表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
43/106

歪んだ愛しか与えられない

本当に、自分は、綾葉との子供を喜んでいるのか?ふと、キーボードを叩く手が止まった。会長席に座る父親と目があった。

「何か、ようか?」

「いえ・・」

一代で、この会社を築いた父親。架の母親もピアノを習っていたせいか、架が物心つくとすぐ、ピアノを習い始めさせた。

「男のくせに、なんだ?」

というのが、父親の口癖だった。が、ピアノを弾くと喜ぶ母親が嬉しかった。

「もう、ダメかもしれない」

事故の時に、自分以上に、ショックを受けたのは母親だった。このまま、ピアノの道を進むと思っていた。いっその事、思い切って、リハビリをしてみようか。ピアノが好きだ。誰にも、縛られず、あの音律に包まれていたい。架の感性は、遅く糸の様だった。ピアノ線、そのものであり、細く壊れやすい。繊細な神経は、事故により、壊れてしまっていた。破壊的で、攻撃的。全くの真逆な感情に、浸る事で、精神のバランスを保っていた。

「本当は、莉子を愛している」

と思う。暖かく自分を心地よく包んでくれる。自分の顔色を窺う訳ではない。その彼女が、転落し車椅子になった。自由に、大空を飛んでいた小鳥が、籠の鳥の様に、どこにも、行けなくなった。まるで、自分のように。自分は、残酷だ。自分より、不幸な者をそばに置くことで、安心できる。いつしか、莉子は、自分の顔色を窺うようになった。母親や綾葉と同じように・・・。莉子は、綾葉に子供ができたら、どんな顔をするだろうか?莉子は、もう、二度と歩けまい。綾葉の子供を養子縁組しようか。架は、色々考えを巡らせているが、綾葉と結婚するつもりは、なかった。が、ある日の事だった。綾葉の祖母が、会社を訪ねてきた。綾葉は、両親をとうに亡くし、資産家の祖母が、大事に育て上げた大事な孫だ。

「どう言ったご用件でしょうか?」

その日は、架が商談で不在だったので、最初は、父親の秘書が応対した。話を聞いた秘書は、顔色が変わり、すぐ、架と父親が呼び出された。

「どういう事だ?」

父親は、詰め寄った。

「そういう事です」

架は冷たく言い放った。

「もともと、彼女と一緒になる予定だった。だけど、あなたの出世欲の為に、結婚すら、自分の思い通りに、できなくなった。自然な事だ」

「ばか言うな!莉子の親の耳に入ったら、どうするんだ?」

「どうして、莉子の親なんだ?普通、ここでは、莉子の気持ちを考えろって、言うんだろう?」

二人の会話に、突然、訪れた綾葉の祖母は、憤慨していた。

「孫が、倒れたんです。二人とも、その気遣いはないんですか?」

話は、こうだ。綾葉が、ピアノ教室で、倒れ、救急搬送された。当然、連絡のいった祖母が、聞いた話は、切迫流産の危機だと言う説明だった。妊娠しているとは、知らなかった祖母は、驚き、意識を取り戻した綾葉に、詰め寄ったとの事だった。

「相手は、あなたと聞いて、二度、驚きました。結婚の約束を破っておいて、こんな目に・・・」

「責任は、取ります」

架h、祖母に向かって言う。

「僕の子として、育てるつもりです」

「架!自分の言っている事がわかるのか?」

「わかっています」

祖母は、最初、取り乱していたが、架の言葉が、本心と思い、少しずつ、落ち着いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ