

「心陽と言います。莉子とは、長い付き合いなの」

僕の様子に気づいて、その女性は、挨拶した。

「彼には、莉子のリハビリに来てもらっているの。このまま、埋もれさせておくのは、忍びなくてね」

藤井先生が、心陽に説明する。

「聞いてなかった?」

「こんな素敵な男性とリハビリしているなんて、知らなかったです」

心陽は、笑った。少し気の強そうな艶やかな女性だった。莉子よりも、フラメンコが似合いそうな女性だ。

「どうしたの?急に、スタジオに来るなんて?」

莉子は、心陽に聞く。いつも、連絡をくれてから、差し入れを届けたりしていたそうだ。

「架さんに、莉子の居場所を聞かれて」

心陽と莉子の夫は、メールでやり取りをしているようだ。

「フラメンコのレッスンで、答えられないから、アリバイ確認にきたの。そうしら、外に・・・」

スタジオの外で、泣きそうになっている七海に気づいて、中へと連れてきたと言うのだ。

「莉子のリハビリさんの知り合い?」

心陽は、七海に目線を送った。

「ええ・・友人です」

七海は、節目がちに答えた。僕らの異様な雰囲気に、レッスンの邪魔になると思った藤井先生が、声をあげた。

「2階に事務所があるから、そこで、お茶でも飲んだら?」

練習生に目配せすると、その中の一人が、エレベーターまで、案内した。

「知らなかった。莉子は、素敵な男性が、周りにいて、幸せよね」

心陽が、じっと、僕を見つめながら、そう呟いた。

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