未成熟な愛
七海は、いたたまれず、新が通うフラメンコ教室を覗きに行っていた。週末には、車を使い、スタジオ入りしている。新や他のスタッフに見つけられるのを、恐れながら、通りに面したスタジオの窓から、そっと覗いていた。小さい頃から、新と一緒にいるのが当たり前になっていた。新や自分の両親も、二人が将来、一緒になるのを、望んでおり、いずれ、病院長の妻になるとばかり、思っていた。だが、新葉、医師になる事を、拒否し、親の反対する道を選んだ。
「リハビリ師なんて」
医師の妻になる事を切望していた母親は、落胆した。
「破棄してもいいのよ。あなたなら、もっと、いい嫁ぎ先があるから」
「いや。絶対、新がいい」
幼い時から、新以外、考えた事がなかった。いつも、新が側にいた。
「絶対、新と結婚する」
それ以外、考えられない。生活全てが、新を中心に回っていた。新が地方の病院を選んだ時には、地方に付いて行く事に躊躇したが、新幹線で通う事にした。新の周りで、何が起きているのか、知りたかった。
「どうして、彼女なの?」
新が、リハビリに力を入れている女性の存在を知った。病院にいる新の様子を見に行った時だ。応対した同期の男性が、冗談で言っていた。
「車椅子の女性に、力を入れている」
担当を外された黒壁がつまらない嫉妬に駆られた発言だったが、七海には、十分だった。
「どんな女性なのか」
何としても知りたかった。目にした時は、衝撃だった
「本当に、車椅子なの?」
新を問い詰めると、笑って
「ただの患者だよ」
否定した。が、新の彼女を見る目は、七海の知っている新の姿ではなかった。初めて見る、新の一面だった。
「違うと思う。不安なの」
七海は、勇気を出し新に、否定してくれる様に、頼んだが、新からの返事は、冷たかった。
「七海は、妹としてしか見れない」
絶望した。今までの、新の対応を見ていて、不安はあったが、その不安は、的中した。新は、自分を見ていない。何度も、遠くから見る車椅子の女性と新の姿に、胸騒ぎだけ、感じていた。
「よく見る顔ね」
週末に、スタジオの側で、新の到着を待っていると一人の女性に声をかけられた。スタジオの生徒かと思い、慌てて立ち去ろうとすると、その女性に腕を掴まれてしまった。
「そこのリハビリの先生のお知り合い?」
その女性は、新を目で、追いかけながら話しかけてきた。
「いいえ・・・。フラメンコに興味があって」
「中に入ればいいのに」
フラメンコに興味があって、と言った以上、断れない。
「レッスン中なのに、邪魔する訳には、行きませんから」
「大丈夫よ。だって、私もここの生徒じゃないのよ。知り合いが居て、時々、様子を見に来るの」
その女性は、新と一緒にいた車椅子の女性を指差す。
「中には入りましょう」
断れず、そのスタジオに見学に行く事になってしまった。
「あら?心陽?」
スタジオに入るなり、女性は、顔を上げるとすぐ、その女性の名前を呼んだ。
「七海?」
新が、険しい顔つきになるのが、わかった。